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■三菱自動車の市販車開発車両の本音に迫る
●5kgもの計測器をリヤに搭載
「モータースポーツは車両開発の場」という言葉はよく使われる言葉ですが、それを疑う人も数多くいます。つまり「レースやラリーをやりたいための言い訳」と思っている人も多い。
しかし、アジアクロスカントリーラリーのモータースポーツの現場に、久方ぶりに復帰参戦し、優勝を果たしたチーム三菱ラリーアート。その戦力車であるトライトンは、まさに開発のための車両でした。
トライトンはラリーでの戦闘力をアップするため、ドアなどボディ剛性に関係しないパーツはカーボン製に交換するなど徹底した軽量化が図られていました。しかしリヤシートが取り外されたフロアにはかなり大きめの機材が搭載されていました。
この機材は何か? ラリーの現場に同行していた三菱自動車の第二車両技術開発本部の田中泰男氏ににたずねたところ、ボディの状態を計測する機材で、重量は約5kgもあるとのことでした。
●ボディ各所に9個のセンサーを配置
計測器からはハーネスが伸ばされ、ボディ各所に取り付けられたセンサーからの情報が蓄積されます。センサーの取り付け場所はショックアブソーバートップや、ホーシング左右、タイロッドなどで、フロアの中央部分にも取り付けられています。各センサーは前後、左右、上下の動きなどを計測する仕組みです。
田中氏によれば「トライトンはあらゆる路面に対応する性能が求められるため、このラリーでデータが取得できるのは開発に非常に役立つ」とのこと。ラリーアートの復活は開発部隊から見れば、よりいいクルマを開発するためのツールが増えたということにもなるのでしょう。
競技車にしてはずいぶん大きな計測機器を積んでいることをたずねたら「普段、市販車の開発で使っている計測機器をそのまま搭載してもらっています。我々岡崎の開発部隊が普段使っているものをそのまま使うことで、開発スピードをアップすることができます」とのこと。
今回のラリーではとくにボディへの影響についてのデータ取りを重視したとのことですが、エンジンなどの出力系統のデータもしっかりと取得しています。出力系統のデータは、レース用ECUであるMoTeCに保存されるので、それらのデータを吸い出して利用するとのこと。
地道なデータ取りを行うモータースポーツの現場は、まさに開発の現場でした。
(文/写真:諸星陽一)