■1963年生まれのアラシス(60歳前後)は新フェラーリをどう見るか?
フェラーリの新型である「ローマ」は日本でも初披露され、それを見学するために原宿のシャレオツなスタジオに出向いてきました。
なにしろ私は1963年生まれのどっぷりスーパーカー世代。ちっちゃなカメラを持っては毎日のように環八の外車販売店に向かい、スーパーカーがやってくるのを待ち構えていたのです……まあ、その話は別の機会にするとして、そんなスーパーカー世代の私が見たフェラーリの新型車対する感想です。
スーパーカーブームのころのトップ・オブ・スーパーカーは、フェラーリなら365(のちに512)BB、ランボルギーニならカウンタックでした。
真実はどうあれ、カウンタックが時速300kmだとか、BBが時速302kmだとか最高速でどっちが最強なのかは子供心をくすぐったものなのです。友達の誰もがBB派、カウンタック派のどちらかになってくると、アマノジャクな私はなにか別のモデルを探すわけです。そうしたなかで出会ったのが「デイトナ」というモデルでした。
デイトナの正式名称はGTB/4ですが、ニックネームとしてデイトナが与えられていました。最初、デイトナの意味はわからず、なんとなくカッコイイものだと思っていました。まあ、子供が車名の意味なんてそんな気にしないものですよね。
フェラーリの車名は基本的にアルファベットと数字を組み合わせた記号的なものなのですが、ときどき固有名詞が登場します。
そのなかで有名なのは、フェラーリの創業者であるエンツォ・フェラーリの息子の名前を冠した「ディーノ」でしょう。そして、意外なほど多いのが地名なのです。前出の「デイトナ」や「カリフォルニア」はアメリカの地名、「モンツァ」「マラネロ」そして今回登場した「ローマ」はイタリアの地名です。
イタリアの自動車メーカーであるフェラーリがアメリカの地名を使っているのは、アメリカが最大のマーケットであり、そのアメリカに向けてのマーケティングなのでしょう。
私達はあなた達のためにクルマを作り、あなた達のために車名をつけました、という明らかなメッセージを感じ取ることができますが、イタリアの地名がついたモデルは「どうだ、これこそが我々のクルマだ」という感じがするのです……あくまでも感じなんですけどね。
そして今回のローマ。イタリアンだなあ、というよりはなんだかすごくアメリカを意識したモデルに感じました。
ボディカラーがシルバーとブルーの中間のような色だったのもひとつの要因だと思うのですが、圧倒的なロングノーズによるパッケージング、そしてフロントフェンダーの膨らみ感、シャークノーズと言われる逆スラントのフィニッシュなどがそうした印象を与えるのでしょう。
とくにそのロングノーズたるや、まるで3代目コルベットのようです。3代目コルベットはヘッドライトとバンパーがロングノーズの起因でしたが、このローマはエンジンをグッと後退させフロントミッドシップを実現。エアクリーナーなどをフロント側に配置しています。
コルベットに比べればずっと理にかなったレイアウトで知的な雰囲気です。搭載されるエンジンは3.9リットルの90度V8で最高出力は620馬力、最大トルクは760Nmにもなります。
スーパーカー少年があこがれた365BBは385馬力、512BBは360馬力だったことを考えると夢のようなエンジンです。
コクピットに目をやるとステアリングの奥には液晶メーターが鎮座しています。今やレーシングカーでも液晶メーターを使うのは当たり前なので、ローマのメーターが液晶表示となるのは当然のこと。センターコンソールにあるモニターも液晶となっています。
メーター内にはナビゲーション情報も表示されるようになっていて、ドライビングをイージーにしています。そして、ふと見るとセンターコンソールのモニター下側になにやらシフトゲートのようなものがを発見。ローマは8速DTCの2ペダルなので、シフトゲートは必要ありません。
これはかつてのフェラーリ車MTモデルのシフトゲートをモチーフにしてシフトポジションセレクターなのです。こうしたちょっとした遊び心がスーパーカー世代にはたまらないものとなるのです。
中学を卒業するころ、同級生と「免許を取ったらどのクルマで集合しようか」と相談したのを思い出しながら、子供時代の夢は大切だなと痛感したフェラーリ・ローマの撮影会。
いまだにフェラーリもランボルギーニも持ってないけど、たまにこうして触れられるだけでもちょっと幸せな生活ができているな、とコロナ自粛後初の外出取材で感じたアラシスでした。
(文・諸星陽一/写真・小林和久)