自動車用トランスミッションの大手、ZF社から世界初の乗用車向け9速オートマチック・トランスミッションが登場。
現時点の大量生産モデルでいえば、FR系の縦置きミッションとしては8速、FF系の横置きミッションとしては7速が知られているところ。前者はステップAT、後者はDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)と仕組みは異なるものの、いずれもオートマチック・トランスミッション。
さて、ZFが開発したという世界初の9速ATはトルクコンバータを使ったステップAT。技術的には、従来型6速ATの延長線にあるということですが、だからといって、それほど大きくも重くもなっていないといいます。
つまり、これまでと同じパッケージで搭載できるというわけで、これはかなり注目の新型ATといえます。
発表されているサイズは、トルク容量で280Nmと480Nmのふたつ。ここから予想すると過給された2リッター程度のガソリンエンジンから3リッター級ディーゼルターボまで幅広いエンジンに対応することが可能でしょう。
またアイドリングストップやマイルドハイブリッドとのマッチングも意識した設計になっているというのも、いかにもいまどきのミッションというところ。
ところでミッションを多段化するメリットはふたつ。
ひとつはギア比を細かく刻むことでエンジン回転のスイートスポットを外さないこと。
もうひとつが、ギア比の幅を広くすること。
これにより発進時にはより低いギアとすることでエンジンに無理をさせるこなく、高速巡航では高いギアにより低回転で巡航できるようになります。
エンジンのスイートスポットをキープするという点においては、連続可変のCVTが理想型のひとつといえますが、ステップATであっても9段ものギアが刻んであれば遜色ないレベルといえそう。さらにトルコンも組み合わさっているので微妙なコントロールも可能と期待できます。
そして何よりも評価すべきと思えるのが、ギア比の幅(レシオカバレッジ)が広いこと。
変速比幅とも呼ばれるローギアとハイギアの比率は、発表によればなんと9.84。
先日、紹介したLukのハイバリューCVTで8.4、またマジェスタなどに搭載される8速ATは6.71となっています。
9.84という数字がどれほど大きいことか!
これによるトップギアのハイギアード化は、120km/h巡航時のエンジン回転数が6速ATで2600rpmだった場合に、この9速ATにすると1900rpmまで下げることができるといいます。そして、こうしたレシオカバレッジの拡大による燃費改善効果は16%とのこと。
伝達ロスの少なさでDCTが次世代ミッションの中では有力視されている面もありますが、DCTは多段化するほどに重くなってしまうという欠点もあり。
しかし、遊星ギアを組み合わせたタイプは、うまくするとそれほど重量を増やさずにギア数を増やすことが可能なのは、この9速ATが示す通り。
ZFの9速AT、ステップATの逆襲といえる意欲作。
次世代ミッションのトレンドがステップATとなるかもしれません、要注目です。
(山本晋也)