目次
■スバル・インプレッサの歴史/レオーネに代わりスバルの土台を支えるモデル。スポーツタイプのWRXは分離独立
スバルは1989年にレガシィを発表。レガシィは、それまでの乗用モデルであるレオーネに取って代わるモデルでしたが、レオーネよりもボディサイズ、エンジン排気量ともに大きく、中間層を支えるモデルとして1992年にインプレッサがラインアップに加わります。
初代のインプレッサはセダン、ワゴン、そして1995年に追加された2ドアハードトップの3種のボディを持っていました。ワゴンはリヤハッチが大きく寝ねかされたデザインで、スポーツワゴンという名前が付けられていました。が、パッケージング的には5ドアハッチバックで、海外ではハッチバックの名で販売されている地域もありました。
またインプレッサには、それまでレガシィで行っていたWRC(世界ラリー選手権)への参戦をインプレッサに切り替えるという使命もあり、セダンにWRXというスポーツモデルも設定されました。
インプレッサは2000年に初のフルモデルチェンジを受け、2代目へと移行します。
2代目は4ドアセダンとワゴン(5ドアハッチバック)の2つのボディタイプです。2代目はシリーズ中にエクステリアデザインが大きく変わります。
2000年のデビュー時は、楕円ヘッドライトに上下2分割のグリルを採用した、通称「丸目」。2002年のマイナーチェンジモデルは、ヘッドライト内側が少し下にはみ出るデザインに上下二分割グリルを組み合わせた、通称「涙目」。2005年のマイナーチェンジモデルは、シャープなヘッドライトに、上下二分割グリルの上段に航空機をモチーフとしたスプレッドウィングスグリルを組み合わせた、通称「鷹目」でした。
3代目は2007年6月に登場します。当初は5ドアハッチバック(この代からワゴンの文言が消えました)のみの設定でした。
スポーツ系のWRXはセダンではなく5ドアベースとして、2007年10月に投入。セダンは2007年11月にインプレッサアネシスの名前で登場します。2010年に行われたマイナーチェンジ時には、インプレッサXVの名で、2023年現在のクロストレックにつながる、クロスオーバーSUVモデルが追加されています。2010年にはセダンのWRXが再登場します。
4代目は2011年に登場します。このモデルチェンジの際に5ドアハッチバックはインプレッサスポーツ、4ドアセダンはインプレッサアネシス改めインプレッサG4という車名に変更。スポーツには2015年にはハイブリッドモデルが追加されます。
2012年にはインプレッサXVがフルモデルチェンジし、車名をXVとして独立。2014年にはWRX系も車名がWRXとなり独立。インプレッサのラインアップはスッキリしたものとなります。
新型インプレッサの先代に当たる5代目は、2016年に登場。このモデルからスバルグローバルプラットフォーム(SGP)が採用されます。
ボディタイプは5ドアハッチバックのスポーツと、4ドアセダンのG4の2種。パワーユニットのラインアップは1.6リットル、2.0リットル、2.0リットル+モーターの3種類が用意されました。
またこのインプレッサでは、歩行者との衝突時に、歩行者の頭部を保護するための「歩行者保護エアバッグ」が国産車として初採用されています。このエアバッグ採用なども功を奏して、2016年度の自動車アセスメントでは過去最高の199.7点を獲得し、JNCAP大賞を受賞しました。
そして2022年11月、ロサンゼルスオートショーにて6代目インプレッサを世界初公開。2023年1月、東京オートサロンにおいて日本仕様を初公開。2023年4月に価格を発表しました。ボディは5ドアハッチバックのみとなり、車名からはスポーツの名が消えました。つまりセダンは設定されませんでした。
●スバル・インプレッサの基本概要 パッケージング/先代同様にスバルグローバルプラットフォームを採用 サイズもほぼ同一
新型6代目インプレッサのプラットフォームは、先代同様にスバルグローバルプラットフォームを使います。ボディエクステリアの寸法関係は全幅が5mm広がっただけで、全長、全高、ホイールベース、前後トレッドも先代と同寸です。
室内寸法についても先代モデルとの差はほとんどありませんが、部位によっては多少のマイナスが見られます。プラスになっている部位はありません。
マイナスとなったのは前席ショルダールーム(-2mm)、後席ショルダールーム(-8mm)、後席ヘッドルーム(-2mm)、前席レッグルーム(-6mm)などで、-10mmに達している部分はありません。
こうした寸法の減少は、同じプラットフォームを使ったモデルチェンジでは起きがちです。カタログデータの寸法を広げて広くなったことをアピールすることもあるのですが、そうではなく、実際の使い勝手や安全性、デザインなどを向上したためにカタログデータが減るというパターンです。小さな数字の増減に一喜一憂する必要はありません。
ラゲッジルームはハイブリッドのe-BOXER同士で新旧を比べると、若干のサイズダウンが認められます。
ラゲッジルームの高さが-15mmとなったこともあり、定員乗車時の容量は、先代に比べ25リットル少なくなり311リットルとなりました。また、リヤシートをたたんだときのラゲッジルーム長も28mm短くなっています。
ピュアエンジンモデルとハイブリッドのe-BOXERでは、ラゲッジ容量に若干の差があります。
ピュアエンジンモデルはハイブリッドに比べて、ラゲッジルーム高で57mm高く、定員乗車時のラゲッジルーム長も2mm長くなっています。ラゲッジルーム容量では定員乗車時57リットル広くなります。また、ピュアエンジンモデルはサイドポケットや14リットルの容量を持つサブトンランクも備えます。
●スバル・インプレッサの基本概要 メカニズム/エンジンは2リットルのみで、ピュアエンジンとハイブリッドを設定
新型インプレッサには、2.0リットルのピュアエンジン仕様と、2.0リットル+モーターを組み合わせたハイブリッドの2種類のパワーユニットが用意されています。まずは2.0リットルピュアエンジンについて説明します。
ピュアエンジン仕様に採用されるエンジンは、FB20型水平対向4気筒DOHCの自然吸気タイプで、最高出力は113kW(154ps)/6000rpm、最大トルクは193Nm/4000rpmとなっています。従来モデルに比べて、燃費向上のために以下の改良が行われました。
・クランクシャフトのピン幅を拡大
・チェーンガイド、レバーガイドの材料を変更
・インジェクターホルダーと燃料ギャラリーを変更して燃料噴射の精度を向上
・EGRパイプ開口部の形状と向きを変更して、EGRガス量を増加
・新開発の低粘度オイルを採用
FB20型エンジンはハイブリッド用、ピュアエンジン用ともに以下の改良が行われ、振動や騒音を低減しています。
・オイルパンアッパーの形状を最適化してねじり剛性を向上
・液体封入式フロントエンジンマウントの減衰特性を最適化
・エンジンマウントハウジングを樹脂製からアルミ製に変更して剛性を向上
ハイブリッド用に組み合わされるモーターは13.6馬力/65Nm。駆動用バッテリーはリチウムイオンで、32セルの直列配置です。リチウムイオン1セルの電圧は3.7Vなので、この動力用バッテリーの電圧は118V。バッテリー容量は4.8Ahとなっているので、kWhでは0.57kWhとなります。
ハイブリッド、ピュアエンジンともに、ミッションはリニアトロニックと呼ばれる金属チェーン式CVTを採用します。先代のインプレッサはハイブリッドにFFが設定されませんでしたので、FF用は新タイプ。ハイブリッド4WD用、ピュアエンジンFF用&4WD用は改良型となります。
4WDの形式は、アクティブトルクスプリットAWDと言われるもの。前後の基本トルク配分が60対40で、湿式多板クラッチを用いて約100対0~50対50までを変化させるタイプです。
従来、クルマが滑った際の制御は、ステアリングの舵角値から制御量を算出していましたが、カウンターステアなどドライバーによるステアリングの修正操作が与えられると、クルマの動きと制御量がマッチングしないことがありました。ここでは、制御量の算出に横滑り角の値を用いるようにして、車体が滑った際の制御量をよりリニアにしています。
スバルの安全機構といえばアイサイトが知られています。
従来、採用していたステレオカメラは新型に更新。画角の大幅な拡大やソフトウェアの改良などにより、より広く、遠くまで認識できるようになっています。
また、新たに広角の単眼カメラを追加。ステレオカメラより視野が広く、車両近辺の人物や二輪車を識別できる性能を持ち、プリクラッシュブレーキで対応できるシチュエーションを拡大。
さらに、前側方レーダーを追加。ステレオカメラや人の目視で確認しにくい、前方の横方向から接近するクルマの検知を可能にしています。
新たにブレーキブースターを電動化したことで、ブレーキの制御が緻密に行えるようになり、いわゆるカックンブレーキを防止し、自然なフィールを可能にしています。
●スバル・インプレッサのデザイン/デザインはキープコンセプト 歩行者エアバッグで低いボンネットを実現
新型インプレッサは、キープコンセプトのデザインだと言って差し支えないでしょう。
フロントまわりでは、先代同様に六角形のグリルを採用。アンダーグリルは先代とは異なり、下方に向かって広がりのある台形デザインが採用されました。先代同様に、バンパーに切れ込む形で配置されるヘッドライトは、さらにシャープな印象のものとなりました。
サイドビューは、先代にかなり似たスタイリングとなります。なかでも、低く配置されるボンネットは、フロントセクションに水平対向エンジンを収めるインプレッサの象徴的なフォルムです。
ボンネットを低くすることは、歩行者との衝突時に頭部損傷が大きくなる可能性がありますが、インプレッサは歩行者保護エアバッグを採用することで、この危険性を回避しています。
Cシェイプのリヤコンビランプを採用するリヤビューは、横長デザインのリヤコンビランプを採用していた先代と比べてグッとモダンになった印象です。先代同様に、ライセンスプレートまわりのプレスを六角形として、フロントまわりとの共通性を持たせているところはコンサバな雰囲気ですが、全体としてまとまり感を大切にしたことがうかがえます。
センターに縦長のモニタースペースを持たせたインパネは、基本レイアウトがクロストレックと同様のものとなっています。
ドライバーと正対するステアリングは太めの3本スポークタイプで、横スポークには各種スイッチ類を配置。メーターはしっかりとしたカバー内に収まる、奇をてらわないものです。
なお、センターのモニタースペースは、上級グレードとなるST-H、ST-Gは11.6インチの縦長モニター、STはオーディオレス仕様が標準となり、下段部分に7インチの横型モニターが配置されます。
シートはグレードによって異なるトリムが使われます。
ST-Hはジャージ地にシルバーのステッチで、中心部が赤いアクセントをプラスした立体的な編み目模様がつかわれています。ST-Gは中心部分に六角形のエンボス加工を程したトリコット地を採用し、ステッチはシルバーとなります。STはシンプルなトリコット地にシルバーステッチを採用。ST-HとST-Gに用意される革シートは、センター部分に六角形の模様を配したシルバーステッチのものとなります。
●スバル・インプレッサの走り/雑味を取り除き、本質の向上に努めた走り
今回、新型インプレッサの試乗を行ったのは、千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイのレーシングコース。一般道での試乗はなく、かなり限定的な試乗となりました。
試乗車は新型のST-HのFFと4WDに加えて、旧型のアドバンス4WDが用意されました。限定的な試乗ではありましたが、新旧の比較が行えました。
加速については発進加速、中間加速ともに、新旧で大きな差は感じられませんでした。とはいえ、新型のほうが加速時の雑味成分は除去されている印象です。
旧型はアクセルを踏んでいく際に、ブルッとした感触がほんのわずかステアリングに伝わりますが、新型はそれがありません。これが走行距離の違いによるものなのか? シャシー性能によるものなのか? はたまたエンジンやミッションに起因するものなのか? そこまで判断することはできませんでしたが、新型のほうがスッキリしています。
また、4WDとFFではFFのほうが直進時の加速感にすっきりさがありました。
コーナリングを終えてクルマが安定してからの加速も、同じようにFFのほうが雑味のない加速を感じられました。コーナリング中にアクセルを踏んでいった際の感触は明らかに4WDのほうが上です。フロントタイヤの負担が少ない分、4WDのほうがキレイに加速していきます。
アクセルを完全にオフしてのコーナリングは、FFも4WDも同じように素直に曲がっていきますが、アクセルを踏んだままでコーナーに進入する際も、フロントタイヤの負担が少ない4WDのほうが動きがよく、スッとノーズがインを向いていきます。
コースをゆっくりめに走り、ノイズなどをチェックすると、新型と旧型ではずいぶんと違うことに気付かされます。プラットフォームはキャリーオーバーですが、「けっこう違うものだな」と感じさせるものでした。
ここでもポイントは雑味です。旧型が不快かといえばそこまでではないのですが、新型のほうが余分なノイズや振動などが消えています。また、ピットレーンには波状路が用意されていて、ハーシュネスをチェックできるようになっていました。ここでの“ブルッ”とした動きも、新型のほうがよく抑えられていました。
サーキットの試乗では、速く安定して走るなら4WDという印象でした。こう書くと一般道では関係ないと思われがちですが、パワーがあって速く走れるという話ではありません。サーキットで安定しているということは、一般道でも安定していることの現れです。言うまでもなく、特に滑りやすい路面などでは4WDの優位性が強調されるでしょう。
●スバル・インプレッサのラインアップと価格/最上級モデルでも300万円を切る価格設定
新型インプレッサに用意されるパワーユニットは2リットルのピュアエンジンと、2リットル+モーターのハイブリッドの2種です。ピュアエンジンのグレードはSTの1種、ハイブリッドのグレードは上級のST-Hと標準のST-Gの2種です。
すべてのグレードにFFと4WDが用意され、ミッションはすべてリニアトロニックと呼ばれる金属チェーン式CVT。バリエーション&価格は以下のようになります。
2リットルピュアエンジン( )内は4WD
・ST:209万円(229万円)
2リットルエンジン+モーター
・ST-G:253万円(273万円)
・ST-H:272万円(292万円)
エクステリアではST-Hがダークグレーのフロントグリルバーを採用するのに対し、ST-GとSTがブラック塗装。
ヘッドライトはフルLED+ロービームランプ(オートヘッドランプレベライザー+ステアリング連動ヘッドランプ+コーナリングランプ)がST-Hに標準、ST-Gにオプション。ST-GとSTの標準ヘッドライトはLED+ロービームランプ(マニュアルヘッドランプレベライザー)となります。
フロントフォグランプカバーはST-Hがブラック塗装加飾付き。フロントフォグランプはLED式でST-HとST-Gに標準、STには設定されません。
ホイールは全車17インチで、ST-Hがダークメタリック塗装+切削光沢、ST-Gがダークメタリック塗装、STがシルバー塗装。タイヤはST-HとST-Gが215/50R17、STが205/50R17。フロントブレーキはST-HとST-Gが17インチ対応の2ポット、STが16インチ対応の2ポットです。
アイサイトは、コアテクノロジーと呼ばれるプリクラッシュブレーキ、前側方プリクラッシュブレーキ、後退時ブレーキアシスト、AT誤発進抑制制御、AT誤後進抑制制御/ツーリングアシスト、全車速追従機能付クルーズコントロール、定速クルーズコントロール、車線逸脱抑制、車線逸脱警報、ふらつき警報、先行車発進お知らせ機能、青信号お知らせ機能を標準装備。ST-HとST-GはECOクルーズコントロール付きとなります。
ボディカラーは以下の9色で、※印のものはSTには設定されません。
オアシス・ブルー(3万3000円高)
ホライゾンブルー・パール※
サファイアブルー・パール
サンブレイズ・パール(3万3000円高)※
ピュアレッド
クリスタルブラック・シリカ
マグネタイトグレー・メタリック
アイスシルバー・メタリック
クリスタルホワイト・パール(3万3000円高)
●スバル・インプレッサのまとめ/スバルでもっともコンパクトなモデルはステーションワゴン的要素も持つ
インプレッサは、スバルオリジナルモデルのなかで、もっともコンパクトなクルマです。スバル車に乗りたい、水平対向エンジンに乗りたい、スバルの4WD技術を体感したいといった気持ちがあり、なおかつコンパクトなモデルを希望する場合は、インプレッサが最適解となるでしょう。
また、全幅が1.8mを切っているので、車幅があまり広くないクルマが欲しいというユーザーにも選ばれやすいモデルです。車内の広さだけでなく、安全性の確保やデザイン面などからも、最近は車幅の広いクルマが増えているだけに、1.8mを切るハッチバックモデルであることは大きなメリットとなるでしょう。
インプレッサはハッチバックモデルと言っても、スタイリング的にはステーションワゴンに近い雰囲気を持っています。最近はステーションワゴンも絶滅危惧種となっているので、コンパクトなステーションワゴンに乗りたいという気持ちのある人の気持ちにも応えます。ただし、スタイルとしてはステーションワゴンに近いのですが、ラゲッジルーム容量はさほど多くないので、そこには注意が必要でしょう。
どのグレードを選んでも、アイサイトの基本的な機能は標準装備されるので、安全性や長距離ドライブでの快適性は手に入れることができます。燃費のことを考えると、ハイブリッドが有利ですが、荷室を少しでも広くというユーザーは、ピュアエンジン仕様のSTのほうが有利なので、そこの部分がちょっと悩ましいところです。
●スバル・インプレッサ主要諸元
・寸法
全長×全幅×全高(mm):4475×1780×1515〈1540〉
ホイールベース(mm):2670
トレッド 前/後(mm):1540/1545
車両重量(kg):1530~1590〈1380~1430〉
・エンジンタイプ:水平対向4気筒DOHC
排気量(cc):1995
最高出力(kW[ps]/rpm):107(145)/6000〈113[154]/6000〉
最大トルク(Nm[kgm]/rpm):188(19.2)/4000〈193[19.7]/4000〉
・モーター〈STには装備されない〉
タイプ:交流同期電動機
定格電圧(V):118
最高出力(kW):10
最大トルク(Nm):65
・トランスミッション:CVT
・ドライブトレイン:FFおよびフルタイム4WD
・燃料消費率(WLTCモード、km/L):16.6(FF)/16.0(4WD)〈14.0(FF)/13.6(4WD)〉
・シャシー
サスペンション(前/後):ストラット/ダブルウィッシュボーン
タイヤサイズ(前/後共):215/50R17〈205/50R17〉
ホイールサイズ:17×7.0J
ブレーキタイプ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスクディスク
※〈 〉内はST
(文・写真:諸星 陽一)