■バーチャルエンジニアリングにより、従来の車両試験では見つからなかった側面も可視化
世界の自動車メーカーに続き、日本のホンダも世界で販売する新型車を2040年までにすべてEVとFCVにするという目標を掲げています。すでにGMは、2035年までに電動化(EV)を掲げています。
2021年4月22日には、バッテリーEVの「キャデラック リリック(LYRIQ)」の米国での受注開始を発表しました。キャデラックはリリックを同ブランドのEV時代の第1弾としてだけではなく、GMのグローバル製品開発プロセスの改革を象徴するモデルと位置付けているそうです。
キャデラック初となる電動SUVは、バーチャルでの車両試験と検証により開発スケジュールが前倒しになり、予定よりも9ヵ月早く公開することができたとしています。リリックは、最新技術はもちろん、優美なクラフトマンシップ、細部に至るまで緻密なデザインを兼ね備えたラグジュアリーEV。
さらに、GMが掲げている「無事故、ゼロエミッション、混雑ゼロ」というビジョンを実現するための中心的な役割も担うそう。
現在のGMは、最先端のバーチャル開発ツールを革新的に活用することで、グローバル製品開発プロセスの発展に取り組んでいて、開発期間の短縮はその成果といえます。リリックの開発によって証明されたように、バーチャルによる設計、開発、検証の各プロセスは、GMの車両開発プログラムの効率全般に大きな影響を与えています。
開発プロセスの早い段階でこのツールを導入することにより、開発チームはデジタル環境の中だけで車両の設計、品質、性能を最適化することが可能に。最先端のバーチャル開発ツールによりGMは、年間15億ドルのコスト削減と製品開発サイクルを大幅に短縮することができるとのことです。
このバーチャル設計、開発、検証プロセスは、GMのEV戦略の中核となる「アルティウム」プラットフォームを組み合わせることで、さらに成果が高まるそう。北米におけるホンダ製のEVにも使われる「アルティウム」は、モジュール式で、1つの車両モデルから別モデルに容易に適応させることが可能です。
あるプログラムから得た情報をEVポートフォリオのほかのプログラム開発の促進に生かすことができる利点もあります。リリックにおけるプログラムでは、広範なバーチャル車両開発と検証の直接的な成果が得られたそう。具体的には、低温および高温環境において、すべての乗員が快適に過ごせる車内環境を実現しています。
また、航続距離と走行性能を最大化するための先進的なエアロダイナミクスの実現。より快適なドライブを実現する流体音響解析(エアロアクースティクス)とアクティブロードノイズキャンセレーションの採用。安心して運転できるドライバー支援機能とアクティブセーフティ機能やさまざまな衝突シーンでの「アルティウム」バッテリーの保護などが挙げられるそう。
GMのバーチャル設計、開発、検証のエグゼクティブディレクターであるマイク・アンダーソン氏は、「GMは、100年以上にわたって優れた製品を開発してきましたが、バーチャルエンジニアリングにより、従来の車両試験では見つからなかった設計の側面を可視化できるようになりました。また、プロトタイプの開発に費やす高額な費用を大幅に削減するという当初の目標を達成したのは間違いありません。さらに、これまでになくプロセスを早く進めながら、同時に最初の量産車の製造段階でより品質を向上させることができたことです」とバーチャル開発の利点を強調しています。
開発スケジュールの前倒しにより、バッテリーEVのリリックは、2022年の第1四半期に生産が開始される予定になっています。
(塚田 勝弘)