愛車で自動車工場を走れる!? イタリア車とグルメ好きは、リンゴットへ急げ【越湖信一の「エンスーの流儀」vol.021】

■トリノ・リンゴット地区の必見スポットをご案内

イタリアとイタリア車をこよなく愛する越湖信一さん。今回彼が案内するのは、イタリア・トリノのリンゴット地区。フィアットがかつて「ヨーロッパ最大規模の自動車工場」として建設した歴史的建造物をはじめ、クルマ好きなら一度は訪れたいスポットが存在しています。さらに、イタリアならではの美食が楽しめるユニークな施設も!いま、イタリア車と食を楽しむなら、リンゴットは外すことのできない目的地といえそうです。


●フィアット旧リンゴット工場の名物コースを愛車で走行!

1928年のリンゴット工場全景
1928年のリンゴット工場全景

ここしばらく、リンゴット屋上のオーバルコースへとアクセスするのは結構骨が折れました。館内の様々なリノベーション工事の為か、経路が切断されていたのです。しかし、そのパズルのような導線を辿るのは少し楽しくもありました。さらに屋上へ行くだけなら無料だったのです。本当に無料だったのかはわかりませんが、よく地元民とおぼしきランナーがコースを走っていましたから、そうだったのでしょう。

フィアットの旧リンゴット工場。ランチア デルタのアッセンブルも行われた
フィアットの旧リンゴット工場。ランチア デルタのアッセンブルも行われた

しかし、今回このリンゴットを訪問すると全てが様変わりしていました。一階のエントランスから既に巨大な「La Pista 500」という看板がこれでもかと並んでいます。そして残念なことにそこへのアクセスは、もちろん無料ではありませんでした(苦笑)。屋上エリアにある絵画館、そして「Casa 500(チンクェチェントの家)」と称すフィアット500にまつわる展示など、見学内容に応じたチケットを購入する必要があります。

(時間帯によってはチケッティングが混雑しますから公式ウェブサイトより購入しておくのが無難かもしれません)

フィアットの旧リンゴット工場再開発ビルにあるピナコテカ・アニェッリ絵画館内にLa Pista 500はある。500eと共に屋上の存在が大きくアピールされいる
フィアットの旧リンゴット工場再開発ビルにあるピナコテカ・アニェッリ絵画館。そこでは500eと共に屋上の存在が大きくアピールされている

ピカソなど名作が並び、モダンアートなどの企画展も楽しむことのできるピナコテカ・アニェッリ絵画館も面白いですが、Casa 500でダンテ・ジアコーザのドローイングやチンクェチェント関連のレアアイテムを眺めながらのティータイムも魅力的です。

そして、さらにそそられるのがオーバルトラックの散歩でしょう。おっと、今回のニューアルで少し屋上のレイアウトも変わっているようです。イエローラインの歩道と思しきエリアが設定されているではありませんか。

かまわずバンクの傾斜を登ろうとすると……。逞しいガードマン氏が走ってきて、「だめだ、そこへ入ってはいけない」と制止するのです。そこで私はここぞとばかりにリンゴットへの愛を語り、一緒に連れてきた仲間を一度でもバンクに登らせてあげたい旨を、蕩々と語ったのです。

フィアットの旧リンゴット工場。屋上のオーバルコースを散歩することができる 
フィアットの旧リンゴット工場。屋上のオーバルコースを散歩することができる

そんなやりとりをしているうちに、彼とは気持ちが通じたのか?ハナシが弾んできました。結局、同行者も含めて全員がコースの上部まで登らせてもらい、おおいに楽しむことができたのです。そのガードマンと思ったナイスガイは、実はこのトラックの管理責任者だったのです。

彼のハナシによると、ここで500eの試乗を行うことができるだけでなく、登録すれば愛車を持ち込んでこのオーバルトラックを走らせることもできるとのこと。万が一クルマが入って来たら危険だということで、目を光らせているそうな。皆さんもイタリアで一台素敵なクルマを仕入れて、走ってみては如何でしょうか?

●Eataly本店は食いしん坊にもってこい?!

広大なEatalyの店内
広大なEatalyの店内

リンゴット地区にはe.Villageとフィアット、ランチア、アルファロメオ、ジープの電動モデルのショールームもオープンしており、シトロエンも並んでいたのは少し不思議な感じです。ここはステランティスのモビリティ戦略のショーケースでもあるんです。こちらの施設もまた、お近くにお運びの際は立ち寄っていただきたいところです。

トリノは自動車の街であると共に食の街でもあります。“スローフード”本部があるブラはトリノ近郊の小都市ですし、このリンゴットにはEatalyの本店があります。日本でもおなじみですが、ハイクオリティなイタリア食材が大量に並ぶここ本店の様子は圧巻です。なんと1万1000平方メートルもあるのですからね。

Eatalyでピエモンテの肉料理を堪能!
Eatalyでピエモンテの肉料理を堪能!

このファシリティの中にはピッツェリアも含め、ふたつのレストランがあります。そのメニューが豊富であることはもちろんですが、スタッフと一緒に鮮魚売り場や精肉エリアを訪れ、これをこんな風に料理してね、と食いしん坊気質丸出しのオーダーをすることが出来るのです。これもあれもと頼む私は、「こんなに食べることができるの?」と呆れられてしまいました。

●自動車系ミュージアムの白眉、トリノ国立自動車博物館

トリノ国立自動車博物館(MAUTO)
トリノ国立自動車博物館(MAUTO)

トリノ国立自動車博物館はリンゴット・エリアから徒歩圏内にあります。頭文字をとった略称はMAUTOですが、その創始者の名前を取って、「ビスカレッティ博物館」とも呼ばれます。大規模を誇る総合的な自動車博物館ですが、自動車の展示だけでなくその背景にある人間と文化との関連にも触れているところが大きな特徴です。「自分にとってクルマって何?」なんていう“哲学的な”意義を再考するきっかけになるかも。

そう堅いことは考え無くとも、自動車の進化を数百台の展示を眺めながら楽しんでいくことができるのですから、ここは何回来ても飽きることがありません。実は、私は仲間と共にここで日本発の企画展を以前開催しました。そして、次なる企画もキュレーターの皆さんと検討中なのです。日本の自動車文化を海外へ発信することは、私のライフワークでもあるのですから。

The Golden Age of Rally展示。037ラリーとアウディクワトロ
The Golden Age of Rally展示。037ラリーとアウディクワトロ

常設展だけでなく、企画展が充実しているのもここの特徴です。訪問時に展開されていたのは「The Golden Age of Rally」展。展示されているのは1960年代から1990年代にかけて、モンテカルロ、サファリ、サンレモなどの世界選手権を制した名車たちです。また、ランチア037ラリー・エボ2やアウディ クワトロといった伝説的なモデルの展示にくわえて、ドライバーやレーシングチームの活躍、イノベーションなど、ラリーの世界を多角的に捉えた好展示でした。

次の企画展は既に始まっており、6月11日までTHE ISO AVVENTURA展が開催されています。これはイタリアの自動車メーカー“イソ”へ焦点を当てた展示。これもイタリア車愛好家としては見逃せません。

というワケで、リンゴット地区だけでもまだまだ語り尽くせません。このエリアはトリノ中心部から近く、徒歩圏内で全て楽しむことができるので、ミラノからの日帰りも問題ありませんよ。(続く)

【関連リンク】

・旧リンゴット工場再開発ビル/ピナコテカ・アニェッリ絵画館内「La Pista 500」ページ(英・伊)
https://www.pinacoteca-agnelli.it/la-pista-500/

この記事の著者

越湖 信一 近影

越湖 信一

イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表。ビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。
クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』などがある。
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