■アイサイトver.3搭載車が追突事故を起こす確率は0.06%!?
日本においてAEB(衝突被害軽減ブレーキ)を広めるきっかけとなったメーカーといえばSUBARUでしょう。
富士重工業時代に上市した「アイサイト」は、「ぶつからないクルマ」というキャッチコピーにふさわしい性能を持っていました。多くのユーザーが事故回避や被害軽減を実感することで、こうした機能を求めるニーズを生み出したことは間違いありません。
そんなSUBARUのクルマ作りにおいて、安全性能というのは重要な指標となっています。具体的には『人の命を守ることにこだわり、2030年に死亡事故ゼロを目指す』というのが、同社のビジョンに含まれています。
ここでいう死亡事故とはSUBARUのクルマに関わるもので、乗車中のみならず対歩行者なども含めた死亡事故をなくそうというものです。そのキーとなるのが「アイサイト」テクノロジーであることは言うまでもありません。
「アイサイト」は年々進化しており、とくにフルモデルチェンジに合わせて機能をステップアップさせています。たとえば最新のレヴォーグでは右折時に横断歩道を渡る歩行者も検知してAEBを作動させることができるようになっています。
では、そうした「アイサイト」の進化がリアルワールドでの事故減にどれだけ貢献しているのでしょうか。
このたびSUBARUから『アイサイト搭載車の事故件数調査結果』が発表されました。
イタルダ(ITARDA:交通事故総合分析センター)のデータを基に、販売台数を母数として独自算出したもので、アイサイト非搭載、アイサイトver.2、そしてアイサイトver.3における事故件数から発生率を導いたというものです。
アイサイトのバージョンアップごとにデータを見るということは、調査年が異なることになりますので、その点は留意しておきたいのですが、結論からいえば、アイサイトのバージョンアップにより交通事故発生率は確実に減っています。
具体的に見ていきましょう。それぞれ5年間のデータを調査しているのですが、交通事故件数の総数を1万台あたりの発生件数でみると、アイサイトver.2非搭載は154件、アイサイトver.2は61件、アイサイトver.3になると44件と確実に減っています。
さらに対歩行者の事故に絞って、同じく1万台あたりの発生件数でいうとアイサイトver.2非搭載は14件、アイサイトver.2は7件、アイサイトver.3は5件と、当然ですが減っています。
対車両の事故件数(1万台あたり)は、アイサイトver.2非搭載が140件、アイサイトver.2は54件、アイサイトver.3になると39件となります。そのうち追突事故だけに絞ると、アイサイトver.2非搭載は56件、アイサイトver.2は9件、アイサイトver.3は6件となります。
つまり、アイサイトver.3搭載車が追突事故を起こす確率は0.06%と算出できるというわけです。
もちろん、こうした事故低減のすべてがアイサイトのおかげとはいえません。アイサイトのような先進安全技術を採用したクルマを選ぶというユーザーは安全意識が高く、ドライバーレベルにおいても安全に気をつけた運転をする傾向も高いと考えられるからです。
一方で、AEB以外のADAS(先進運転支援システム)によるドライバーアシストが、そもそも事故を起こすようなシチュエーションを減らしていることも考えられます。
単純にアイサイトのようなAEBを搭載すれば確実に事故発生率が下がるとは断言できません。しかし、傾向として先進安全技術の進化は交通事故低減につながっていることを数字は示しています。
新型レヴォーグでは、歩行者の脚部保護を考慮したフェイスデザインや硬いAピラーを広範囲にカバーする歩行者用エアバッグを採用するなど事故被害の軽減を考慮した進化を遂げています。また乗車中の傷害についても、エアバッグの作動に連動してコールセンターに通報するシステムを採用するなど、全方位的に死亡事故を減らす工夫がされています。
もちろん、こうした安全技術の進化に注力しているのはSUBARUだけではありません。自動車業界全体として死亡事故ゼロに向けた動きは活発化しています。
死亡事故ゼロ、交通事故ゼロというのは、すべての自動車業界人の願いです。ユーザーとしてもハードウェアの進化に頼るだけでなく、安全意識を向上させていきたいものです。
(自動車コラムニスト・山本晋也)