珍車の宝庫! 伝説の旧車祭り「レトロモビル」にはフランスの昭和がいっぱい!!【ガラッパ!~ゲロ裏01】

その先はある意味もはや人外魔境、潰れてしまった自動車メーカーの工場やデザイナーのアトリエから発掘されたプロトタイプとか、払い下げられた元公用車といった類だ。今回のレトロモビルでいえば、まだ第三共和制当時(現在は第五共和制)のフランス大統領官邸で、迎賓用途の1896年製公用車。クルマの発明された時代と同時期の馬車で、ロシア革命で倒されたあのニコライ2世を乗せたことがあるという。

ちなみに主催者のテーマ展示は、忘れ去られかけたクルマや自動車人の功績を掘り起こすことに力が置かれているが、年々、そのカルトっぷりはエスカレートしている。数年前は「水陸両用車の100年」とか「プロペラ推進車の1世紀」というテーマが成立したほどで、今年は「ロンボイド」だった。ロンボイドとは、車輪を菱形に配置した4輪車のことだそうで、通常は左右2輪で駆動するとか。その場で360度回転が可能なことから、都市コミューターとして未来のクルマとして、色々なデザイナーが真面目に研究した時代があったのだ。

_58A5145 _58A5143

中でも白眉は、1960年式ピニンファリーナX。幾多のフェラーリのデザインで知られるあの名門も、50年代にロンボイドを手がけていたのだ。飛行機を思わせる流麗なエアロダイナミクスはさすが。他にも軽量なオールアルミ・ボディを採用した1947年のアラマニーに至っては、ルノーのエンジンチューナーとして有名なゴルディーニの工房で組まれたなど、じつはロンボイドが「通常のクルマと紙一重」のところにいたことが分かる。

_58A5112

もう一台、圧巻のオンリーワンは、フランスのインダストリアル・デザイナーであるフィリップ・シャルボノーがデザインした1950年式パテ・マルコーニ・トレーラーだ。これはテレビのなかった時代、映画製作&配給会社が宣伝車として走らせていたもので、電車かと見まごうばかりの10輪トレーラーは、ステージとなるルーフへ上るためのエレベーターが内蔵され、スピーカーなどの音響装置はもちろんレコーディングスタジオまで備えており、ゲストやスターを迎えるためのバーやラウンジスペースまであった。要はこのトレーラーが街の広場を転々と地方巡りしながら、レコードの売り上げや映画の動員を後押しした、そういう時代の産物だ。ちなみにこの青いトレーラーには、エディット・ピアフらが乗りこんでプロモーションに励んだという。

_58A5071

そうした「フランスの昭和」を求めてやってくるのは、当然フランスのお年寄りが多いわけだが、近年は孫連れや明らかに欧州以外のマニアも増えている。実際、入場チケットはインターネットで16ユーロ、当日券18ユーロで、12歳未満はタダ。クレジットカードで払ってプリンタ出力したら、あとは現地に携帯していくだけの方が安上がりだ。ただしセキュリティもあって、各チケットには使う本人の個人名が割り当てられており、現場ではパスポートなどで本人確認も要る。

2月初旬は例年、飛行機のチケットの安い時期なので、一生に一度は訪れてみることをお勧めしたいカルトなイベント、それがレトロモビルだ。

(南陽 一浩)