トヨタ・GR86&スバル・BRZ比較試乗実現! 2車の走りの味付けはここまで違った

■キビキビした動きのGR86とゆったり落ちつき感のあるスバルBRZ

トヨタスバル(当時はまだ富士重工業でしたが)が資本的提携を始めたが2005年のことです。トヨタ86&スバルBRZへの道のりはここから始まったと言えます。

2009年の東京モーターショーにはトヨタがFT-86としてコンセプトカーを展示しました。初代86&BRZが正式に発表されたのは、2012年2月のことです。

それから約9年、ついに二代目86&BRZの市販が近づいて来ました。今回は市販を前に千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催されたプロトタイプカー試乗会での印象とともに、車両概要をお届けします。なお、このモデルより86はGRブランドとなり、GR86の車名で呼ばれることになります。

GR86&スバルBRZ
スポーツカーの火は消えることなく、次世代へと受け継がれることになった。左がスバルBRZ、右がGR86

今回のモデルはまだプロトタイプということで、正式なスペックは発表されませんでしたが、BRZについては開発目標値の数値は発表されていますので、その数値を紹介しながらクルマの概要をおとどけしましょう。

全長×全幅×全高は4265×1775×1310mm、ホイールベースは2750mmとなっています。初代と比較するとホイールベースと全幅は同一、全長は+25mm、全高は-10mmとなります。

全長の配分はフロントオーバーハングが+15mm、リヤオーバーハングが+10mmです。トレッドはフロントが1520mmで初代同様、リヤは1550mmで+10mmとなります。

搭載されるエンジンは水平対向4気筒でこのレイアウトには変更がありませんが、排気量は2リットルから2.4リットルに増大されています。従来どおりトヨタの燃焼技術である筒内直噴+ポート燃料噴射のD-4Sを採用し、最高出力は235ps/7000rpm、最大トルクは250Nm/3700rpmと、最高出力は28馬力(ATは35馬力)、最大トルクは38Nm(ATは45Nm)のスペックアップとなっています。

●新型になってGR86とBRZ、2台の仕様は個性を持った

初代モデルでは86とBRZはほぼ同じ仕様でしたが、新型ではずいぶんと異なる仕様となっています。

まずエンジンです。スペックは同一ですが、その味付けは異なります。GR86はアクセル開度が40%程度で全トルクを発生させる味付け、対してBRZはアクセル開度80%以上でないと最大トルクが得られない設定となっています。しかしサーキットの全開走行ではまさに全開なので、その差はほとんど感じることがありませんでした。

2000回転付近のトルク感も十分で、流して走るときも不満はないでしょう。そこからアクセルを踏み込んでいくと、じつにすんなりとストレスなく回転が上昇していきます。その際、BRZは扱いやすさをねらってアクセル開度に対して若干の反応遅れ(これは”なまし”と呼ばれています)を設けている領域が多く、GR86は少なくなっています。

この違いは一般道で試乗しないとなかなか判断できない部分だと思います。ただし、サーキットでもコーナーで失敗してリカバリーしなくてはならないときなどは、全域でトルクを出せるGR86が有利なはずです。

初代と比べて好印象だったのがMTのシフトフィールです。初代は若干グニャっとした部分が残るミッションでしたが、新型はカッチリしていて気持ちのいいアップダウンが可能。必要以上にシフトのアップ&ダウンを繰り返したくなってしまうのは、いいミッションフィールをもつクルマの典型的なパターンです。

ハンドリングに関してはGR86はキビキビ、BRZはどっしりと落ちついた印象です。サーキットで楽しく走れるのはGR86ですが、キッチリタイムアタックしたらいいタイムを出しそうなのはBRZかもしれません。

コーナー出口でアクセルを踏んでいくとGR86はオーバーステア傾向になっていきますが、BRZはどちらかというとアンダーステア傾向です。BRZのほうが安定感が高く、GR86は振り回して楽しむようなセッティングです。これもどちらを選ぶかは難しい部分です。

テールスライドやドリフト状態にもちこみやすいのはGR86であることは間違いありませんが、本来ドリフト走行はアンダーステアのクルマを速く走らせるためのテクニックなので、BRZのセッティングを煮詰めていくほうが楽にタイムが出せるかもしれません。

エンジンのセッティング違いはコンピュータのプログラミングで実現していますが、シャシーのセッティング違いはもっと物理的な手法です。

サスペンションのスプリングはBRZが前/後:30/35なのに対し、GR86は28/39(スプリングレートの単位はNm/mm)と、リヤを固める方向です。サスペンションと車体との結合ではフロントのナックル部分をBRZがアルミ、GR86が鋳鉄となります。BRZはアルミとすることでバネ下重量の低減をねらっているわけですが、GR86はそうはしませんでした。

GR86が選んだのはナックル部分を鋳鉄とすることでハンドリングにシャープさを出すことでした。ストレートでクルマを左右に振ってみると、GR86は機敏に動くのですがBRZはこの反応がゆるかったのです。

また、リヤのスタビライザーはBRZが中空タイプをボディ直付けに、GR86がサスペンションメンバーに中実のものを取り付けています。スタビライザーの径もBRZがφ14なのに対し、GR86はφ15となっています。このことからGR86がリヤのロールをBRZよりも抑え込むことに注力していることがわかります。

今回のGR86&BRZはかなり違うセッティングとなっていることが明確です。ここまで違ってしまうと、従来のように86/BRZレースとしてワンメイクレースを開催するのは難しそう。そうなるとGR86クラス、BRZクラスに分かれるのか?と、いろいろ大変だなぁ…といらぬ心配をしてしまいました。

しかし、レース用モデルとして中身の仕様が一緒のGR86とBRZを作ればいいな…と思いついたのです。そして、そのモデルこそが両社のサーキットでの走りの理想を具体化したモデルになればいいな、と私は思ったのでした。

BRZ諸元
BRZ諸元表。
※仕様はプロトタイプ、諸元は開発目標値
GR86&スバルBRZ走行シーンイメージ
GR86&スバルBRZ走行シーンイメージ

(文・写真:諸星 陽一

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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