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■5km/h以下の低速域で車体を安定させる支援システム
ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)は、2022年11月11日、「事故のない社会」を目指す同社の安全ビジョンに関するプレス向け発表会「安全ビジョンおよび技術説明会」で、開発中の二輪安定化システム「アムサス(AMSAS)」を公開しました。
これは、5km/h以下の低速域で車両を安定させる制御技術で、バイクの立ちゴケや握りゴケなどを防ぐ効果が期待できるといいます。
実際にどんな機構なのでしょうか? 発表会の会場で、開発者などに聞いてみました。
●YZF-R25/R3をベースにした車体へ搭載
今回発表されたアムサスは、「事故のない社会」実現のために、ヤマハが開発しているライダーとバイクを高次元で一体化させる数々の先進技術のひとつです。
英語でAMSAS(Advenced Motorcycle Stability Assist systemの略)と表記されるこのシステム。会場には、実際にヤマハが研究開発を行っている実験車両も展示されました。
実験車両は、ヤマハの250ccや300ccのスーパースポーツ「YZF-R25/R3」の車体をベースとした電動バイクです。
前輪に駆動アクチュエーターと、ステアリングのトップブリッジ下部には操舵アクチュエーターを搭載し、6軸IMU(慣性計測装置)で検知した車体姿勢に応じて、5km/h以下の低速時に車体を安定化させることを可能とします。
ちなみに、アクチュエーターとは、モーターと駆動機構(機械要素)を組み合わせた装置のことです。
モーターの回転力を駆動機構に伝えることで、回転運動だけでなく直線運動やらせん運動など、多様な運動に変換することが可能。ロボットの関節や自動車のスタビライザーなど、さまざまな用途に活用されています。
そして、こうした前輪やステアリングの制御により、たとえば細い路地でのUターンなどで起こりやすい「立ちゴケ」を防止。
また、クルマや障害物と衝突しそうな際に急ブレーキをかけ、前輪がロックして起こる「握りゴケ」なども未然に防いでくれる効果が見込めます。
現在は、まだ研究開発中の技術ですが、将来的には、事故が起きそうな状況時にライダーが危険回避を行うための操作をアシストする機能としての活用を目指しているそうです。
なお、ヤマハでは、やはり開発中のステアリングサポートシステム「EPS(Electric Power Steering)」でも、操舵アクチュエーターを採用。2022年の全日本モトクロス選手権に参戦するワークスマシン「YZ450FM」と「YZ250F」に搭載して実験を行っています。
EPSの場合は、路面の変化などによって発生するハンドルへの外乱を整え、主に高速走行時のステアダンパー機能を発揮。低速時にはライダーの意図に合わせてステアリング操作を補うステアアシスト機能を発揮するといいます。
ヤマハの開発者によれば、アムサスの操舵アクチュエーターは、EPSに採用しているタイプよりも高出力とし、より強い制御力を持たせているとのことです。
●エンジン車にも搭載が可能
また、アムサスの駆動アクチュエーターは、今回の実験車両には前輪へ装備されていますが、開発者によれば、「後輪で制御することも可能」だといいます。
加えて、モーターの方が制御がリニアなため、今回の実験車両では電動バイクを使用していますが、「エンジン車にも搭載できる」とのこと。実用化されれば、さまざまなタイプのバイクに適用できそうですね。
さらに、アムサスの構造は比較的シンプルなので、車体の骨格となるフレームを変更しなくてもよく、既存モデルへの適用も可能だといいます。
ヤマハは、2017年の東京モーターショーなどで、自立走行が可能な電動バイク「モトロイド」というバイクを参考出品しています。
こちらは、メインフレームにAMCES(アムセス)軸と呼ばれる回転軸を用い、それを中心にバッテリーやリヤアームなどが回転して、車体のバランスを取る機構を採用します。
そのため、完全な自立走行を行い、倒れないのですが、構造がかなり複雑で車体をいちから作る必要があります。
一方のアムサスは、わざとバイクを倒そうとすると倒れてしまうものの、前述の通り構造が比較的シンプル。そのため既存モデルにも適用でき、エンジン車でも搭載を可能とするのです。
つまり、たとえば今回の実験車両に使われたYZF-R25やYZF-R3のアムサス・バージョンなんかも可能ということですね。
●実用化はいつ頃になりそう?
では、実際にいつ頃に実用化され、どんなバイクに搭載されそうなのか? これについては、まだまだ構造のシンプル化や小型化が必要で、具体的な時期は未定だそうです。
また、コスト面の課題もあるとか。今回、発表会に登壇したヤマハ発動機 代表取締役の日高祥博氏によれば「(既存モデルに搭載し販売する場合)、感覚的にはプラス5万円以下の価格でないと、お客様に納得して購入してもらえないと思う」と言及。
そして、プラス5万円以下にするためには「3万円以下で製造できなければ実現できない」といいます。
4輪車では、たとえばスバルのアイサイトなど、先進安全機能が売りとなり、搭載モデルが売れています。
バイクのジャンルでも、そうした安全に貢献する技術が、比較的に手が届く価格で手に入れられるようになることを期待したいものです。
(文:平塚 直樹/写真:平塚 直樹、ヤマハ発動機)
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