「学生フォーミュラ2023」で東京大学が目指すものとは?

■EVクラスへ転向1年目で好成績を収めた東京大学

2023年8月28日(月)から9月2日(土)までの6日間にわたって「学生フォーミュラ日本大会2023」が、静岡県にあるエコパ(小笠山総合運動公園)で開催されました。

学生フォーミュラとは、学生たち自らが、構想・設計・製作した車両により、ものづくりの総合力を競う、というもので、車両の性能評価やデザイン、コスト、さらにはその車両に対するプレゼンテーションまで、さまざまな角度からの審査が行われています。

1981年にアメリカでスタートした「ものづくりによる実践的な学生教育プログラム」として行われたFormula SAEがその始まりとなります。現在ではFormula SAEシリーズとして世界8ヵ国10大会が開催されています。

エンデュランス審査ではEVトップ。その後に行われた効率審査では総合トップとなった。
エンデュランス審査ではEVトップ。その後に行われた効率審査では総合トップとなった

日本大会は2003年にスタートし今回で21回目を数えます。初回は17チームの参加でしたが、回を重ねるごとに台数は増えていき、近年は最大98チームで出場制限を行っていました。

元々はガソリンエンジン車のみでの開催でしたが、第11回大会(2013年)からは正式にEVクラスを設定。コロナ禍で第18回大会(2020年)は中止、第19回大会(2021年)はオンラインの静的審査のみ、第20回大会(2022年)からはオンライン審査とのハイブリッド開催となりました。

今大会は、再び海外からの参戦を受け入れ77チームが登録し、うち23チームがEVクラスに参戦することとなりました。

写真でもわかる通り、モーターおよび車軸はサスペンションの先、ばね下へのレイアウトとなる。
写真でもわかる通り、モーターおよび車軸はサスペンションの先、ばね下へのレイアウトとなる

EVクラスへエントリーするチームも増加しており、今大会から車検スケジュール確保のため、大会期間をこれまでの5日間から6日間に変更しています。

これまではEV初年度は相当苦戦するという流れがありましたが、今回はEV初年度ながら、エンデュランスまで動的審査を進めるチームもあり、EV化がさらに進むのではと感じられる大会になりました。

ちなみに、ガソリンエンジンのICVクラスからバッテリーEVのEVクラスへ変更するチームは、今回4チームありました。そのうちの1チームが東京大学です。第7回大会(2009年)では総合優勝の実績もあるチームです。

エコパの会場なら路面は極めてフラットでリジットでも問題ないという判断があったから、昨年までド・ディオンアクセル方式を採用していた東大のマシン。EVになってもモーターはアウトボードにレイアウト。
エコパの会場なら路面は極めてフラットでリジットでも問題ないという判断があったから、昨年までド・ディオンアクセル方式を採用していた東大のマシン。EVになってもモーターはアウトボードにレイアウト

といっても当初は、ICV(内燃機関)で参戦を継続してきたUTFF(the University of Tokyo Formula Factory)とUTEF(the University of Tokyo EV Formula)という2チームが存在し、クラス変更ではなくICVクラスへの参戦を継続する可能性もあったようです。ただ、その2チームが合流する形での参戦となりました。そのリソースは集中した方がよいという判断もあったのかと思われます。

昨年までのUTFFのマシンは、スズキ・スカイウェイブのエンジンにCVTという駆動ユニットをドライバーの横にレイアウトする、左右非対称のマシンで参戦を継続してきました。そのマシンのリアには、リジットアクスル方式のひとつであるド・ディオンアクスルを採用していました。動的審査の会場は非常にフラットであり、足まわりを大きく動かす必要もないため、リジットアクスルでも対応ができるという考えからでした。

そして、今回登場した東京大学のEVは、2基のモーターをリア側に搭載するのですが、ばね下、アウトボードと、少し変わったレイアウトですが、それまでのマシンを考えると、ある意味同様のレイアウトとなりました。デフの代わりにツインモーターになったといったところです。2基のインバーターで2基のモーターを制御し、それぞれに遊星ギヤを2回経由して減速したうえで、独自に駆動させます。

EVにクラス変更をしたチームも多く、EV車検のために日程を1日伸ばすこととなった今大会。東京大学もそんなEVにクラス変更したチームのひとつとなります
EVにクラス変更をしたチームも多く、EV車検のために日程を1日伸ばすこととなった今大会。東京大学もそんなEVにクラス変更したチームのひとつとなります

このUTFFの今回の目標は「車検を通過し、動的審査全種目を完走すること」。それを第一におきながらも、ツインモーターの導入など将来につながるパッケージで挑戦するというもの。

東京大学のEVフォーミュラマシンの計画は、最終的には4輪インホイールモーターで独立制御を行っていきたいというもののようです。その計画を進めるためには、1年目となる今年はどういったモデルが必要なのかというところを考えていった結果だそうです。

まずは2基のモーターを独立して動かし、制御するというものですが、「まだ作りこみができていない」といいます。ドライブシャフトの設計ミスがあったようですし、なによりも搭載バッテリーは3.5kWhしかありません。ラミネートタイプのバッテリーを自分たちで組み入れていく作業にも時間がかかることもあり、必要最低限の容量での設計だったようです。そのため、エンデュランスについては、タイムを狙うというレベルではないようですが、それでも無事に全種目完走を果たしました。

しかし、ふたを開けてみれば、このエンデュランス審査では高得点をマークするに至りました。オートクロス審査で東京大学よりも好タイムを出していた他のEVクラスの2チームを上回り、EVクラストップ(総合21位)通過となりました。効率審査では堂々の総合トップ。最終的には名古屋大学、名古屋工業大学に続くEVクラス3位に。

11月あたりに行う予定のテストで、本来の性能を確認して次年に向けて計画を進めていくということです。来年の東京大学EVの進化にも期待したいですね。

(青山 義明)

この記事の著者

青山 義明 近影

青山 義明

編集プロダクションを渡り歩くうちに、なんとなく身に着けたスキルで、4輪2輪関係なく写真を撮ったり原稿書いたり、たまに編集作業をしたりしてこの業界の片隅で生きてます。現在は愛知と神奈川の2拠点をベースに、ローカルレースや障がい者モータースポーツを中心に取材活動中。
日本モータースポーツ記者会所属。
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