深刻化する新車の“納車遅延”を解決するには「この手」しかない!? どうなる「半導体」不足

■納車遅延が常態化した主因は「半導体不足」

トヨタ シエンタのエクステリア

近年、新車の購入を決めても納車が半年から1年後となる状況が常態化しています。

特に人気車種の場合に顕著で、トヨタ自動車が公開している「工場出荷時期目処一覧」によると、ヴォクシーは注文後6ヵ月以上、アクアも注文後5~6ヵ月、新型シエンタや新型クラウン、カローラクロスなどは“詳細は販売店にお問い合わせ下さい”と記されており、具体的な出荷目処は明示されていません。

各自動車メーカーでは納車遅延の原因として「半導体不足」をあげており、こうした傾向は日本市場に限らず、世界的に広がっているようです。

●ところで半導体って何?

新型クラウンのエクステリア

自動車に限らず、電化製品、モバイル機器、ゲーム機など、今やあらゆる分野に欠かせない部品となっているのが「半導体」(semiconductor)でマイクロチップとも呼ばれます。

新型クラウンに採用されたトランスミッション

ちなみに半導体は電子機器の頭脳として機能しており、自動車ではエンジンやブレーキ、トランスミッションのコントロールのほか、カーナビ、パワーウインドウ、エアコンなど多くの部位に半導体を使用。ハイブリッド車やEVではガソリン車に比べてさらに多くの半導体を必要とします。

半導体は電気を通す金属などの「導体」と、電気を通さないゴムなどの「絶縁体」の中間の性質を持っており、シリコン材料などが使用されています。

半導体の中には何十億もの集積回路が形成されており、電子の流れを制御する役割を担っています。

●半導体不足はなぜ発生した?

半導体のイメージ(TSMC社)

現在、世界の半導体の半数以上が台湾、韓国、中国で生産されていますが、2020年末には米国が中国との貿易に制限をかけ、半導体製造の委託先を台湾のメーカーに切替えました。

日本の場合も国内半導体製造工場の老朽化を背景に、台湾の大手半導体製造メーカー「TSMC」(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company))への生産委託を主としています。

そうした中、2020年以降に発生したコロナ禍により人々の生活が一変。外出制限によりタブレットやゲーム機を購入する人が増えたのに加え、テレワークを導入する企業や、リモート授業に踏み切る学校が増えたことで、半導体を使用する機器の需要が急増。

半導体生産用のシリコンウエハー

その一方、大手自動車メーカーの購買部門は“必要なものを、必要なときに、必要な分だけ”調達する「ジャストインタイム」を基本にしており、コロナ禍による販売減を見越して半導体の発注量を大幅に減らしたため、これが後に現在の状況を生み出す結果となりました。

というのも、自動車向けの半導体はパソコンやスマートフォン用の先端半導体と異なり、先進機器を搭載しながらも従来型のオーソドックスな半導体を使用しているため、海外の半導体製造委託先は、自動車メーカー用の半導体製造ラインを、より収益性の高い先端半導体製造ラインに切替えていたのです。

半導体製造ラインは臨機応変な生産品目変更が利かないため、自動車用の半導体需要が回復した後に生産量が大きく不足し、現在の新車納期遅延に繋がっているという訳です。

●半導体不足はいつまで続く?

こうした情勢を踏まえ、経済産業省が半導体の国内生産強化を掲げ、海外企業の半導体製造工場誘致や設立に関する支援措置を行っています。

トヨタのEV bZ3のエクステリア

日本政府の働きかけで前述の半導体生産最大手である台湾のTSMC社が総投資額約1.2兆円をかけて熊本県に半導体製造工場の建設を進めていますが、操業開始は2024年12月の予定。

米・インテルによると、今回の世界的な半導体不足は2024年頃まで続くと予測しています。

トヨタのEV bZ4Xのインテリア

ただ、パソコンやスマートフォン用の先端半導体の需要は峠を越え、現在は生産調整に入っているとの情報もあり、もう少し早い段階で自動車用半導体生産の巻き返しが期待できそう。

おりしもEV化には従来のエンジン車の約2倍の半導体が必要とされており、電動車のキモとなる駆動用バッテリー生産も含め、他国の政情や思惑に左右されない「国産化」についても平行して早急に進める必要がありそうです。

Avanti Yasunori

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【関連リンク】

トヨタ車の工場出荷時期目処一覧
https://toyota.jp/news/delivery/

TSMC
https://www.tsmc.com/japanese

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Avanti Yasunori

大手自動車会社で人生長きに渡って自動車開発に携わった後、2011年5月から「clicccar」で新車に関する話題や速報を中心に執筆をスタート、現在に至る。幼少の頃から根っからの車好きで、免許取得後10台以上の車を乗り継ぐが、中でもソレックスキャブ搭載のヤマハ製2T‐Gエンジンを積むTA22型「セリカ 1600GTV」は、色々と手を入れていたこともあり、思い出深い一台となっている。
趣味は楽器演奏で、エレキギターやアンプ、エフェクター等の収集癖を持つ。
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