スバルのモータースポーツ部門であり、その活動から得た経験を市販車へとフィードバックさせ、ゆくゆくはスバルの量産車にも影響を与えるSTI。
スバル車をベースに、STIが手掛けてリリースされ車両は評判がよく、限定販売とすることが多いのですが、即完売!は“ざら”で、発表されていた時にはすでに売り切れていたという不思議な現象も珍しくないという、クルマのありがたみが稀薄になったといわれる昨今としては、稀少な存在とも言えます。
先日発表され、試乗会にお呼びいただいたスバルWRX STI(specC)をベースとした「WRX STI tS TYPE RA」も、すでに300台限定のうちNBR(ニュルブルクリンク)CHALLENGE PACKAGE(とRECARO付きのそれ)はすでに予約でいっぱい、その後、やや普通とも言える素のモデルも合わせ、生産予定の300台は予約時点で完売となり、現在はキャンセル待ちなどを望むしか無い状況です。
リセールバリューが期待できなくはないですが、多くのユーザーはそんなことより他に無い、唯一無二の楽しめるクルマと信じて、恐らく触れる事も無いままに本体だけで50o万円前後の商品を契約しちゃっているんでしょう。バブル期に800万円のNSXが大量に予約されたのとは時代も状況も違います。アベノミクス効果ってワケじゃないのは確かで、その理由が知りたくなります。
このクルマがどんなクルマかと言えば、ベース車に対してざっくり100万円程度の値上がりですですが、その追加&専用装備は足まわりや走りに関る部分だけでも以下の通りです。
●足まわり・メカニズム
☆ STI製チューニング・倒立式フロントストラット ※/☆ STI製コイルスプリング ※ / ☆ STI製チューニング・リヤダンパー ※/☆ STI製コイルスプリング ※/ ☆ STI製18インチ×8 1/2Jアルミホイール(ブラック) ※ /☆ STI製ピロボールブッシュ・リヤサスリンク(ラテラルリンクフロント内側・ラテラルリンクリヤ内側) ※ /☆ フロント・モノブロック対向6ポットブレーキキャリパー(brembo製、ゴールド塗装、STIロゴ入り) ※/ ☆ 18インチ2ピースタイプ・グルーブドディスクローター(brembo製) ※ /リヤ・対向2ポットブレーキキャリパー (brembo製、ゴールド塗装、STIロゴ入り)/☆ 17インチグルーブドディスクローター(brembo製) ※ /☆ 専用チューニング245/40R18タイヤ(ポテンザRE070) /☆ STI製フレキシブルタワーバーフロント ※ /☆ STI製フレキシブルドロースティフナーフロント ※ /☆ STI製サポートフロント ※ /☆ STI製フレキシブルドロースティフナーリヤ ※ /☆ STI製フレキシブルサポートリヤ ※ /☆ 専用クイックステアリングギヤレシオ(11:1) ※ /☆ 専用マルチモードVDC[ビークルダイナミクスコントロール]
さらりと書いてありますが、「専用クイックステアリングギアレシオ(11:1)」などはこのクルマの目玉で、なるべくハンドルを回す回転数を減らしてクイックに向きを変えてくれるようにしたものですが、モータースポーツの相当にシビアな世界でしか「交換」するようなものでないし、第一そのためのパーツなんてまともに出回っていもいません。
このように素人が手が出せないドコロか、そこらへんのプロでも余程の勇気と後先の考えナシでしか公道を走るクルマとしては変更させるようなものじゃありません。
しかも、この表の中の「※」がつく部品はキッチリ保証付きのパーツです。
そのほかにも、専用のシートやシフトノブなどが変更され、スポイラーなども装備されます。もし、パーツで揃えるとしたらこれらの装備だけで100万円くらいはすぐにオーバーしちゃいます。未使用の車両から外したパーツをヤフオクでうまく売ったとしても、これらの装備に組み替える工賃にもならないんじゃないでしょうか。
乗ってみると、明らかにノーマルとは違った乗り味に気がつきます。乗り心地もカッチリしているけどカタく感じない。どんな運転をしても4輪が地面に貼付いているような安心感があります。パーツの中の「スティッフナー」とやら聞き慣れないものが効いているようです。前述のステアリングギア比もクイックで楽しめるけど、違和感はなく仕上がっています。もちろん、速さは言うまでもありません。
こういうことができるのが、メーカー直系のある意味R&D部門だからだと想像はできますが、具体的にはなぜ安くできるのか?
それは、これらのパーツのほとんどが実際の生産時には、他の車両と同じようにラインで組み付けられるからなのです。もし、ディーラーやショップで組むとなると、その組み付け精度や保証の問題をクリアにしても大変な工数=コストとなってしまいます。これを大量生産できる場所に持っていって組んでもらってるから可能になっているコストと保証制度なのです。
もちろん、そのための制約も出てくるそうです。
例えば、「剛性を上げがっちり組み上げたサブフレームを組み付ければ今までに無い走りのスバル車ができる」と思っても、工場のラインの周辺に置けないような大きなブツは「お断り」されたりするんだとか。
特に、北米向けを始め、普通のクルマの生産が絶好調のこの時期は、少量生産のモノに付き合うのも大変だとか・・・。気持ちはわかる気がしますね。
ちなみに、そうやってある意味「特別」に、ラインで「普通」に組んでもらった工賃部分は、車両価格には反映されずに済むそうです。「メーカーから直接ホワイトボディを仕入れ、ひとつひとつ丁寧に組み上げました」という方法ではこうはならないはずです。
メーカー本体としては、そこで行った実証実験が量産モデルへフィードバックされていったり、ブランディングにも役立っているのです。
スバルというアイデンティティが比較的わかりやすいブランドだからできる事とも言えるでしょう。この良循環が続いて、より個性的なSTIバージョンが誕生し、そして他メーカーとはひと味違ったスバル車に脈々と受け継がれていく事が、クルマ好きならずともいいことであると思えるはずです。
<後半に続く>
(小林和久)
価格(税込み)
WRX STI tS TYPE RA AWD(6MT)4,410,000円
WRX STI tS TYPE RA NBR CHALLENGE PACKAGE AWD(6MT)4,830,000円
WRX STI tS TYPE RA NBR CHALLENGE PACKAGE[RECARO] AWD(6MT)5,082,000円