●白熱の戦いだからこそ導入された、「感覚に頼らない」採点システム・DOSS
2019年からD1GPでは追走の審査にも本格的にDOSSが導入されました。DOSSというのは「D1オリジナル・スコアリング・システム」の略で、「ドス」と読みます。単走の審査では2013年からすでに使われてきた機械審査システムです。
clicccarでも、過去に「見た目を競うドリフト競技の審査しているのは、実は機械! 将来の問題点は?【D1GP】」という記事や、「国際ドリフト杯は人間が審査! これからのドリフトの審査方法を考える【FIA IDC】」という記事でこのDOSSにふれてきましたが、今回はあらためて、このDOSSがどうやってドリフトを審査しているのかを紹介しましょう。
まず、DOSSでは、出走車両全車に計測器を取り付けます。計測器にはGPSと角速度センサー(ヨーレイトセンサー)が搭載されています。GPSはご存じのとおりカーナビやスマホに使われている位置情報を取得できるセンサーですね。この位置情報の変化と計測された時刻がわかれば、車速も割り出せますし、その変化を調べればG(加速度)も算出できます。GPSセンサーはルーフ上に装着されます。
角速度センサーは、車両が向きを変えたときに、その向きを変える速さを検出する装置です。これも向きを変える速さと時間の経過から、角度そのものも算出できます。角速度センサーはDOSSの本体ユニットの中に入っています。この本体ユニットは車室内に、指定の方法で装着することになっています。
そして、GPSと角速度センサーから得られた情報は、無線で計時係のコンピューターへ伝えられるようになっています。D1車両のルーフ上にあるシャークフィン型のアンテナはその無線のアンテナです。
そして、送られてきたGPSと角速度センサーの情報をもとに、コンピューターで得点を算出するのですが、採点する要素は「最高速」「角度」「角度の安定性」「区間平均速度」「振りの躍動性」「角度変化の速さ」です。といっても、審査区間のセクターによって、採点する項目は変わります。
まず、DOSSを使う場合は審査区間を最大で5つのセクターに分けます。そのなかで、通常はもっとも車速が上がるセクターで「最高速」を計測します。セクターの分かれ目はコース脇にボードを立ててわかるようにしています。
そして、すべてのセクターを「振り出し/振り返し区間」か「ドリフト区間」のどちらかに分類します。文字どおり、グリップ走行からドリフトを開始するセクターや、振り返しをするセクターは「振り出し/振り返し区間」に分類し、同じ方向にドリフトを続けるセクターは「ドリフト区間」に分類します。
「振り出し/振り返し区間」で審査するのは、「区間平均速度」と「振りの躍動性」「角度変化の速さ」です。ちなみに「振りの躍動性」というのはGの大きさで計測し、小さい逆振りを入れるなど、横方向にクイックな動きを見せると点が高くなります。
「ドリフト区間」で審査するのは、「角度」「角度の安定性」「平均速度」です。「角度の安定性」というのは、角度の変化の度合いを計測し、フラつきが大きいと減点されます。
「振り出し/振り返し区間」「ドリフト区間」それぞれで、以上のデータを独自のアルゴリズムで計算して、セクターごとの得点を算出します。また、人間の見た目のカッコよさからセクターごとの点数配分が決められます。だいたい最初の振り出し区間とその先あたりがもっとも配分の高いセクターになります。
なお、過去のデータや事前テストのデータをもとに最高点が100点ぐらいになるように難易度は調整するのですが、予想よりもすごい走りをすると100点超えも出ます。
データ量が多すぎるので一般には公開されていませんが、チーム関係者はスポッター席にあるモニターで、このようにDOSSの採点の内訳を見ることができます。
というふうにしてドリフトを採点するのがDOSSなんですが、困ったことがあります。コースアウトまでは機械では判定できないんですね。そこでコースアウトは人間の審判員が判定します。また今年からは通過指定ゾーンも設定されるようになりましたが、その判定も人間が行います。そんな感じで、ある程度は人間が補完してやらないといけません。
DOSSを使う最大のメリットは、以前にも書いたことがありますが、人間の審査員で起こりがちな採点のブレや贔屓がないことです。とはいえ問題もあります。それが第4戦では少々出てしまいました。