実は超革新的! 2024年4月末に廃止される広島の「スカイレール」に乗ってきた

■スカイレールとは法的には懸垂式モノレールの鉄道

2024年4月末で廃止されることが発表されている、広島県広島市のスカイレール。実は超革新的な乗り物でした。

2024年4月末で廃止されるスカイレール
2024年4月末で廃止されるスカイレール

スカイレールは広島市安芸区、JR山陽本線・瀬野駅北西の丘に造成したスカイレールタウンみどり坂に住む人たちの足として建設され、1998年8月28日に開業しました。

一見するとロープウェイ(索道)みたいな乗り物ですが、法的(軌道法)には懸垂式モノレールの一種で、立派な鉄道です。I型断面の軌道桁(レール)に車体を懸架し、軌道桁の下部を車輪で左右と上下を挟んで案内・走行する構造になっています。

スカイレールはI型断面の軌道桁に車体を懸架しています
スカイレールはI型断面の軌道桁に車体を懸架しています

駅間の牽引駆動はロープを使用。これはロープウェイやケーブルカーのメリットである急勾配登坂力と、運転の安定性を両立させています。スカイレールは1.3kmでなんと160mも登り、最急勾配は263%。(パーミル)。これはケーブルカーを除けば国内で一番の急勾配です。なお、設計上は270%。まで登坂可能です。

駅間走行中はアームがロープを掴んで走行しています
駅間走行中はアームがロープを掴んで走行しています

駅構内の加減速はリニアモーターで行い、走行速度(約15km/h)まで加速するとロープ駆動に移行。駅の手前でリニアモーターに切り換えて停止します。

駅構内はリニアモーターで走行
駅構内はリニアモーターで走行。レールの下と車体上にコイルがあります

スカイレールのメリットは、前述した急勾配に強いことに加え、建設費がモノレールや新交通システムと比べて1/3程度に抑えられることなどが挙げられます。また、ロープウェイと比べて風に強く、レールがあるので急カーブのある路線も作れます。

なお、設計上は半径30mまで対応可能です。スカイレールはロープウェイと懸垂式モノレールの長所を併せ持ち、リニアモーターも採用するという革新的な鉄道システムであったことから、1999年の鉄道友の会ローレル賞も受賞しています。

そんなスカイレールでしたが、実際の経営は思わしくなかったようで、2022年度は約1億2000万円の赤字。そのため2023年12月末でスカイレールを廃止して、EVバスへ転換する方針を固めました。しかし、EVバスの整備が遅れているため、廃止を2024年4月30日に延期しています。

●スカイレールに実際に乗ってみました

それでは実際にスカイレールに乗ってみましょう。スカイレールはみどり口駅〜みどり中央間1.3kmを結ぶ路線です。途中にみどり中街駅があります。全区間の所要時間は5分。日中は15分間隔で運行しています。

起点となるみどり口駅はJR山陽本線瀬野駅と直結していて、乗り換えはとても便利です。みどり口駅から見るとスカイレールがいきなり急勾配で丘を登って行くのが分かります。

スカイレールの運賃は、全区間均一で大人170円。実は、スカイレールは2013年に日本で初めてIC乗車券を採用した路線なのですが、ICは定期券と回数乗車券のみとなっています。普通の乗車券も2013年に磁気券からQRコード読み取り式に変更しています。

みどり中街駅は自動改札機と出場用扉を設置
みどり中街駅は自動改札機と出場用扉を設置

起点のみどり口駅と終点のみどり中央駅は、乗車ホームと降車ホームが完全に分かれていて、自動改札機は乗車ホーム側にのみ設置。降車ホーム側の出口は柵と切符を回収する箱を設置しています。

また、中間のみどり中街駅は同じホームで乗降するので、乗車のために入場する自動改札機と降車後に出場する扉があります。

半密閉式のフルスクリーンタイプホームドアを採用(みどり中央駅)
半密閉式のフルスクリーンタイプホームドアを採用(みどり中央駅)

各駅のホームはフルスクリーンタイプのホームドアを設置して、安全性に配慮しています。なお、換気などを考慮して、天井との隙間がある半密閉式を採用していますが、日本のフルスクリーンタイプでは一般的です。

スカイレール用車両200形。リニアモーターを搭載しています
スカイレール用車両200形。リニアモーターを搭載しています

スカイレールで運行している200形車両の車体は、懸垂式モノレールと言うよりは、ロープウェイに似た外観となっています。また、前述した通り、駅構内を自走することができるリニアモーターカーとなっているのも大きな特徴です。

車内はシンプルで、前端と後端に座席を4席ずつ配置しています。定員は25人で、吊り手や握り棒の他、車椅子の固定ベルトも装備しています。

スカイレールの車内。定員は25人です
スカイレールの車内。定員は25人です

スカイレールの出発時間が近づくと、ロープが動き始めます。このロープが動いている音は沿線でも良く聞こえるので、写真を撮る時も便利です。

発車時刻になるとブザーが鳴ってドアが閉まり、リニアモーターで加速していきます。この時は高周波の電子音が聞こえます。約15km/hまで加速したところでロープ駆動に移行しますが、これまたスムーズ。駅間はレールの継目をタイヤが乗り越える音が聞こえる程度です。

みどり口駅を出てロープ駆動に移行したところから急勾配が始まります。後ろを振り返ると、みどり口駅や瀬野駅を見下ろすことができます。

180m地点あたりで勾配が少し緩くなり、スカイレールは道路の上を走ります。400m地点あたりからは大きく西へカーブ。道路から逸れたところでみどり中街駅に到着します。

みどり中街駅の直前でスカイレールはリニアモーターに移行して自動停止。みどり中街駅は、起点のみどり口駅から700m、終点のみどり中央駅から600mの位置にあります。そのため、みどり口行きのスカイレールが先に到着し、みどり中央行きのスカイレールが到着すると入れ替わるように発車していきます。

みどり中街駅の手前からしばらくは、北側の道路とほぼ同じ高さで並行していて、勾配も緩くなっています。みどり中街駅から約300m地点でスカイレールは再び急勾配区間に入り、北へ大きくカーブしながら並行していた道路を跨ぎます。ここからみどり坂公園の上を走ってみどり中央駅に到着します。

みどり中央駅。日中は閑散としています
みどり中央駅。日中は閑散としています

みどり口駅からみどり中央駅までの所要時間は、わずか5分。みどり中央駅は瀬野西3〜6丁目に広がる住宅地の玄関口となりますが、日中は人通りもそれほど多くなく、駅前も閑散としていました。

スカイレールの見学、撮影は沿線住民の迷惑にかからないように気をつけましょう
スカイレールの見学、撮影は沿線住民の迷惑にかからないように気をつけましょう

スカイレールの廃止が報道されてからは、遠方から乗りに来る人が増えていると聞きます。スカイレールの主目的は沿線住民の足です。見学、乗車する際は通勤・通学時間帯など混雑する時間帯を避け、写真撮影する時は沿線住民に迷惑がかからないよう気をつけましょう。

(ぬまっち)

この記事の著者

ぬまっち(松沼 猛) 近影

ぬまっち(松沼 猛)

1968年生まれ1993~2013年まで三栄書房に在籍し、自動車誌、二輪誌、モータースポーツ誌、鉄道誌に関わる。2013年に独立。現在は編集プロダクション、ATCの代表取締役。子ども向け鉄道誌鉄おも!の編集長を務める傍ら、自動車誌、バイク誌、鉄道誌、WEB媒体に寄稿している。
過去に編集長を務めた雑誌はレーシングオン、WRCプラス、No.1カーガイド、鉄道のテクノロジー、レイル・マガジン。4駆ターボをこよなく愛し、ランエボII、ランエボVを乗り継いで、現在はBL5レガシィB4 GTスペックB(走行18万km!)で各地に出没しています。
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