バイクに電動パワステ?ヤマハが新開発したライダー支援技術「EPS」搭載マシンを全日本モトクロスに投入

■高速時で安定、低速時で軽快な操作感を実現

バイクのハンドリングには、よく「人車一体」という言葉が使われます。これは、ライダーとバイクが一心同体となり、人が車体を思い通りに操れるといった意味ですが、実際はなかなか難しいもの。

ついついハンドルに力が入ってしまうなどで、上手く乗りこなせない場合も多いことは、バイク好きの人なら一度は経験したことがあるでしょう。

ヤマハが新開発したライダー支援技術EPS搭載マシンを全日本モトクロスに投入
EPSを採用した2022年仕様のヤマハ・YZ450FM

そんなバイクのハンドリングを制御し、ライダーの運転操作を支援する新技術、バイク向け「EPS(Electric Power Steering)」をヤマハ発動機(以下、ヤマハ)が開発。2022年の全日本モトクロス選手権に参戦するワークスマシン「YZ450FM」と「YZ250F」に搭載することを明らかにしました。

しかも、その搭載マシンが、バイクの一大祭典「第49回 東京モーターサイクルショー」(3月25日〜3月27日・東京ビッグサイト)に展示。実際に、どんなものか見てきましたので、ご紹介しましょう。

●ぱっと見は普通のバイク

ヤマハがステアリングサポートシステムと呼ぶEPSとは、Electric Power Steering(エレクトリック・パワーステアリング)の略。つまり電動パワーステアリングのようです。

4輪車にも昔からパワーステアリング、通称パワステが付いていますよね。駐車など低速時はハンドルが軽くなり切り替えしなどをしやすくし、高速道路などスピードが上がったときはハンドルを重めにして安定性を高めたりしますが、バイクにそういったパワステを付けるということでしょうか?

とにかく、ショーに展示された車両を見てみましょう。お披露目されたのは、全日本モトクロス選手権に「ヤマハ・ファクトリー・レーシングチーム(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)」から最高峰のIA1クラスに参戦するゼッケン2番、富田俊樹選手が乗るYZ450FMです。

ヤマハが新開発したライダー支援技術EPS搭載マシンを全日本モトクロスに投入
フロントのゼッケンプレート裏にはアクチュエーター

ちなみに、2022年シーズンの全日本モトクロス選手権には、同じヤマハ・ファクトリー・レーシングチームから、IA1クラスに渡辺祐介選手もやはりYZ450FMで参戦。

ヤマハが新開発したライダー支援技術EPS搭載マシンを全日本モトクロスに投入
全日本モトクロス選手権2021年シーズンの富田選手

下位クラスのIA2には、オーストラリア人ライダーのジェイ・ウィルソン選手がYZ250Fで望みますが、これらマシンにもEPSが搭載されることが予想されます。

実際に、展示された富田選手のYZ450FMをぱっと見たところ、あまり普通のバイクと変わりません。ですが、フロントのゼッケンプレート裏をよ~くのぞき込んでみると、ハンドルを固定するトップブリッジ下に、なにやら円筒形の黒い装置が装備され、それに繫がる配線が車体内へ続いています。

なにやらこれがキモのようですが、一体どんなシステムなのでしょう?

●クルマのパワステと違う?

実は、今回、ショー前日の3月24日に、ヤマハによるオンライン説明会が開催され、筆者も参加したのですが、それによると、EPSはいわゆる「クルマのパワステとは違う」とのことです。

これは、バイクの場合、タイヤやハンドルがライダーにより近い位置にあるために制御技術もかなり変わるため。特に、ヤマハ製のバイク向けEPSでは、昔から定評がある「ハンドリングのヤマハ」という扱いやすさや安心感をさらにアップグレードさせるために、同社のコア技術でもある制御技術を用いて開発しているとのことでした。

ヤマハが新開発したライダー支援技術EPS搭載マシンを全日本モトクロスに投入
磁歪式トルクセンサーのイメージ

具体的なシステムの概要は、まず、ハンドルの入力などトルクの検出に、「磁歪(じわい)式トルクセンサー」を採用しています。

これは、ヤマハの「パス」など電動アシスト自転車で実績があるもの。パスなどではペダルの入力などを検知し、最適なアシスト力を出すために使われているものなのだそうです。

一方、バイク用のEPSでは、路面の変化などによって発生するハンドルへの外乱を整え、主に高速走行時のステアダンパー機能を発揮。また、低速時には、ライダーの意図に合わせてステアリング操作を補うステアアシスト機能を発揮するといいます。

これらにより、高速走行時はハンドルの安定感などを、低速走行時にはたとえばUターンなどで軽快なハンドリングを生むことが可能。しかも、制御は、ライダーのスキルやマシン特性によって変えることもでき、如実に制御が分かる仕様や、システムが作動していることに気が付かないほどの自然な制御にすることもできるそうです。

●さまざまなバイクへの搭載を狙う

加えて、今回発表されたEPSには、小型・軽量のアクチュエーターも搭載します。前述した、トップブリッジ下にある円筒形の装置がこれですね。アクチュエーターとは、電気信号を物理的運動に変換する駆動装置のこと。つまり、ライダーのハンドル操作をバイクがアシストするための装置なのです。

ヤマハが新開発したライダー支援技術EPS搭載マシンを全日本モトクロスに投入
ヤマハが開発したバイク向けEPS

小型・軽量にしたのは、さまざまな2輪車製品への展開・装備を見据えているため。今回は、全日本モトクロスの参戦マシンに搭載していますが、将来的には、一般の市販車、しかも幅広い機種への搭載を考えているのだそうです。

ちなみに、なぜモトクロスマシンでテストしているかというと、「モトクロスは未舗装路を走る最もハードな競技だから」だそうです。

確かに、この競技は、デコボコの悪路を高速で走ったり、大きな轍(わだち)があるコーナーを曲がることや、天高くジャンプした後に着地するなど、かなりハードなセクションが連続します。そのため、バイクのハンドルは、いつも振られたり、大きな衝撃を受けるなどを繰り返し、コントロールが難しい場合も多々あります。

逆にいえば、モトクロスで完璧にハンドルをサポート制御できれば、舗装路などは楽勝なのかもしれませんね。

ヤマハが新開発したライダー支援技術EPS搭載マシンを全日本モトクロスに投入
YZ450FMのゼッケンプレートを外すと見えるのがEPSの装置

ヤマハによると、「まだまだ開発には多くの課題もある」といいますが、実用化されれば、ビギナーからベテランまで、幅広いライダーがより安心に、バイクを楽しめることが予想されます。

特に、万年バイクビギナーの筆者などは、EPS搭載車に乗ったら、自分がすごく上手くなった気がして、よりバイクをエンジョイできそうな気がします。

(文:平塚 直樹/写真:平塚 直樹、ヤマハ発動機)

この記事の著者

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平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
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