清水和夫がスバル「クロストレック」に乗って全メーカーに喝!?「1チームで開発せよ!」

■スバル「クロストレック」は揺れ知らずで静か。課題は「燃費」

●クロストレックの電動パワステ優れポイントはボッシュにあり!

新型クロストレックを清水和夫が試す
新型クロストレックを清水和夫が試す

さぁ、スバルを知り尽くす男、国際モータージャーナリスト・清水和夫さんが2022年9月15日に世界初公開されたスバル「クロストレック」に試乗。

プロトタイプ版は以前ご紹介しましたが、今回は市販バージョン。その違いはどこに?

さっそくインプレッションを聞いてみましょう。


●まずはFF。新型クロストレックはより静かに、より快適に!

燃費以外は全部イイ!
燃費以外は全部イイ!

今乗っているのは、インプレッサ・ベースで作られたクロストレックです。すでに1回、大雨の群馬サイクルスポーツセンターでインプレッションしていますけど、大きな変更点はなけど、きめ細かいところの手はかなり入っていますね。

特に、ドライバビリティに関係するところで言えば、エンジンの揺れとか振動。元々、水平対向エンジン縦置きの場合は、振動特性が優れているというか、対抗ピストンで振動を打ち消し合いますから、4気筒エンジンとしたら本当に静かで上質なエンジン。

さらに、そのエンジンとトランスミッションのところの接合から、デフとかクランクシャフトからトランスミッションにいくわけですけど、その辺の結合をしっかりして、揺れを少なくしたっていうのが、今回のパワートレーンの大きな成果だと思います。

もうひとつは、ソフトウエアをかなり煮詰めて、制御系も変えたということですね。細かい音、振動とかルーフの素材を変えて、屋根の音響的な振動特性かな?を良くしたりしています。より静かに、快適にっていうのがコンセプトです。

新型クロストレックのフロントビュー
新型クロストレックのフロントビュー

ハンドリングでの大きな違いは、元々サスペンションとかはスバルはそんなに悪くないんですけど、やっぱりステアリングですね。電動パワステも2ヵ所のポイントで制御するタイプに変わっています。スーッと走る感じ。

この後、いろんな路面を走りますから、そこで進化の度合いなど、いろんなことが分かってくると思います。今のところ、千葉の国道をゆっくり走る限りでは、悪くないですね。非常に軽快感があって。

これのベースとなるインプレッサは、スバルシリーズの中で一番のベースモデルなので、エンジンも自然吸気で非常に穏やかなエンジンフィールです。

この上のSGPと呼ばれるプラットフォームで、アウトバックなど様々なものが作られていくわけです。

新型クロストレックのリヤビュー
新型クロストレックのリヤビュー

アイサイトも単眼になって、広角になったのかな。今まで110度くらいだったのが、今は120~130度くらいまでワイドに見られるようになったので、横からくる、横断してくるような自転車や歩行者を、いち早く発見できるようなシステムになっています。

その辺の、自転車・歩行者を検知するセンサー技術が、これからの重要なポイントになると思います。

やっぱレヴォーグより乗り心地がいいかな、コッチのほうが進化してんだな。タイヤのロードノイズも静かですよね。でも、もうちょっとロードノイズ、落としてもいいかも。

●ADASの「お知らせ方」がイイ! 日本ではスバルだけだな

今ね、一番、このADAS(Advanced Driver-Assistance Systems/先進運転支援システム)のいいところを言うと、アイサイトのスイッチを入れた瞬間に、ハンドルがググッ!と重くなるんです。今、真ん中を走っているんですけど、これがちょっとずれようとすると、手応えがハッキリしているので、システムが介入したかどうか?っていうのが、この手応えですぐに分かります。

新型クロストレックのコクピット
新型クロストレックのコクピット

今、設定速度に対して停止なので、完全停止しました。ドライバーはブレーキ踏んでません。前のクルマをカメラが見ながら停止しました。動き出すと、設定速度までスピードを上げていきますね。もちろん、前のクルマとの間隔を見ているわけです。

このハンドルが今、ググッとこう手応えが凄い出ています。これ、多分システムを切ると普通に柔らかくなります。そう、インフォメーションが先にしっかりあるというのが、スバルの特徴です。

インフォメーション無くていきなり制御だけしているクルマもあるんですけど、それはダメで、やっぱり『システムが動いているよ!』ってことをドライバーに分かってもらうことが最初に重要だと思います。

新型クロストレックのドライバーズシート
新型クロストレックのドライバーズシート
新型クロストレックのリヤシート
新型クロストレックのリヤシート

その次に、システムが自動で電動パワステを動かす。そんなイメージだと思うんですけど。メルセデス・ベンツやBMWも、システムが介入すると、このステアリングがグ~ッと重くなってます。

介入っていうのは、今センターを走っていますから、この車線の真ん中を狙って走っているときも手応えがしっかりある。これが大事です。今、日本のメーカーでコレができてんの、スバルくらいかな。

こういう話をして理解してくれる人は、本当に少ないです。運動性能をやっているチームが、このADASをやらなきゃいけないんだけど、どうしてもADASっていうとセンサーチームとか電子技術部みたいなところになってしまう。

本来、ドライバーは何が必要かっていう、いわゆるドライバビリティっていう視点が、どうしても足りないんですよね。

まぁ電子技術部もそうなんだけど、特にITS(Intelligent Transport Systems/高度道路交通システム)が絡むと、もっとクルマのドライバビリティからは遠くなってしまいますから。

自動車メーカーの中が縦割りになっているケースが多いんです。

●スバルって、何乗っても燃費は一緒。不思議~

はい、高速に入りました~。スバルはね、本当にクルマはいいんだけど、唯一気になるのは燃費。

レヴォーグのターボからインプレッサのNAから、何乗ってもリッター10~12km/Lくらいの間。やっぱ、このカーボンニュートラルの時代にあって、エンジン車で燃費悪いってのはちょっとイタいな。

●マジ賢いアイサイトを試す

ADASはホント、良く出来てるよ!
ADASはホント、良く出来てるよ!

いや~ADASは本当に使いやすいな、アイサイトは。特にLKAS(Lane Keep Assist System/車線維持支援システム)がいいよね。

白線をちゃんと見ているし、ステアリングもグ~~~っと手応えあるしね。車線の端っこに行こうとすると、自動で戻ってくる。車線から逸脱しそうになるとアラームが出て電動パワステがググッと動きますね。

それ以前に、センター中央を走っているときから、ハンドルの手応えがググっといつもシステムが介入している、LKASが介入しているぞ!っていうことを手のひらで感じることができます。

いや~このACC(Adaptive Cruise Control/定速走行・車間距離制御装置)とLKAS、本当に頭いいな! 今くらいのカーブだとちょっとODD(Operational Design Domain/運行設計領域)以外になってしまって、LKASがキャンセルされますけど、元の路線に戻ると自動的に復帰しますね。

SIドライブ(Subaru Intelligent DRIVE)、今、Iモード(インテリジェントモード)からSモード(スポーツモード)になりました。ウ~ン、もうちょっとタイヤのゴロゴロっていうのが無くなるといいなぁ~。

ドラポジも良いし、シートもしっかりしているし。スタンダードバージョンとすれば、いいクルマです。そんなにビックリするようなパワーでもないし。

今、横風が相当強いんだけど、かなりこのLKASシステムはいいですね。クルマがブレても、微妙に修正しているような感じ。

●AWDでアイサイトを試しながら、全メーカー開発陣に喝!?

以前、雨の中でプロトタイプを乗ったときと比べて、大分クルマは進化しています。細かいところがホント、大事なんですよね。

最近で言えば、ソフトウエアが非常に重要だと言われていて、特にこのアイサイトが優れているのは、クルマを分かっているチームとソフトウエアチームが一緒になってやっている感じがしますよね。

いや~ステアリング、いいなぁ。ステアリングフィールとアイサイトが、ホントに良くできている。

今乗っているのがAWDなんだけど、FFも悪くなかったですよね。でも、燃費はどっち載っても同じかな。だからスバルの場合、AWDだから燃費が悪いことはないですね。

値段が安いというのがFFのメリットだけど、どうせ買うならスバルはAWDがいいと思うんですけど。

●電動パワステの優れポイントを言う! あ、オフレコだったっけ!?

ソフトとハード、開発は1チームでやらないとダメなんだよ
ソフトとハード、開発は1チームでやらないとダメなんだよ

スバルの電動パワステが何でいいのか?っていうのを、前の技術本部長さんに聞いたらですね、まぁコレはオフレコっぽい感じもあるんだけど(笑)、ボッシュのシステムなんですね。

元々、これはZF(ドイツ)が開発していたもので、ZFがパワーステアリングをボッシュに売ったわけです。ですから、ボッシュがソフトウエアとセットで今、自動車メーカーに供給しているんですけど、そこが本当に良くできている。

スバルは元々、コラムじゃなくてラックにモーターを付けるタイプなんですけど、それが今、ダブルピニオンになっているんですね。

その辺は日本も日立アステモ(旧ショーワ/ホンダのね)、ジェイテクト(JTEKT)も同じようなものを持っているんですが、どうもボッシュがやるとソフトウエアに長けたチームがいる。だから、パワステ部門を買ったんだと思うんですけど。ハードとソフトが一体となって開発できるというのは、ボッシュの強みです。

たとえば、長く使っていくと当然、パワーステアリングですから、摺動部のフリクションが取れてきますよね。そうすると、フリクションで手応えなんかを出しているところがどうしても薄くなっていくところを、ソフトウエアで補ったりするそうです。ウ~ン、さすがボッシュだな!って感じですね。

シンプルだけど良い。それがスバルの良さでもあり
シンプルだけど良い。それがスバルの良さでもあり

なんでZFがボッシュに売ったかっていうと、ハードだけではだめなので、特に自動運転とかADAS系がからみますから、ソフトウエアと電動パワステってセットですよね。

そうすると、ソフトウエアに長けたボッシュが電動パワステのハードを持ったほうがいいと。そうすれば、ABSとセットでボッシュは非常に強いチームになれるわけですよね。

日本はなかなかそれが出来ないんですよね。たとえば、トヨタ系で言えば、日本電装がソフトウエアの先駆者、エキスパート集団ですけど、電動パワステはジェイテクトで違う会社。だから、デンソーがジェイテクトのパワーステアリング部門を買収する、みたいなことが起きると、また全然違ってくると思うんです。

そういうような変化が、日本ではなかなか起きない。サプライヤーのほうが縦割りになっていて、OEMが機能ごとの縦割りなので、そういう問題が起きていると思います。

同じように、ADASがいいのは、自前でカメラの技術とかソフトウエアとか、あと動かすところの加速、減速、ステアリング、それが自動車メーカー・スバルの中でアイサイトチームがやっていた、というのが強みです。

ソフトとハードが一体となっているというのが、このスバルのADAS、アイサイトとステアリングの良さの秘密ではないかと思います。

●再度、アイサイトを試す。システム介入が手のひらで分かるのが優れポイント!

アイサイトの優れポイントを言う!
アイサイトの優れポイントを言う!

さぁ、アイサイトをテストします。規制速度100km/hで設定速度100km/h。このLKASがいいな、やっぱりね、車線の真ん中走っているんですけど、微妙にシステムが動いているので、手のひらでシステムが作動しているっていうのが分かりますね。

だから、まずはインフォメーションがある。で、その先に制御がある。制御ありきではなくて、インフォメーションが大事だということが分かっています。

こういうクルマを作れるのは、やっぱりハードとソフトが一緒になっていないとダメでしょうね。開発チームという意味でね。

スバルのアイサイトチームはずっとハードとソフト、1セットのチームで動いてきましたから。内製で自分たちがまずやってきたというところが、スバルの今の強みです。これはなかなか真似できないんです。

やっぱね、自動車って一夜にしてならずで、その経験が大事。リアルワールドで、いろんな路面を走りながら作り込む。まぁ愚直なんですけど、そういう作業が本当に大事。

●新型クロストレック総括!「何食べようか迷ったら醤油ラーメン」その意味とは?

いや~クロストレックいいなぁ! 派手さはないんだけど、アイサイトはいいでしょ、このステアリングフィールいいでしょ、エンジンの振動が無くなっているし、『燃費以外』は全部いいね!

ということで、派手さはないんだけど、じっくりスバルはいいクルマ作ったなってことで、このカーナビの『ワッツ3ワード』含めて、私はけっこうおススメします。

新型クロストレックは醤油ラーメン!?
新型クロストレックは醤油ラーメン!?

今日何食べようか?って悩んだ時に、とりあえず醤油ラーメン食っとけばいいんじゃない!?っていうようなイメージで、クルマ何選んでいいか分からない時に、スバルのインプレッサ、もしくはクロストレックを買っておけば間違いないんじゃない!?っていうようなイメージ。

ハイブリッドでも何でもないんだけど、よくできています。スバルは10kWのモーター使ったハイブリッドと言っていますけど、ちょっとね、10kWのモーターだと、上には『とんこつラーメン+トッピング全部乗せのハイブリッド軍団』がいますから、この素朴な醤油ラーメン、これはスバルのウリなのかなって気がします。


バリバリのハイブリッドはとんこつラーメン全部乗せ、でもクロストレックはあっさり醤油ラーメン。なんだかよく分かったよ~な気がします(笑)。

清水和夫さんによる新型クロストレックのすべてのインプレッションは、動画で!

(試乗インプレッション:清水 和夫/動画:StartYourEnginesX/アシスト:永光 やすの

新型クロストレックの主なスペック
新型クロストレックの主なスペック

【SPECIFICATIONS】
車名:SUBARU CROSSTREK Limited([ ]内はAWD車)
全長×全幅×全高:4480×1800×1535mm
ホイールベース:2670mm
トレッド(前/後):1560/1570mm
車両重量:1560[1610]kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.4m
エンジン種類;水平対向4気筒DOHC
内径×行程:84.0×90.0mm
総排気量:1995cc
エンジン最高出力:107kW(145ps)/6000rpm
エンジン最大トルク:188Nm(19.2kgm)/4000rpm
燃料タンク容量:48L(無鉛レギュラー)
モーター形式/種類:MA1/交流同期電動機
モーター最高出力:10kW(13.6ps)
モーター最大トルク:65Nm(6.6kgm)
ミッション:CVT
燃料消費率(WLTCモード):16.4[15.8]km/L
サスペンション形式(前/後):ストラット/ダブルウイッシュボーン
ブレーキ(前/後共):ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前/後共): 225/55R18
車両本体価格(税込):3,069,000[3,289,000]円

【関連リンク】

StartYourEnginesX
https://www.youtube.com/user/StartYourEnginesX

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この記事の著者

清水和夫 近影

清水和夫

1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、スーパー耐久やGT選手権など国内外の耐久レースに参加する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。
自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。clicccarでは自身のYouTubeチャンネル『StartYourEnginesX』でも公開している試乗インプレッションや書下ろしブログなどを執筆。
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