新型レガシィアウトバックで1000km走って分かったコト。スバル車に授けられた「総合雪国性能」って? 燃費は?

■「乗用車」と「SUV」の良いトコロを凝縮した1台

SUBARU レガシィ アウトバックは初代が1994年に登場。現行は第6世代で2021年10月に発売された
SUBARU レガシィ アウトバックは初代が1994年に登場。2021年10月発売の現行モデルは第6世代

広告を入れず、独自の手法で徹底的なテストを行うことで知られるアメリカの消費者情報誌『コンシューマーレポート』。その「2022年自動車ブランド別総合ランキング」で、見事トップに輝いたのがSUBARUでした。ロードテストのスコアをはじめ、信頼性や顧客満足度、安全性、環境性能など、様々な観点からの評価を盛り込んだランキングで、並み居る欧州勢、米国勢を抑え込んでポールポジションを獲得したのです。アメリカにおけるSUBARU人気の強さを改めて認識させる快挙でした。

ところで、盤石の人気を誇るアメリカのSUBARUで、販売面を支えるトップ3がクロストレック、フォレスター、そしてレガシィ アウトバック(現地名:アウトバック)です。

“いかにも”な風情のSUVやピックアップトラックが主流を占めるかの地で、車高をもちあげたステーションワゴン=いわゆるクロスオーバースタイルをもつアウトバックは、どこか上品で知的、かつ質実剛健なイメージを放っています。キャンパスやオフィスビルに乗りつけても乗用車然としてよく似合うし、休日はワイルドな自然の中で送り込んでもSUVに比べて性能に見劣りするところがありません。まさしくオールラウンダーとはこのこと!と叫びたくなるクルマ。アメリカで毎月1〜1万5千台も売れているという事実にも納得するしかありません。

●道中ほぼ余裕なしの1000kmドライブを敢行

クロスオーバースタイルのアウトバックは高速巡航が快適
アウトバックのコクピットに収まり、目指すは金沢。天候は生憎の雨

さて、そんなアウトバックの「総合雪国性能」を試してみないか、とクリッカー編集部から着信があったのは2月上旬のこと。

「はて、総合雪国性能とは?」

とギモンには思ったものの、「行き先は金沢、雪の金沢ですよ。見たくないですか」という魅力的な誘い文句に「もちろん行きます」と即答。東京〜金沢の往復1000kmドライブへ出掛けることになったのでした。

が、編集部から手渡されたのは、朝10時に東京・恵比寿SUBARU本社を出発し、金沢で1泊、翌日17時までに恵比寿へアウトバックを返却するという超タイトなスケジュール。

アウトバックはアイサイトXが標準装備。往路はACCに頼りまくってストレスを軽減
アウトバックはアイサイトXが標準装備。往路はACCに頼りまくってストレスを軽減

朝の10時に恵比寿を出たら、金沢についたら真っ暗なのでは? 翌日も、結構早めに現地を離れなければ、17時までに帰京なんて到底ムリ。せっかくの冬の金沢、ゆっくり雪の兼六園なんか楽しみたいんですけど……。

しかも取材日前日、編集部からはさらにハードな申し出が。「金沢、雪降ってないみたいですね。じゃ、長野自動車道から中部縦貫自動車道の方にいって、乗鞍岳あたりのスキー場エリアに立ち寄って雪上性能をテストしてから目的地へ向かいましょう。で次の日は朝早く出て東京戻りってことで」

……ということは道中ほとんど余裕なし。「東京〜金沢往復1000kmプラス奥飛騨寄り道コース」を徹頭徹尾走りっぱなしのストイックな行程。しかし、結果的に、この強行軍だったからこそ「アウトバックでよかった!」と我々取材班は心底実感することとあいなったのです。

●「積める」し、「走れる」

アウトバックのラゲージは容量たっぷり。荷室床までの高さが抑えられているので積み卸しもしやすい
アウトバックのラゲージは容量たっぷり。荷室床までの高さが抑えられているので積み卸しもしやすい

出発日の朝、恵比寿はあいにくの雨。カメラマン、小林編集長、そこに私を加えた取材班を迎えてくれたのは、スタッドレスタイヤを履いたピカピカのアウトバックです。3人分の旅行バッグ、撮影機材、さらにはSUBARU側が用意してくれた雪対策グッズ(長靴、スクレイパー、万一の際の布製タイヤチェーンなど)をリヤゲートからラゲッジスペースへ次々積み込んでいくスタッフの傍らで、ひとり気まずい顔をする私に、編集長は言いました。

「ナニ、その余計な荷物?」

実はこの日のために、雪の中でティータイムを楽しめるよう、ガスコンロとケトル、カップにソーサーを揃えた“アウトドアでお茶セット”一式をこっそり用意していたんです。ほら、撮影のときに映えると思って……。(余計な荷物を増やしおって)という編集長の視線が刺さります。

「もうひとつのでかいのは?」

えーと、金沢の古い街並みは狭いし、折りたたみの自転車があったら観光しやすいかと……。

アウトバックはシートヒーターのヒーターエリアが広く取られているので、極寒の取材でかなり助けられました
アウトバックはシートヒーターの加温エリアが広く取られているので、極寒の取材でかなり助けられました

ぶつぶつ言い訳する私を横目に、すでに8割方埋まりつつあるアウトバックの荷室をなんとか整理整頓する男性陣。しばしののち、お茶セットも折りたたみ自転車も全員の荷物+撮影機材まで、綺麗に積み込むことに成功!いや〜アウトバックの積載性、さすがです。

ちなみに現行アウトバックは、荷室フロアの長さや幅、ゲート開口部幅、容量などが先代比ですべてアップしているのはもちろん、軽く叩いただけで自動的に巻き上がるポップアップトノカバーやフック、ネット、V12電源など、使い勝手に関する装備がさらに充実していて、「あ〜便利!」と感じるシーンが一段と増えていました。

荷物を満載したアウトバックに大人3人が乗車し、まずは降雪量充分の奥飛騨エリアを目指して中央自動車道〜長野自動車道方面へ。道中いくつかの渋滞区間をやり過ごさねばならなかったものの、SUBARUご自慢のアイサイトXを駆使したACCのおかげで、長距離運転のストレスはほとんど感じることがありません。

ステーションワゴンスタイルのアウトバックだから高速巡行での安定感が非常に高く、足がしなやかに動いてくれるから乗り心地も快適そのもの。風切り音も静かで、車内の会話も弾みます。出発から200kmを過ぎて松本ICで長野自動車道へ分岐する頃になってもまったくの疲れ知らず。これなら金沢どころか鳥取、島根まで行けと言われても大丈夫、という気分です。

●雪上ドライブはお手の物

雪のたっぷり積もった乗鞍岳の麓で「もうひとつの顔」を見せたアウトバック
雪のたっぷり積もった乗鞍岳の麓で「もうひとつの顔」を見せたアウトバック

トンネルを抜けたらそこは雪国。銀白の世界が広がる乗鞍岳の麓では、アウトバックはもうひとつの顔を我々に見せてくれました。

「ここで撮影しよう」

カメラマンが指定した場所はふかふかの新雪があたり一面を覆い尽くした広大なスペース。足首まで一気に飲み込んでしまう雪の深さと柔らかさに、一瞬「スタック」の文字が頭によぎります。しかし現行アウトバックは先代比+13mmの213mmの最低地上高を確保。SUVとはいえ最低地上高が200mmを切るモデルも少なくない今、アウトバックは豊かなロードクリアランスにこだわっていることがわかります。アプローチ/ブレークオーバー/ディパーチャーの各アングルもすべて向上しているという頼もしさ。ここはアウトバックの基本性能に頼るしかありません!

XーMODEは「深雪やぬかるみなどタイヤが埋まってしまような道」を想定した「DEEP SNOW・MUD」モードに
XーMODEは「深雪やぬかるみなどタイヤが埋まってしまうような道」を想定した「DEEP SNOW・MUD」モードに

さらに、ここで活躍するのが、4輪の駆動力やブレーキなどを制御して、滑りやすい道やぬかるみ、雪道などでの走りを助ける「Xモード」。「Deep Snow/Mud(深雪/泥)」を選択し、おそるおそる走り始めると……拍子抜けするほど普通に走り出すアウトバック。そのあまりの危なげない安定した走りに、気分はすっかりチュリニ峠をゆくラリーストです。カメラマンのOKサインをスルーして、雪上ドライブを夢中で楽しんだせいで、金沢到着時間は当初の予定からおおいにずれ込み、真っ暗闇のピットインとあいなりました。

●「アウトバックでよかった……」

2日目の朝、金沢の街は雪模様。早速古都を目指します
2日目の朝、金沢は雪模様。早速古都の街並みを目指します

2日目の朝、ホテルのカーテンをあけると、街一面に大粒の雪が舞い降りているではありませんか!夢にまで見た雪の金沢。いそいそと折りたたみ自転車を取り出して古都の街へ散策に出掛けます。風情は最高。ここも見たいしあそこも行きたい。

「もう出ないと。恵比寿17時に間に合わないから」

浮かれて散策用の折りたたみ自転車を準備
浮かれて散策用の折りたたみ自転車を準備

浮かれる私の耳に飛び込んできたのは非情な編集長の指示。狙っていた回転寿司店の開店時間も待たずに、我々取材班は雪の金沢を後にしたのでした。

さあ、あとは東京へ帰るだけ、と油断しきっていた私でしたが、ここで取材班を今回最大の危機が襲います。上信越自動車道上りの妙高高原あたりに近づくと、雪がどんどん激しさを増し、視界はほとんど白一色に。高速道路上では除雪トラック2台が編隊を組み、梯団(ていだん)除雪が行われるほどの状況になってしまったのです。

帰り道では高速道路上に除雪車が入るほどの大雪に。時速20〜30km走行しかできない状態
帰り道では高速道路上に除雪車が入るほどの大雪に。時速20〜30km走行しかできない状態

ちなみに、除雪車の追い越しはダメ、絶対。のろのろ運転だからといって無理に追い越すのは危険だし、凍結防止剤散布作業中だった場合は、防止剤をもろに喰らってしまう可能性も。なにより、除雪作業後の路面を走ったほうが格段に安全です。

路面の白線が見えないためアイサイトは使えず、時速20〜30kmの超低速走行を続けること30分。実は、これが今回もっとも「試乗車がアウトバックでよかった」としみじみ実感した時間でありました。相当な集中力が必要とされる悪天候のなかで、これほど安心して安全に運転し続けることができたという事実こそ、アウトバックの優秀性を象徴しているのではないでしょうか。

金沢を満喫……とは行かなかったものの、アウトバックの「総合雪国性能」を改めて実感した2日間でした
金沢を満喫……とは行かなかったものの、アウトバックの「総合雪国性能」を改めて実感できた2日間でした

ことほど左様に、「総合」的に「雪国」で使うための「性能」が高いことがわかったアウトバック。細かい話ですが、シートヒーターは脚部、腰分だけでなく肩部まで加温エリアを拡大していたり、速攻で温まるステアリングヒーターを装備しているのも、冷え性な私にとって地味に嬉しいポイントでした。

SUBARU恵比寿本社に到着し、試乗車をお返ししたのは17時ジャスト。最初から最後まで慌ただしさに追われた真冬の東京〜金沢1000kmドライブでしたが、2日間の強行軍を終えてもなお、決して若くない自分の体がさほど疲れていなかったこともアウトバックのおかげであったというべきでしょう。

ちなみに2日間で1000km、行程の8割方は高速道路、それ以外はわりと混み合う都心部、かつコンディションは雨もしくは雪という条件下で、アウトバックの燃費計は「平均10.3km/リッター」を示していました。決して「好燃費!」と手放しで喜べる数字ではないかもしれませんが、給油は金沢到着時の一度のみ(給油量47.93リッター、リッター当たり162円=合計7765円)で済み、レギュラーガソリン仕様なのでお財布にちょっと優しくしてあげることができました。なお、試乗車返却時の残走行距離は110kmでした。

アメリカのサンフランシスコ郊外に住む知人の大学教授は、アウトバックに乗り続けて20年超。いつかSUVやピックアップに乗り換えるつもりはないの?と訊いたことがあるのですが、「なんでその必要があるんだ?」と言下にばっさり。「平日に一人で乗っても休日に家族を乗せても、都会に出ても山へ行ってもこれほどシーンにマッチするクルマを僕は知らない。いろんな意味でリーズナブル(手頃、合理的、理にかなった、などの意)だしね」。

アウトバックを返した後、彼が一途にアウトバックを愛し続けている意味がようやく実感できたのでした。

●テスト車:SUBARUレガシィ アウトバック X-BREAK EX

全長×全幅×全高:4870×1875×1670mm
ホイールベース:2745mm
車両重量:1710kg
駆動方式:AWD
エンジン:水平対向4気筒ターボ
総排気量:1795cc
最高出力:130kW(177ps)/5200〜5600rpm
最大トルク:300Nm/1600〜3600rpm
トランスミッション:リニアトロニック(CVT)
サスペンション:前ストラット 後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ:前後225/60R18
車両本体価格:418万円
テスト車装着オプション:ハンズフリーオープンパワーリヤゲート(リヤゲートロックスイッチ付、7万7000円)/ハーマンカードンサウンドシステム(13万2000円)/サンルーフ(11万円)

(文:三代やよい/写真:伊倉道男)

この記事の著者

三代やよい 近影

三代やよい

自動車メーカー勤務後、編集・ライティング業に転身。メカ好きが高じて、クルマ、オートバイ、ロボット、船、航空機、鉄道などのライティングを生業に。乗り継いできた愛車は9割MT。ホットハッチとライトウェイトオープンスポーツに惹かれる体質。
生来の歴女ゆえ、名車のヒストリーを掘り起こすのが個人的趣味。
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