スバル「クロストレック」ついにFFモデルも登場。4代目となったミドルクラス・クロスオーバーSUVの進化と魅力を探ってみた【スバル・クロストレックとは?】

■スバル・クロストレックの歴史/インプレッサXVから始まったボクサーエンジンSUV

クロストレックのフロントスタイル
クロストレックのフロントスタイル

スバル・クロストレックは2010年に登場したインプレッサXVからその歴史がスタートします。この2010年のモデルは北米では「クロストレック」のネーミングで発売されています。

インプレッサXVのネーミングからもわかるとおり、インプレッサをベースとしたクロスオーバーSUVです。

初代となるインプレッサXVには、1.5リットルのDOHC4気筒、2リットルのOHC4気筒が搭載されました。もちろんどちらも水平対向エンジンで、4WDのほかFFも用意されました。

インプレッサXV
インプレッサXV

インプレッサXVは2012年にフルモデルチェンジを受けて2代目に移行します。

インプレッサXVから数えて2代目となるXV
インプレッサXVから数えて2代目となるXV

2代目では車名がスバルXVとなり、インプレッサの名が外されます。発表当時のパワーユニットは2リットルDOHC4気筒のみで、駆動方式も4WDのみでした。

2013年にはモーターを追加したハイブリッドモデルを設定します。

2017年には2度目のフルモデルチェンジを受けます。車名はスバルXVのままです。

パワーユニットは1.6リットルDOHC4気筒と、2リットルDOHC4気筒の2種。駆動方式も4WDのみです。2018年には2リットルエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドモデルを設定します。

2019年の改良では2リットルのピュアエンジンモデルを廃止、2リットルモデルはハイブリッドのみとなります。

インプレッサXVから数えて3代目となるXV
インプレッサXVから数えて3代目となるXV

2022年に3度目のフルモデルチェンジを行い、車名を北米モデルと同じクロストレックとします。

パワーユニットは2リットルDOHC4気筒にモーターを組み合わせたハイブリッドのみ。従来モデルと大きく異なるのは、初めてFFモデルが設定されたことです。もちろん4WDも用意されます。


●スバル・クロストレックの基本概要 パッケージング/プラットフォームは先代モデルのキャリーオーバーでサイズも先代に準じる

引き続きスバルグローバルプラットフォーム(SGP)が採用されたクロストレック
引き続きスバルグローバルプラットフォーム(SGP)が採用されたクロストレック

クロストレックは先代モデルにあたるXVでも採用されたスバルグローバルプラットフォーム(SGP)を引き続き使用しています。ホイールベースはXVからの変更はなく、室内寸法についても大きな変更は行われていません。

従来型では総延長で7m程度であったウエルボンド(構造用接着剤)の使用範囲を30m級に拡大。サスペンション取り付け部の剛性も向上されています。

従来のSGPはアッパーボディとアンダーボディを別々に組みたててから接合していたのですが、新型ではボディ全体の骨格部材を強固に組み立ててから、外板パネルを溶接する「フルインナーフレーム構造」を採用することで、ボディのさらなる高剛性化と軽量化を実現しているといいます。

クロストレックのフロントスタイル
クロストレックのフロントスタイル

ルーフパネルとブレースの間には高減衰マスチック(弾性接着剤)と呼ばれる、振動の吸収性が高く制振性に優れた手法を採用。ルーフの振動の騒音を低減するとともに車内音の収束性が向上しています。

クロストレックのフロントシート
クロストレックのフロントシート

シートも新設計されました。新しいシートは仙骨を押さえて骨盤を支える構造で、車体の揺れが頭部に伝わることを防止し、安定したドライビングポジションを確保します。

シートそのものの構造だけでなく、従来ブラケットを介していた取り付け方法を直付けに変更し、取り付け剛性もアップされています。

クロストレックのリヤシート
クロストレックのリヤシート

ラゲッジルーム容量は定員乗車時で319リットルを確保。定員乗車状態で745×495×275(mm)のスーツケースを3個、もしくは46インチのドライバーシャフトが収納できる9インチのゴルフバッグを3個搭載可能。

後席をすべて前倒しとしたフルラゲッジ状態では926リットル(サブトランク4リットルを含む)を確保しています。

●スバル・クロストレックの基本概要 メカニズム/2リットルハイブリッドに統一されたパワートレイン

クロストレックのエンジンルーム
クロストレックのエンジンルーム

先代にあたるXVには1.6リットルモデルも設定されていましたが、新型となったクロストレックは2リットルのハイブリッドモデルのみの設定となりました。

エンジンはスバル伝統の水平対向で、直噴4気筒DOHCとなります。この2リットルエンジンは最高出力145馬力・最大トルク188Nmを発生します。

ハイブリッド用に組み合わされるモーターは13.6馬力/65Nmと低めの出力。動力用バッテリーはリチウムイオンで32セルの直列配置です。リチウムイオン1セルの電圧は3.7Vなので、この動力用バッテリーの電圧は118Vとなります。バッテリー容量は4.8Ahとなっているので、kWhでは0.57kWhとなり、かなり小さいバッテリーであることがわかります。

クロストレックのミッションとモーター。左側がエンジンで、トルクコンバーター、CVT、モーターという順
クロストレックのミッションとモーター。左側がエンジンで、トルクコンバーター、CVT、モーターという順
バッテリーはリヤアクスル後方に配置される
バッテリーはリヤアクスル後方に配置される

従来は4WDのみであった駆動方式ですが、今回のモデルからFFも加わりました。

4WDはアクティブトルクスプリットAWDと言われるものです。アクティブトルクスプリットAWDは、前後の基本トルク配分が60対40で、湿式多板クラッチを用いて約100対0~50対50までを変化させる機構です。

ミッションはFF、4WDともに金属チェーン式CVTのリニアトロニックとなります。

スバルと言えば衝突安全機構のアイサイトが大きなアピールポイントですが、このアイサイトについても改良が行われ、ステレオカメラに加えて広角の単眼カメラが組み合わされたものとなりました。

3眼方式となったアイサイトのカメラ
3眼方式となったアイサイトのカメラ

ステレオカメラは従来型に比べて画角が約2倍に拡大。画像認識ソフトや制御ソフトも改良されより広く遠い範囲までの認識が可能となりました。

さらに従来は国内仕様への採用はなかった広角単眼カメラを追加装備。二輪車や歩行者を認識できるようになり、プリクラッシュブレーキで対応できるシチュエーションを拡大し、歴代アイサイトとして最高の性能となったといいます。

●スバル・クロストレックのデザイン/スバルらしいデザインを踏襲したクロスオーバーSUV

クロストレックの正面スタイリング
クロストレックの正面スタイリング

基本のスタイルはクロスオーバーSUVらしさが強調されたもので、オンオフともにマッチングするものとなっています。

フロントスタイルは大型化されたグリルが目を引きます。グリル全体は六角形で、そのなかに小さな六角形が6つちりばめられています。グリル上部には弓状のメッキバーが配され、その中心にはスバルの象徴である六連星のエンブレムが装着されています。

サイドビューは塊感のあるキャビンと伸びやかなラインで構成されるノーズが特徴的です。Aピラー上端部をトップにリヤハッチに向かってゆっくりと傾斜していくルーフはそのままではオンロード雰囲気、オプションのルーフレールを取り付けるとオフロードの雰囲気がグッとアップします。

クラッディングと呼ばれる黒い樹脂パーツの採用部位が増えたことで、全体的に力強く躍動感が増していることも重要なポイントです。

クロストレックサイドスタイリング
クロストレックサイドスタイリング
クロストレック真後ろスタイリング
クロストレック真後ろスタイリング

Cシェイプのテールランプが先代との大きな相違点となるのがリヤスタイルです。

バンパー下部にはクラッディングのディフューザーが装備されます。ハッチ下部のライセンスプレート周囲は六角形のプレス装飾が行われ、フロントまわりとの共通性が持たされています。

クロストレックのインパネ
クロストレックのインパネ

インテリアでは、ダッシュボードの中央には大型の縦型モニターを配置。その左右に縦型台形のエアコン吹き出し口を配置するこで、センター部分を六角形に見せるようにしています。

フロアコンソールやドアトリムなども直線で構成されます。

上級グレードのシートはファブリックにシルバーステッチを施したもの、標準グレードはトリコットにシルバーステッチを施したものとなります。

オプションとして革シートも設定。革シートはブラック&グレーの2トーンでシルバーステッチとなります。

●スバル・クロストレックの走り/普段使いでも使いやすいサイズとパワー感

クロストレックの走行シーン
クロストレックの走行シーン

SUVというとクロスカントリー4WDのように、ガレ場などをノソノソと走ることに長けたクルマというイメージがついてまわります。

クロストレックもX-MODEというクロカンよりの走行モードがあり、そうした道を走ることも考慮されていますが、それ以上にオンロードでの走りが素晴らしいことが特徴でした。

考えてみれば日本では舗装されていない道はほとんどなく、未舗装路といえば工事中の道であったり、数少ないクルマで入れる河原、キャンプ場の中など限られた場所です。そうなると圧倒的に大切なのはオンロードの性能ということになります。

クロストレックに乗ってみるとまずはワゴン的な乗り味であることに感心させられます。スバルはレオーネ・スイングバックの時代からリヤハッチ式のボディに注力、ご存じのように大ヒットモデルとなったレガシィからレヴォーグまで、ワゴンには多くの見識があるメーカーです。

リミテッドは18インチのタイヤ&ホイールを装着する
リミテッドは18インチのタイヤ&ホイールを装着する

クロスオーバーSUVというある程度車高があり、ヒップポイント、アイポイントともに高めのパッケージングですが、乗っていると腰高感はなく、重心高が低い印象です。

水平対向エンジンというレイアウトもこれに寄与しているのですが、それだけではなくサスペンションのセッティングなども上手なのでしょう。

クロストレックのパワーユニットはハイブリッドではありますが、モーターのスペックは13.6馬力/65Nmときわめて低く、マイルドハイブリッド的な存在です。

マイルドハイブリッドと異なるのは、発進時にモーターのみで作動するということで、これがスムーズな発進に寄与しています。また加速時にもモーターアシストは働きますが、モーターが付いたことで飛躍的に加速感が強くなったという印象までにはなりません。

左側の黒いシャフトがステアリングホイールにつながる。右側はモーターアシスト部分
左側の黒いシャフトがステアリングホイールにつながる。右側はモーターアシスト部分

今回のフルモデルチェンジではパワーステアリングが2ピニオン式となりました。

従来のパワーステアリングはステアリングホイール(ハンドル)とステアリング機構をつないでいる軸を直接アシストしていましたが、2ピニオン式ではステアリングラックの別の位置にピニオンギヤを取り付けてアシストします。

ステアリングの反応がよくなるとともに、手応えに違和感がなく扱いやすいものとなり、ハンドリングの正確さも増しています。

●スバル・クロストレックのラインアップと価格/250万~300万円に収まる買いやすい価格設定

全7色のボディカラーが選べるクロストレック
全7色のボディカラーが選べるクロストレック

新型クロストレックのラインアップはじつにシンプルです。パワーユニットは2リットルのハイブリッドのみ、ミッションはCVTのみ、駆動方式はFFと4WDの2タイプです。

グレードは標準タイプとなるツーリングと、上級タイプのリミテッドで、バリエーション&価格は以下のようになります。
・ツーリング FF:242万円
・ツーリング 4WD:262万円
・リミテッド FF:279万円
・リミテッド 4WD:299万円

つまり、ツーリングとリミテッドの価格差は37万円。FFと4WDの価格差は20万円ということになります。

クロストレックのリヤスタイル
クロストレックのリヤスタイル

ボディカラーは以下のバリエーションで、すべてのグレードですべてのボディカラーを選ぶことができます。
・クリスタルホワイト・パール(オプション、3万3000円高)
・アイシスシルバー・メタリック
・マグネタイトグレー・メタリック
・クリスタルブラック・シリカ
・ピュアレッド
・サファイアブルー・パール
・ホライゾンブルー・パール
・オアシスブルー(オプション、3万3000円高)
・オフショアブルー・メタリック(オプション、3万3000円高)

●スバル・クロストレックのまとめ/日本の道路事情にもマッチ SUVを買いたい方は検討の価値あり

クロストレックの走行シーン
クロストレックの走行シーン

スバルのSUVラインアップは、もっとも大きなモデルが北米と南米を中心に販売しているアセント、ついでフォレスター、レガシィアウトバック、クロストレック、レックスとなります。このうちレックスはダイハツ・ロッキーのOEMモデルです。

クロストレックは純スバルのSUVのなかではもっともコンパクトなモデルで、スバルSUVのローエンドを支えるクルマということになります。世界的にSUVが人気で求められることもあり、グローバルでの販売台数も好調。クロストレックは今後もしばらくは順調な販売となるでしょう。

ボディ全幅が1800mmに収まっていることで、日本での使い勝手も悪くはありません。全高は1575mmなので1550mmの規制を設けている場合は駐車が困難になりますが、シャークフィンアンテナとルーフレールを装着しなければ1550mmに収めることが可能です。

ルーフレールとシャークフィンアンテナをレス化すると、車高を15mmダウンできる
ルーフレールとシャークフィンアンテナをレス化すると、車高を15mmダウンできる

エンジン+モーターの出力についても一般的な使用では十分な性能で、ハンドリングや乗り心地も軽快です。4WDモデルのWLTCモード燃費は15.8km /Lですから、2リットルSUVの4WDとしては標準的な数値といえるでしょう。

試乗時、高速道路やワインディング、一般道を走った際の燃費は13.8km /Lという結果でした。この燃費はいろいろ試しながら走った結果の燃費です。

クロストレックは2リットルクラスのSUVを求めている方にとっては、十分に検討の価値があるモデルだといえます。標準タイプのツーリングFFならば250万円を切る価格設定というのも魅力的。もちろんアイサイトの基本機能は標準装備となります。

(文・写真:諸星陽一)

●スバル・クロストレック主要諸元
・寸法
 全長×全幅×全高(mm):4480×1800×1575
ホイールベース(mm):2670
トレッド 前/後(mm):1560/1570
車両重量(kg):1540~1560〈1590~1610〉
・エンジン
タイプ:水平対向4DOHC
排気量(cc):1992
最高出力(kW[ps] /rpm):107[145]/6000
最大トルク(Nm[kgm])/rpm):188[19.2]/4000
・モーター
タイプ:交流同期電動機
定格電圧(V):118
最高出力(kW):10
最大トルク(Nm):65
・トランスミッション:CVT
・ドライブトレイン:FF〈フルタイム4WD〉
・燃料消費率(WLTCモード、km/L):16.4〈15.8〉
・シャシー
サスペンション(F/R):ストラット/ダブルウィッシュボーン
タイヤサイズ:225/60R17[225/55R18]
ホイールサイズ:17×7.0J[18×7.0J]
ブレーキタイプ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスクディスク
※〈 〉内は4WD。タイヤ/ホイールサイズの[ ]内はリミテッド

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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