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■国家資格の取得はもちろん、クルマ新時代に対応できる人材育成
日産自動車(以下、日産)直系の自動車整備専門学校「日産・自動車大学校」の授業が、とてもユニークで面白いことをご存じでしょうか?
栃木、横浜、京都、愛知、愛媛の全国5校で展開する同校は、自動車整備士の国家資格で高い合格率を誇るだけでなく、学生の将来に役立つさまざまな取り組みを行っています。
例えば、世界初の量産型100%電動車「リーフ」を使い、将来のEV時代にも対応できる知識や技術を学べるEV専門の授業を実施。
また、国内最高峰レースのひとつ「スーパーGT」に、近藤真彦監督が率いる日産系チーム「KONDOレーシング」の協力を得て参加することで、チャレンジ精神やチームワークの大切さなどを学べる活動も行うなど、日産直系の強みを活かした、さまざまな活動やプログラムが注目されています。
いずれも、「100年に一度の変革期」と呼ばれ、激動する自動車業界で生き残る腕(すべ)を、学生さんたちに習得してもらうことが目的。まさに、「未来のメカニックを育てる」ことを目指しているのです。
では実際に、同校にはどのような特徴があり、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか? また、特に、学生さんたちに学んでもらいたいことや、どのような社会人になって欲しいと考えているのでしょうか?
日産・自動車大学校の5校を統括する、学長の本廣好枝氏にお話をお聞きしました。
●特徴1:全国5校それぞれに特色や魅力がある
日産・自動車大学校が持つ大きな特徴のひとつが、全国展開を行っていることです。東から以下の5校があります。
・栃木校(栃木県河内郡)
・横浜校(神奈川県横浜市)
・愛知校(愛知県名古屋市)
・京都校(京都府久世郡)
・愛媛校(愛媛県松山市)
本廣学長によれば、
「5校が地方に散らばっていることで、いろいろな地域の学生さんに学んでもらっています。また、各校では設置する学科などに、それぞれ特色があることもポイントです。もちろん、(5校ともに)自動車整備専門学校ですから、整備士の国家資格を取得するための学科は共通してありますが、それ以外にも、各校オリジナルの上級課程を設けているのです」
5校で共通の学科は、
・自動車整備科(2年課程)
・一級自動車工学科(4年課程)
の2つ。加えて、各校では、それぞれ以下のような学科を設けています。
・栃木校:自動車整備・スポーツメカニクス科、国際自動車整備科
・横浜校:モータースポーツ科
・愛知校:自動車整備・トータルマスター科、自動車整備・カーボディマスター科、自動車整備・マスターメカニック科
・京都校:自動車整備・ボディリペア科、自動車整備・カスタマイズ科、国際自動車整備科
・愛媛校:国際自動車整備科
これらのうち、例えば栃木校の自動車整備・スポーツメカニクス科や、横浜校のモータースポーツ科などは、実際に学生さんたちがサーキットやレース参戦を通じ、より深い車両整備や運転スキルを学べる課程。クルマの楽しさを知るエンジニアを養成することも目的としています。
また、愛知校の自動車整備・カーボディマスター科では、基本となる自動車整備の課程を学んだ後、事故などでダメージを受けたクルマのボディを元通りに修復する、板金フレーム修正などの特殊技術を習得する授業もあります。
さらに、京都校の自動車整備・カスタマイズ科は、同じく自動車整備の課程に加え、自動車整備・ボディリペア科で板金の技術を学んだあと、カスタマイズの技術も学べる学科。FRPの成型技術でオリジナルエアロパーツを製作したり、エアブラシやメッキ塗装といったカスタムペイントを学ぶことができる授業もあります。
しかも、これらの学科は、自動車整備科や一級自動車工学科といった、各校の共通学科を学んだ後に選択することも可能。また、例えば、栃木校の学生さんが、基礎となる自動車整備の共通学科を2年または4年間学んだ後に、京都校の自動車整備・ボディリペア科に編入した後、さらに同校の自動車整備・カスタマイズ科へ進む、といったこともできるそうです。
本廣学長いわく、「学生さんのやりたいことや自主性に応じた、さまざまな組み合わせができることも特徴のひとつ」なのだそうです。
ちなみに、栃木校と京都校、愛媛校にある国際自動車整備科は、海外からの留学生向けに設置されている学科。最初の1年間は主に日本語を学び、残りの2年間で日本人学生と共に自動車整備について学ぶコースです。
日産・自動車大学校では、そのほかの2校でも留学生の受け入れを行っていますが、これら3校では、留学生向け学科を特別に設けていることが特色です。
●特徴2:日産メカニックチャレンジでレースを体験
全国に自動車整備専門学校はたくさんありますが、特に、日産・自動車大学校がほかの学校と違う点は、前述した学生のレース参加もそのひとつ。「NISSAN MECHANIC CHALLENGE(以下、日産メカニックチャレンジ)」という活動を行っています。
本廣学長は、活動内容について、こう説明します。
「スーパー耐久やスーパーGTといった、国内のトップレースに学生が参加する活動です。例えば、スーパーGTでは、KONDOレーシングさんのご協力を得て、学生が実際にピットでメカニックのサポートをしたり、チームに協賛して頂いているスポンサー企業の方をおもてなしするなどの活動を行っています。また、広報活動として、メディア登録をし、レースの現場で写真撮影や取材を行い、レポート作成までを担当する学生もいます」
ちなみに、KONDOレーシングといえば、前述の通り、歌手でタレントの近藤真彦氏が監督を務めるレーシングチーム。2022年シーズンは、日産が誇るスポーツカー「GT-R」をベースとする「リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R」で、GT300クラスに参戦、シリーズ優勝も果たしました。
この活動は、希望すれば、全国5校すべての学生たちが参加できます。本廣学長によれば、
「(2022年シーズンの)スーパーGTは全8戦で行われましたが、例えば、栃木校なら第6戦スポーツランドSUGO(宮城県)戦や第8戦モビリティリゾートもてぎ(栃木県)戦を担当。横浜校は、第2戦の富士スピードウェイ(静岡県)が近いのでそこを担当するなど、各校に比較的近いサーキットで開催される大会へ行きます。1校あたり1〜2戦を担当する感じですね」
本廣学長は、活動趣旨についてこう語ります。
「レースの現場では、自分から積極的に動くことが必要ですから、学生たちに自主性や主体性を培ってもらうことが大きな目的です。また、チームワークの大切さも学んでもらうことで、卒業して社会人になったときに役立つ人間力を取得してもらいたいと思っています」
こうした活動は、まさに、日産直系の学校だからこそ可能なことですよね。
なお、日産・自動車大学校はクラブ活動も盛んです。例えば、野球部やサッカー部といったスポーツ系から、カート部やカーメインテナンス部などのクルマ系まで、各校に多様なクラブがあります。さまざまな課外活動を行っていることも、この学校の特色なのです。
●特徴3:EV整備やADAS関連の特別授業
本廣学長に挙げて頂いた大きな特徴の3つめが、先進技術に関する授業です。
「日産は、(クルマの)電動化と知能化を事業の2本柱においていますが、学校でも、それに沿ったカタチの特別授業を行っています」
電動化に関しては、先に紹介した通り、リーフを使ったEVの整備などに関する専用授業を実施しています。
「今後、EVの時代になっていくので、学生たちにもそれらに対応できる技術や知識を習得してもらうことが目的です。おそらく、ほかの自動車整備専門学校で、リーフなどのEVを教材として用意することはなかなかできないと思いますので、この点も(日産直系の)優位点だと思っています」
なお、日産・自動車大学校では、日産自動車の「整備士向けEV講座」のカリキュラムを授業に導入しており、受講後のEV認定資格は、日産販売会社に就職したのちも適用されます。
ほかにも、衝突被害軽減ブレーキなど、最近のクルマに普及が進むADAS(先進運転支援システム)に関する整備も実施しています。
例えば、エーミング作業。これは、他車両や歩行者、障害物などの検知に使われるカメラやセンサー類が装着されているフロントウインドウやバンパーなどを、事故などで交換する際などに必要な整備です。
新しい部品を取り付けた際に、カメラやセンサー類にズレがある場合は修正し、ADASが正常に作動するようにセットアップする作業で、今後の自動車整備では必須ともいえます。
「ちょうど、自動車整備士の資格制度も見直しが図られている最中で、エーミングなど、従来にない整備作業も盛り込んだ内容の新制度に切り替わると想定しています。2025年以降に入学する学生は、そうした新制度に対応した新しいカリキュラムで授業を受けることになりますので、現在、いろんな準備を行っています」
ほかにも、本廣学長によれば、「プロパイロット2.0」など、クルマの知能化に関する最新技術についても、日産の開発者から直接話を聞くことができる授業もあるのだとか。
プロパイロット2.0といえば、高速道路などの同一車線上で、先行車と車速に応じた車間距離を保ちながら運転を支援する先進システム。一定の条件を満たせば、ハンズフリー走行も可能という、日産が誇る最新技術です。
授業では、開発の裏話など、ほかではなかなか耳にできない、貴重な経験談などを聞けるそうです。
さらに、特別授業には、日産の販売会社などでアフターセールスを務める担当者から、整備技術に関する講座もあり、最前線の現場におけるナマの話も聞けるといいます。
「もちろん、最先端技術だけでなく、自動車整備士の国家資格を取得するための勉強は、自動車整備専門学校としては基本中の基本。当然ながら力を入れています」
という本廣学長。ちなみに、日産・自動車大学校の国家資格合格率は、2021年度の実績で、
・国家一級自動車整備士95.3%(日産校5校の筆記試験の実績)
・国家二級自動車整備士98.8%(日産校5校の実績)
・国家車体整備士96.8%(日産校の実績)
と、全国でもトップクラス。基本である国家資格で高い水準を持ちながらも、さまざまな取り組みを行うことで、
「つねに時代をリードする人間力・技術力を兼ね備えた自動車エンジニアを育成し、自動車業界および社会の発展に貢献する」
という、同校が掲げる教育理念を実現しようとしているのです。
●チャレンジ精神と社会の荒波に負けない人間力が大切
独特の特徴を持つ日産・自動車大学校ですが、学生さんたちには、特に、どんなことを学んでもらいたいのでしょうか? 本廣学長は、こう語ります。
「当校では、日産のDNAでもある『他のやれないことをやる』、つまりチャンレジ精神を持ってもらうことを大切にしています。あとは、あくまで個人的意見ですが、社会の荒波でも生き残れる人間力。
(前述の通り)自動車整備専門学校ですから、自動車整備士になるための国家資格や技術の取得は当然、大切です。ですが、社会の厳しい現実に直面すると、国家資格を持っているだけでは生き残れません。挑戦する気持ちや自ら進んで動く自主性や積極性、そして、ほかの仲間たちとのチームワークがとても重要になると考えています。
ご紹介した日産メカニックチャレンジなどの活動も、そうした卒業後にも役立つことを会得してもらうためにやっているのです。
学生のなかには、入学当初にはあまり積極性がなく、ふんわりとした性格の人もいます。ですが、授業やさまざまな活動を体験することで、『やってみたら結構おもしろい』などと感じ、徐々に積極的になっていく人もたくさんいます。
また、学生の半数以上が、工業科などでなく、普通科の高校を卒業して入学しています。入学前に、工学的な知識は必ずしも必要ないのです。必要な知識や技術などは、入学してから十分に学べますから、普通科に通っていて入学を検討されている高校生の方も、安心して門戸を叩いて頂ければと思います」
●主な進路や活躍している人は?
自動車整備士の国家資格から社会に出たときの人間力まで、幅広く学ぶことができる日産・自動車大学校。では、実際に、卒業生の多くは、どういった道に進む人が多いのでしょう?
本廣学長によれば、
「卒業生の約7割が、日産系列の販売会社に就職し、サービス部門で整備士などをやっています。ただ、なかにはクルマの開発に携わる人もいて、日産社内の開発部門や関連の開発会社に入る人もいますね」
ちなみに、卒業生の約8割が、日産系列の企業に入るのだとか。就職面でも、日産直系の学校である強みが出ているようです。
「残りの約2割は、日産系列以外の企業に就職していて、なかには他の自動車メーカー系列の販売会社や開発会社に進んでいる人もいます」
メーカーの垣根を越えて、広く自動車業界に人材を送り出していることの証ですね。では、実際に、卒業生には、どんな活躍をしている人がいるのでしょうか?
「身近な例では、日産の販売会社に自動車整備士として入社し、工場長へ昇格。その後、その会社がある拠点のトップとなり、役員クラスとして活躍している人もいます。整備業界の頂点に立つ人材に成長したということですね。
また、自分で会社を起業し、自動車業界で有名になった人もいます。例えば、トランスウェブという運送会社の前沢 武社長がそうですね」
ちなみに、2001年に前沢社長が立ち上げたトランスウェブは、大型トランスポーターを用いた荷物運搬やチャーターなどを行っている企業です。事業の一環として、モータースポーツ関連にも携わり、スーパーGTやスーパーフォーミュラなどのレーシングマシンの運搬なども実施。日産・自動車大学校でも、日産メカニックチャレンジでお世話になっているそうです。
ほかにも、同校では、前述の通り、全5校で海外からの留学生も積極的に受け入れており、主にベトナム、スリランカ、ネパール、バングラデシュといったアジアの国々から学びに来ているといいます。
そして、多くが卒業後、日本の企業で働いているのだとか。少子高齢化が進み、人手不足に悩む日本の新しい力として活躍しているのです。
また、なかには、母国に帰り、自分で事業を始めた人もいるといいます。日産・自動車大学校でも、コロナ禍の影響により、現在は留学生の数が減っているといいますが、以前は入学生の約3割が、他国から学びにきた学生さんたちだったそうです。
「コロナ禍による制限が緩和されつつある現在、日本に学びにくる留学生も増えていますから、2024年頃からは、再び増えることに期待しています」
とは、本廣学長の談。
また、これまでの実績でいうと、入学した多くの留学生の母国は、これから自動車産業が発展することが見込まれているアジア諸国。ほぼすべての国に、日産系列の販売会社などもあるそうです。
そう考えると、もし再びアジアからの留学生が増えれば、近い将来、日産・自動車大学校で学んだ海外の若い人材が、日本はもちろん、発展するアジア自動車業界の原動力として、現地の日産系列会社などで活躍する未来がくるかもしれませんね。
●進学を検討する親御さんへのメッセージ
最後に、本廣学長から、進学を検討している親御さんにメッセージをお願いしました。
「日産・自動車大学校は、いろんなことにチャレンジできる環境があります。繰り返しになりますが、自動車整備士の国家資格を取得することはもちろんです。そして、それ以外にも、今までご説明したような、さまざまな知識や経験を身に着けるための活動やプログラムをご用意しています。
また、学生と教員の距離がとても近く、勉強だけでなく、心のケアまで、幅広い領域で学生に寄り添っていることも長所だと思っています。
私は、一般大学を卒業し、学長として初めて自動車整備専門学校に来ましたが、大学時代、ゼミ以外で教員とつながる機会はほとんどありませんでした。特に、生徒数が多いマンモス校だったこともありますが。
一方、日産・自動車大学校に赴任した当初、本当に教員が、学生の1人1人と向き合っているところを目の当たりにし、とても素晴らしいことだと感じ、それを今でも大切にしています。
実際に、学生数に対する教員の割合は、実習では学生25名に対し教員1名。学科についても、法律的には学生50名に対し教員1名でもいいのですが、学生約40名に対し担任1名と副担任1名をつけるようにしています。
本当に、各学生と教員のコミュニケーションがとりやすいことも、魅力のひとつだと自負しています。どうぞ、安心して預けて頂ければと思います」
自動車整備士の国家資格からクルマの先進技術に関する知識、そして、社会で役立つ人間力。それらを学生1人1人と向き合い、親身になって学んでもらう授業体制などが、日産・自動車大学校の魅力。若い世代が「未来のメカニック」として羽ばたくためには、まさに最適な学舎(まなびや)だといえるでしょう。
(文:平塚 直樹/写真:日産・自動車大学校、日産自動車、井上 誠)
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