イグニス革新のデザイン。これはもう日本車じゃないですから(笑)

──ルーフはボディ後端まで延ばさず、スパッと斜めにカットしました

「ここはもうスタイリング優先です(笑) クロスオーバーとしてタイヤを大きく表現する一方、キャビンは小さく見せたい。軽の場合、前席からリアガラスまでの長さがカタログスペックとして必須ですが、今回はそういう制約もなかったですし。また、ここをカットしても荷室容量には直接影響がないんですよ」

──それによってできたCピラーの形状もまたアルトに準じました

「太いピラーで力強さを出しつつ、フロンテから採った軽快なクーペルックを同時に両立させてます。斜めに切ったこの形状があるからこそ、フロンテの3本ラインがちゃんと収まるわけです」

──縦・横ともナナメに切ったリアランプは、動きがあって実に特徴的です

「このクルマは、前後だけでなく上下にも大きくボディを絞っています。これはボディ断面の張りをしっかり出すためで、それを支えるタイヤはさらにグッと張り出す。実は初代のVWゴルフも同じで、絞りが大きくリアパネルは結構縦長なんですけど、やはりタイヤが張り出していて安定感がある。今回のリアランプは絞ったボディ面に沿わせ、かつ下開きの安定感のある形状にしました」

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──リアバンパーは厚みもスゴイですが、ボディ同色が一般的な中でわざわざ素材色にしましたね

「狙いはワイド感とプロテクト感です。イグニスはAセグとしては異例にコストをかけていて、たとえばリアランプを2分割構造にしています。バンパーも、ここはボディ同色に塗った方が安上がりなんですけど、あえて別材にしました。これは初期スケッチ段階からの提案ですね」

──では、そろそろまとめです。リアビューをはじめイグニスは欧州車のイメージが強く、いい意味で日本車離れしていますが、これは最初から狙ったものですか?

「狙ってましたね(笑) ラテン系だけでなく、up!などドイツ車の雰囲気もあるでしょう? 先のボディの絞りがいい例ですが、このクルマは欧州で認められること優先していますから、ある意味日本車とは考えていないんです」

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──その違いの肝はどこにあるんでしょう?

「たとえば居住空間の寸法など、カタログ値にこだわるのではなく、クルマ本来の姿を追求すると。先代のスイフトが、居住性を割り切りながらも、しっかりしたショルダーラインや塊感のある面などで欧州に認められたのがいい例です。」

──最後に、過去のモチーフを使ったことで得られたことは?

「80年代前後の、クルマのデザインが楽しかった頃の時代が一巡したかたような表現はアリだなと。単にクリーンなデザインというのではなく、そこにヘリテッジを採り入れる、あるいはアイコンを継続することで積み重ねられた魅力ある造形ですね」

(すぎもとたかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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