ヤマハが新型「トレーサー9GT+」に搭載した世界初のレーダー連携ブレーキとは? 開発者に聞いてみた

■レーダーで前方のクルマなどを検知しブレーキをアシスト

ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)が、欧州で発表した新型の大型ツアラー「トレーサー9GT+」。

ヤマハ新型トレーサー9GT+のレーダー連携ブレーキとは
ヤマハ・トレーサー9GT+

888cc・直列3気筒エンジンを搭載するスポーツツアラー「トレーサー9GT」をベースとする2023年ニューモデルですが、注目なのは、ミリ波レーダーの搭載により、高速道路で一定の車間を自動で保ちながら前車を追従する「ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)」が搭載されたこと。また、「レーダー連携UBS(ユニファイドブレーキシステム)」も採用されています。

特にレーダー連携UBSはヤマハが世界初という新機構で、前方のクルマなどと衝突する危険がある場合に、ブレーキ力をアシストしてくれることで、高い安全性を実現するといいます。

なかなか凄そうな新システムですが、実際に、どんな機能を持ち、どんな時に役立つのでしょうか?

ヤマハが2022年11月11日に実施した、「事故のない社会」を目指すための取り組みなどを発表したプレス向け「安全ビジョンおよび技術説明会」で実際に車両が展示され、開発者によるシステムの説明もあったので、その内容を紹介しましょう。

●数々の新技術を投入する大型スポーツツアラー

ヤマハのトレーサー9シリーズは、2015年に発売された「MT-09トレーサー」を元祖に持つ、ヤマハの大型スポーツツアラーです。

ヤマハ新型トレーサー9GT+のレーダー連携ブレーキとは
トレーサー9GT+のリヤビュー

ネイキッドモデル「MT-09」をベースに開発されたMT-09トレーサーは、2018年モデルチェンジ時に車名を「トレーサー9」へ変更。スタンダードモデルに加え、2018年には、上級モデルの「トレーサー9GT」も発売され、現在、国内では9GTのみをラインアップしています。

ヤマハ新型トレーサー9GT+のレーダー連携ブレーキとは
トレーサー9GT+のエンジン

2021年にモデルチェンジを受けた現行モデルのトレーサー9GTは、最高出力120ps/最大トルク93Nmを発揮するトルクフルな888cc・直列3気筒エンジンをCFアルミダイキャスト製の軽量フレームに搭載。

電子制御サスペンションや軽量・高剛性のスピンフォージド・ホイールなど、数々の新技術を投入することで、高いスポーツ性能と実用機能を両立しているモデルです。

●ACCは車間距離を4段階で調整可能

トレーサー9GTの上級バージョンとして登場する新型トレーサー9GT+では、まず、ミリ波レーダーを搭載することで、ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)を新採用しています。

ヤマハ新型トレーサー9GT+のレーダー連携ブレーキとは
新型トレーサー9GT+の走り(写真は欧州仕様のオプション装着車)

ACCは、4輪車ではおなじみの機構ですよね。主な特徴は、高速道路などで先行車両に追いつくと、電波を使って対象物との距離、速度、角度を測定するミリ波レーダーにより、先行車両との距離を測定。設定した一定の車間を保って追従走行を可能とするシステムです。

トレーサー9GT+が採用するACCでは、先行車との車間距離を4段階で調整でき、ハンドル左側のスイッチにより切り替えが可能。システムは、30〜150km/hの速度範囲で作動するといいます。

ヤマハ新型トレーサー9GT+のレーダー連携ブレーキとは
ACCの車間距離は4段間で設定可能。最も遠い車間距離の場合

これにより、ライダーはアクセル操作をしなくてもクルージングが可能となり、長距離ツーリングなどでの披露軽減に貢献します。

●4輪車の自動ブレーキとの違い

さらに、注目なのが、前述のレーダー連携UBS(ユニファイドブレーキシステム)です。

ヤマハ新型トレーサー9GT+のレーダー連携ブレーキとは
レーダー連携UBSが作動しブレーキ力をアシスト

UBSとは、ヤマハ独自の前後連動ブレーキ機構で、後輪ブレーキを操作すると、前輪にもほどよく制動力を配分して、良好なブレーキフィーリングをもたらすことが特徴です。

そして、このUBSと、フロントカウルに新搭載したミリ波レーダーをマッチングしたのが、新型トレーサー9GT+のレーダー連携UBSです。

仕組みは、まず、ミリ波レーダーとIMU(慣性計測装置)が感知した情報をもとに、前走車との車間が近く衝突の恐れがあるにも関わらず、ライダーのブレーキ入力が不足している場合に作動。

前後配分を調整しながら自動でブレーキ力をアシストすることで、衝突回避のための操作を手助けしてくれるといった効果を発揮します。

ヤマハ新型トレーサー9GT+のレーダー連携ブレーキとは
先行車両とバイクが接近しすぎる可能性を判断するとレーダー連携UBSが作動

開発者によれば、レーダー連携UBSは、やはり30〜150km/hの速度範囲で作動しますが、一般道などでACCを使っていない時には、ライダーがブレーキ操作をしないと作動はしないとのこと。

理由は、ブレーキをかけていないのに、バイクが勝手にブレーキをかけてしまうと、ライダーは予期しない制動により体が前のめりになってしまい、最悪の時は前方へ飛び出してしまう危険性があるため。

特に、コーナリング中は、車体が安定しにくいので、ライダーにとって予期せぬブレーキは危険度も高くなりますからね。

そういう意味では、あくまで、ライダーのブレーキ操作をアシストすることを前提としたシステムということですね。開発者いわく「4輪車のいわゆる自動ブレーキ、衝突被害軽減ブレーキとは違う」とのこと。

急制動時でも比較的車体が安定している4輪車のように、自動で完全停止させる機能は、2輪しかなく、自立して停止できないバイクでは、かなりリスクが高いため採用しなかったとのことです。

●ACC作動中はメーターで注意喚起した後に作動

一方、高速道路でACCを作動させている場合はどうでしょう?

たとえば、ACCを使って高速道路の一番左にある走行車線を走行中、ICやSA/PAなどから合流車線を走る4輪車が急に目前へ割り込んで入ってきて追突しそうな場合。そうした場合は、ライダーのブレーキ操作をメーターがリクエストし、ライダーがブレーキ操作をするとACCを解除すると共に、もしブレーキ力が足らず衝突の危険性があるときに、ブレーキ力をアシスト。

ちなみに、開発者いわく、ACCの作動中であれば、レーダー連携UBSはライダーのブレーキ操作なしでも作動するとのこと。速度が高く、より緊急性が高いケースを考慮しているのでしょうね。もちろん、こういった状況下でも、完全停止はせず、あくまでブレーキ力をアシストすることは同じです。

ヤマハ新型トレーサー9GT+のレーダー連携ブレーキとは
レーダー連携UBSは、電信制御サスペンションとも連動もちろん、こういった状況下でも、完全停止はせず、あくまでブレーキ力をアシストすることは同じ。

さらに、トレーサー9GT+のレーダー連携UBSでは、電子制御サスペンションとも連動していることもポイント。

ヤマハ新型トレーサー9GT+のレーダー連携ブレーキとは
電子制御サスペンションを協調制御することで、違和感がない制動を実現

ヤマハが特許を取得済みというこのシステムは、たとえば、急ブレーキ時にフロントフォークが急激に沈み込まないような制御を行うことが特徴です。

ブレーキ力をアシストするだけでなく、急制動時でも車体を安定させることで、ライダーに高い安心感や違和感のないライディングを提供するといいます。

なお、新型のトレーサー9GT+は、まだ価格などは未発表ですが、欧州だけでなく、国内でも2023年夏以降に発売される予定です。

(文:平塚 直樹/写真:平塚 直樹、ヤマハ発動機)

この記事の著者

平塚 直樹

平塚 直樹 近影
自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、クルマ選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!