【ニッサン・e-NV200試乗】商用車譲りの実用性とEVとして十分な性能を誇るも「遊び心が無さすぎる」!?

【世界戦略車のEVモデル。長所と短所をチェック!】

「働くクルマ」の代表格といえばトラックがまず思い浮かびますが、トヨタのプロボックスやニッサンのNV200などの「商用バン」も縁の下の力持ち的な存在として見逃せません。さらに、それらのバンをベースとしたワゴンもありますが、なかなか目にされていないかもしれません。

今回紹介する「e-NV200」は、商用バンをベースとした「7人乗りのワゴン」です。「e」の冠が付く正式な「EV」ですので、プライベートでもリーフを所有している筆者としては、その性能を確認せずにはいられません。今回は、2018年にマイナーチェンジをした「e-NV200」の使い勝手や、乗り味など、気になる所を見ていきます。

●どんなクルマ?

e-NV200のベースとなるNV200は、日産が2009年に発売開始した世界戦略車です。日本以外にも、マレーシア、インド、インドネシア、南アフリカなど、アジアやアフリカでも販売されています。

サイズは全長4,560mm、全幅1,755mm、全高1,855mmと、比較的「小振りなワゴン車」の印象です。とはいえ、セレナが全長4,690mm、全幅1,695mm、全高1,865mmですから、セレナよりも全長が130mm短く、幅は60mm広いというディメンジョンです。後席を倒すと、最大で1,830mmの長尺物も積み込めるというのがe-NV200のウリの一つです。

駆動用バッテリーの容量は、2018年のマイナーチェンジで、24kWhから40kWhへと、約1.7倍ものサイズアップがなされ、一充電走行距離も190kmから300km(JC08モード)と大幅に向上。ただ、リーフ(ZE1)の40kWhだと一充電走行距離400km(JC08モード)なので、e-NV200の最大積載量550kgを入れて2.2トンにもなる重量が、電費に影響してしまっているようです。

メーカー希望小売価格は、商用バンが395万4960円〜405万4320円。乗用ワゴンは5人乗りが460万800円、7人乗りが476万2800円と結構なお値段であり、国や自治体から助成金が出ることが想定されているのでしょうが、売る気があるようには思えない価格設定となっています。

現行リーフと同じEM57型モーターを搭載。109ps・25.9kgfと控えめな数値は、e-NV200の使用シーンに合わせたチューニングが施されているということかもしれません。試乗した印象も、リーフのように「速い!」と感じることはないながらも、過不足ない滑らかな加速をしてくれます。

サスペンションは、フロントがストラット式、リアはリーフリジッド式と、商用車の方程式そのもの。リアのカーゴエリアの床面をフラットに、かつ荷物を大量に積載してもリアが沈み込まないようにするリアサス設計です。そのためリアからの突き上げが強く、どうしても気になります。7人乗りのワゴンとして後席の乗り心地は厳しいものだと感じます。

●良い所① 一充電航続距離の余裕がもたらす安心感の高さ

EVを運転するドライバーにとって、乗り心地は?ハンドリングは?と考えるだいぶ手前に、「あとどれくらい走ることができるのか?」というのが、最大の関心事です。

これは、リーフオーナーの方であれば共感していただけると思いますが、常に「航続距離」に関してのストレスが頭の片隅にあります。そのため、e-NV200への40kWhの大容量バッテリー採用は、もっとも歓迎されるアップデートの内容なのです。

さらに、バッテリー保証を8年16万kmへ延長したこともポイント。昨今の新しいバッテリーだと初期型のリーフのバッテリーほどには、劣化の速度は速くはありませんが、バッテリーは使うほどに劣化をしていきます(※筆者の2015年式リーフは現在9セグメント、充電後に走行可能距離が120kmと出ても冬場は80kmも走ることができない悲惨な状況)。

初期型リーフの発売時から懸念されていたバッテリー保証プランに関しては、手厚い加護を受けられるようにしたのは喜ばしいことです。

試乗したe-NV200は満充電直後で300kmと表示されていました。過去に、現行リーフでの満充電チェック時には「280km」という表示でしたので、その時と概ね近い値がでました。現行リーフはCJ08モードで400kmとなってはいますが、決してその通りには走ることができません。実質は300km程度と、乖離が大きくあるのです。

そのように考えると、e-NV200の実力はほぼ現行リーフに近いように考えられます。

●良い所② 家電が普通に使えるほどの電力キャパシティ

日産が「走る蓄電池」という表現をする通り、e-NV200は2つのコンセントが付いています。2カ所の最大負荷は1500W(AC100V)、目安としては、1000W×15時間ほどの電力を使うことができます。具体的には、小型掃除機が450W、電子レンジが600W、インパクトレンチが450W、扇風機が40Wですから、e-NV200の蓄電量で、十分に電源として役割を担うことができます。

電源のない場所で、電灯のような電気器具の稼働や、車中泊やアウトドアシーンでの活用、そしてニッサンが特に訴求している「災害時の給電車」として、大いに活躍できる電力のキャパシティがあります。もちろん、これまでの24kWhバッテリーのころから電源供給のコンセントはありましたが、被災地に行くだけで電力消費し、現地に着くころには「役立たずのクルマ」になりかねませんでした。その点の心配が40kWhバッテリーへの増加によってある程度緩和されるのは、今回のマイナーチェンジの一番のメリットだと言えます。

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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