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■「使う時or使わない時」を実例も交え検証
今や、多くのクルマに採用されているアイドリングストップ機構。停車中のアイドリングを停止することで、燃費の向上や排出ガスの抑制などに効果があります。
しかし、慣れない人などにとっては、この機構が作動することで交通の流れに上手く乗れなっかったり、場合によっては危険な時さえあります。
ここでは、そういったアイドリングストップを「使わない」方がいい幾つかのケースと対策法について、筆者の体験を交えながら検証していきます。
●低燃費や環境対策、減税などがメリット
アイドリングストップとは、信号待ちなどの停車時にエンジンを自動停止し、発進操作を検知して再始動するシステムです。今や多くの方がご存じですよね。
アイドリング中に消費する不用な燃料を抑えることで燃費性能の向上と排出ガスの量を抑制、また新車を購入した場合はエコカー減税の対象になるため、節税効果も期待できるというメリットもあります。
最近は一部の商用車やスポーツカーを除いて多くのメーカーがこの機能を採用しています。
メーカーによって、例えばトヨタは「ストップ&スタートシステム」、マツダは「アイストップ」、三菱は「オートストップ&ゴー」と名称に違いがありますが、基本的な機能はほぼ同じです。
実燃費に近いWLTCモード燃費でも効果は実証されています。例えばトヨタ・アルファードの2.5Lガソリン車の場合、カタログに記載されているWLTCモード燃費は、アイドリングストップなし仕様が10.8km/hなのに対し、あり仕様は11.4km/h。「あり」と「なし」では、燃費に差が出るのは事実なのです。
●再始動時のタイムラグで焦るなどデメリットも
良いこと尽くめのようなアイドリングストップ機能ですが、実は慣れていない人などにとっては困ることもあるようです。
実際、筆者も慣れるまではそうでした。約6年前に中古で購入したマツダ・CX-5(初期型2.0Lディーゼル車)で初めてアイドリングストップ搭載車を所有しましたが、日常での運転では慣れるまで少し戸惑うこともありました。
まず、信号待ちから再発進する時。一旦停止したエンジンは信号が青になった時にブレーキペダルを緩めれば再始動しますが、発進のタイミングが一瞬遅れるのにちょっとした違和感を持ちました。
また、片側1車線で右折専用レーンや右折用信号がない交差点で右折する際も、対向車がいなくなったタイミングでエンジンを再始動すると曲がるタイミングがうまく掴めなかったこともあります。
特に、対向車線が渋滞している場合は、クルマの影から歩行者や自転車が出てこないかなど安全を確認しながら、スムーズに曲がる必要があります。
慣れないと「エンジン再始動」という動作や時間が増えた分、全体の操作に余裕がなくなることがあるためです。
そのため筆者は、信号待ちや右折時は(停止した状態を保ちながら)ブレーキを少しだけ緩めるタイミングを少し早めることで、エンジン再始動を早めに行うことにしています。
例えば、右折時は、ブレーキを少しゆるめてエンジンを再始動させる動作を、対向車が途切れてからでなく、途切れる少し前に行うイメージです。その後、歩行者などを発見して曲がれなくても、「いつでも曲がる操作ができる」という心理的余裕が生まれます。
特に、渋滞路の右折では、安全かつスムーズに進まないと渋滞を増やす原因にもなります。多少エンジン停止時間が少なくなり燃費に影響が出たとしても(経験上は、実際にはさほど差はないですが)、交通の円滑な流れを優先させるようにしています。
●焦ることで危険な場合もある
アイドリングストップに慣れない人の中には、「エンジン再始動」の動作や時間が増えることが、心理的な負担になることもあるようです。
例えば、知り合いの女性(40歳代)は、やはりSUVタイプのクルマに乗っていて、市街地走行がメイン。主に、近所のスーパーマーケットなどへの買い物などに使っています。
そしてこの方も、片側1車線道路での右折時や道路右側(反対車線側)にあるコンビニなどの施設に入る場合に、「アイドリングストップ機能で困ることが多い」といいます。
普段買い物程度にしかクルマに乗らないため、そもそもが運転操作にあまり自信がないことに加え、エンジンの再始動で動き出しのタイミングが一瞬遅れることで、運転がもたついてしまうためです。
実際に、なかなか曲がれず、後続車にクラクションを鳴らされたこともあり、「慌ててしまって、つい急いでしまう」そうです。運転中に焦ると、事故も起こしやすくて危険ですよね。
この方は、ほかにも細い道路で対向車と離合する場合も困ることがあるといいます。
対向車が通り過ぎるのを待って再発進する際にアイドリングストップ機能が作動、エンジンを再始動することで発進が遅れたため、なかなか先に進めないことで慌て、クルマのドアミラーを電柱にぶつけてしまったこともあったといいます。
そこで、この方の場合は、走行する際はまずアイドリングストップ機能を予めキャンセルしているそうです。その方が右折時などでタイムラグやアクションが減るため、運転に余裕を持つことができるのだといいます。
●バッテリーの寿命にも悪い?
ご存じの通り、アイドリングストップ車には、どんな車種にもキャンセルスイッチが付いていて機能をオフにすることができます。
個人的には、前述の女性のように、慣れないために安全な走行ができないという人の場合は、「使わない」という選択肢もありだと思います。
また、渋滞路などで頻繁にエンジン停止と再始動を繰り返すことは、バッテリーにとっても負担が大きくなり、寿命が短くなる場合もあります。
特に、アイドリングストップ車に搭載されているバッテリーは、通常のタイプより大型でクイックチャージ機能なども付いているために高価です。バッテリーは、通常2〜3年が寿命だといわれますが、交換サイクルが思ったよりも早い場合は低燃費によるガソリン代節約よりも、高くつくこともあります。
さらに、バッテリー上がりの心配もあります。例えば、長期間クルマに乗らなかったなどでバッテリーの電圧が下がってしまった時。特に、冬場や夏場にはよくある現象です。
今のクルマは、そういった場合にアイドリングストップ機能は自動で停止し、ある程度バッテリーが充電されると機能は復活します。
筆者が乗っているCX-5の場合、マツダのディーラーによると「バッテリーが満充電から約70%以下の場合はアイドリングストップが作動せず、70%を超えると復活する」そうです。
でも、そういった状態を繰り返すとバッテリーの負担は大きくなり、劣化が激しくなることでバッテリーが上がってしまうこともあります。ディーラーによると、そういった時は一度バッテリーを満充電にする方がいいといいます。
バッテリーを満充電にするには、ディーラーなどに車両を持ち込むか、バッテリーチャージャーを購入し約1日程度かけて充電するのが一番です。
なかなかそんな時間がない方の場合は、走行中にもバッテリーは充電するため、アイドリングストップ機能をキャンセルしてしばらく走行するのも手ですが、その場合もバッテリーチェッカーなどで、満充電になったかどうかを確認する必要があります。
●坂道など使わない方がいい場合
ロードサービスを展開するJAFでは、交差点などでのアイドリングストップの注意点について以下のようなことを挙げています。
・エアバッグなどの安全装置が機能しないので、先頭車両付近ではアイドリングストップをしない
・坂道ではアイドリングストップをしない
・アイドリングストップ中に何度かブレーキを踏むとブレーキが利きにくくなる
・慣れないと誤操作や発進遅れの可能性がある
・バッテリー上がりによりエンジンが再始動しない場合がある
・頻繁に行うと部品寿命(スターター、バッテリーなど)が短くなる
・方向指示器、ワイパーが作動しない場合がある
・電子機器の始動に数秒かかる
上記の中でも特に注意したいことのひとつが、坂道でのアイドリングストップ。再始動時にペダルを踏み換える際に一瞬クルマが後退してしまうことがあるのです。
最近は、坂道での後退を防ぐヒルスタートアシスト機能を採用する車種も増えて来ていますが、自分のクルマに搭載されているかは要確認です。
●トヨタの新型車には機能不採用の車種も
ちなみに、トヨタではヤリスやカローラなど最近発売したモデルに、アイドリングストップ機能を搭載していない例もあります。
特に、ヤリスはWLTCモード総合でハイブリッド車が36.0km/Lという驚きの低燃費を実現したクルマ。1.5Lガソリン車でもWLTCモード総合で21.4〜21.6km/L(グレードにより変わる)を達成しています。
恐らく、上記のようなデメリットやアイドリングストップ機能を付けることで車両価格が上がることを考慮した結果ではないでしょうか。
いずれにしろ、アイドリングストップ機能は万能といわけではありません。その特性を十分理解した上で使うことが大切だといえるでしょう。
(文:平塚直樹/写真:トヨタ自動車、平塚直樹)