■歴代ファイアーブレードを振り返る
初代CBR900RRファイアーブレードが登場したのは、レーサーレプリカ全盛期のピークを過ぎたとはいえ、まだまだ名残がある1992年でした。しかし、フルカウルをまとい、ライディングポジションもかなりの前傾姿勢を強いられるこのモデルはレーサーレプリカではありません。
当時のスーパーバイクは750ccの四気筒か1000ccの二気筒。CBR900RRはフロントタイヤが16インチで、まるでミドルクラスのレーサーレプリカのようなディメンションと軽さ、750ccスーパーバイクを上まわるほどの動力性能を持っていながら、サーキットでレースをするようなモデルではありませんでした。これは新しい世界観のバイクだったのです。
当時オーバーリッタークラスのバイクはツアラー色の強いモデルが主流でした。この当時は大型バイクの最高速性能もまたバイクファンに注目されていた大きな要素でしたが、最高速という点ではCBR900RRより速いバイクも存在しました。そういった最高速ランナーとは一線を画す軽快で鋭い運動性能がありながらレーサーレプリカでもない、でも、もし公道でバトルをしたらいちばん速いんじゃないか……。CBR900RRには、正当な陸上競技の選手でも格闘技の選手でもない“ケンカ最強”みたいな雰囲気があったものです。
実際、1990年代中頃にドイツ・ニュルブルクリンクの北コースでは、とんでもないスピードでカッ飛ばしているバイクがいると思えばCBR900RRだった、なんていうことがよくありました。1990年代、そんなファイアーブレードに憧れと畏怖をいだいていたスポーツバイク好きは多かったのではないでしょうか。
このあと、CBR900RRをライバルとして、ヤマハからはYZF1000Rが、カワサキからはZX-9Rが登場します。いつごろからかはわかりませんが、この900〜1000ccの、ツアラーでもなくレーサーレプリカでもないフルカウルの高機動バイクは『スーパースポーツ』というカテゴリーでくくられるようになりました。『スーパースポーツ』を『SS』と省略してバイク雑誌には『リッターSS』などとも書かれていました。CBR900RRが作り上げたジャンルです。
その後CBR900RRもモデルチェンジを受け、正常進化を重ねてきましたが、1998年に大きな転換期が訪れました。ヤマハYZF-R1の登場です。ターゲットはサーキットではなくあくまでもワインディングロード。これまでのリッターSSとは異なるシャープで軽快なデザイン。軽量なボディにパワフルなエンジン、ロングスイングアーム。YZF-R1は、CBR900RRが確立したこのジャンルを、ひとつ上の次元に引き上げました。
とうぜんCBR900RRもそれに呼応するかたちで大幅な進化を遂げました。2000年代には排気量が929cc、954ccと増えていき、929RR、954RRなどとも呼ばれました。そして車体は軽量化が進み、初代モデルより乾燥重量は10kg以上軽くなりました。“公道最速”の座を争ってリッターSSがしのぎを削った時代です。
2004年、ファイアーブレードにとって、もうひとつの大きな転機が訪れました。レースにおけるスーパーバイクのレギュレーション変更です。それまでは、750ccの四気筒か1000ccの二気筒とされており、ホンダはVTR1000SP-1/2を使っていたのですが、この年から4気筒も1000ccまで認められるようになったのです。ファイアーブレードがレースベース車になったのがこのときからでした。
排気量は998ccにまで拡大され、CBR1000RRという名前に変わりました。“ケンカ最強”が正統派格闘技の世界にデビューしたのです。
それから15年、CBR1000RRは公道での楽しさと同時に、サーキットでの速さを追求する形で進化してきました。最先端の技術を次から次へと盛り込み、その時代の究極といえるバイクでありつづけています。
今回、新型CBR1000RR-Rの新車撮影会に合わせて、過去のモデルも撮影する機会があったので、その歴史を振り返ってみました。新型CBR1000RR-Rの紹介は前回までの記事をどうぞ。
(撮影:澤田優樹)
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