いま、アメリカで飲酒運転事故による死亡者数は年間1万人を超えており、いくつかの州では、飲酒運転違反者に対する再犯防止策として「アルコールイグニッションロックシステム」の搭載を義務づけています。これはドライバーが運転前にセンサーに息を吹きかけて、クサいと(アメリカの酒気帯び運転の基準値は血中アルコール濃度0.08mg/ml以上)エンジンがかからない、というもの。
このシステムでもそれなりの効果があるようで、たとえば「飲み屋から5マイル(約8キロ)を歩いて帰るハメに何度もあったよ(懲りないオレ)。でもおかげで今もピンピンしてるし、仕事も失くしてないぜ。ハッハッ!」というハッピーなオヤジのコメントをアメリカのどこかのクルマ関連サイトで読んだことがありますが、ただ、このシステムの欠陥は、ドライバーの自発的なチェックにゆだねられている点にあります。
やはりこれだけでは無法者たちはアンストッパブル! ということでアメリカの非情な研究者たちが考案したのが、「酔っぱらっているかどうかは、アンタじゃなくてクルマが決めるのだ!」というシステム。つまり、ドライバーのアルコール血中濃度をクルマに装備されたセンサーが測定し、基準値を超えていた場合はクルマが動かなくなるシステムです。
AP通信によると1月28日、米国運輸省のレイ・ラフード長官(米国トヨタリコール問題でおなじみのあのお方)が、マサチューセッツ州ウォルサムの防衛/情報請負企業、キネティック北米社の基礎研究開発施設を訪ね、この新しいシステムの初公開デモンストレーションを見学しました。
このシステムは、ドライバーのアルコール血中濃度を、車内に入るや数秒以内に測定したり、ドアロックやステアリング、スタータースイッチなどに装着したタッチセンサーに触れたとたんに検知するもので、9.11同時多発テロ以来発達してきた爆発物から出る揮発性ガスを探知するための技術を応用したものだそうです。
酒を飲んでいた同乗者にも反応するのはカンベンしてくれよとか、手袋をしていたらタッチセンサーは感知しないんじゃない? なんて、そこ、つっこまないで。これはまだ基礎研究の段階で、米国NHTSA(運輸省道路交通安全局)と世界の自動車メーカーの業界団体「交通安全のための自動車連合(Automotive Coalition for Traffic Saftey)」が、1000万ドルを共同出資して基金を設立したばかりなので、こんまいこと(細かいこと)はこれから詰めていくぜよ、なのです。
また、1月13日付のワシントンポスト紙によると、この研究プロジェクトについて、米国ビッグ3と米国トヨタ、北米日産、独フォルクスワーゲンの6社が正会員となる米国自動車工業会の副会長ロバート・ストラスバーガー氏が「ここ5年から7年の間に、すべての新車に実装可能となるでしょう。他の安全システムと同様のラインで組み込まれていくので、コストは比較的抑えることができる見込みです。2年以内に試験運転をはじめたい」とコメントしています。
これは、とても重要なポイントですね。「飲酒運転防止カー」なんて対岸の火事とせせら笑っていた潜在的飲酒運転違反者のあなた、甘いぜよ。これだけのアメリカの大手自動車メーカーたちがマジで取り組むということは、いずれはこの仕様が世界標準になる可能性がとても高いということです。
前出のラフード長官は、この防止システムはオプション仕様とすることが望ましいと慎重な態度を強調していますので、すべての新車に強制的に装備される日はまだ遠いのかもしれません。しかし今後、実用化に向けての過程で、さまざまな課題の検討、議論が重ねられていくことになるでしょう。
もちろん私は、この飲酒運転防止システムの導入、大歓迎です。この機会に開発関連メーカーにこっそり株式投資をして10年後にひと財産、をもくろんでいるからです。
研究所の20代の女性が、1オンス半のウォッカとオレンジジュースを1杯ずつ、チーズやクラッカーを食べながら30分の間隔をあけて飲んだあとで測定。測定された血中アルコール濃度は0.6mg/mlだった。この場合、エンジンはスタートできる。
(kusu@napo)