R360、コスモ、ファミリア、ロードスター…マツダミュージアムでマツダデザインを振り返る【クルマはデザインだ】

■個性と先進性にあふれていた60年間のマツダデザイン

2022年の今年5月23日、マツダ創業時からのヒストリックカーなどを展示する「マツダミュージアム」がリニューアルオープンしました。そこで、貴重な展示車を見学しつつ、あらためてマツダデザインの歴史を一気に振り返ってみたいと思います。

●外部デザイナー起用によるマツダデザインの黎明期

マツダ・60年代
「R360クーペ」(右)と初代「キャロル」(左)。小杉二郎によるスタイリングは共通した個性が感じられる

1960年代から始まる展示車のトップバッターは「R360クーペ」。

東洋工業(当時)初の4輪乗用車は、フリーの工業デザイナーだった小杉二郎氏によるもの。すでにオート三輪を手掛けていた氏は、その独特なフロントデザインを取り入れつつ、リアは空力性能を意識したラウンド形状としました。

丸いボディに引かれた水平のキャラクターラインが、キリッとスタイルを引き締めています。

1962年の初代「キャロル」はライバルに対抗するべく、完全4人乗りのノッチバックスタイルで登場しました。

やはり小杉氏によるスタイリングは、愛嬌のある丸いランプと「クリフカット」と呼ばれる垂直のリアガラス、リア周りのスリット状のメッキパーツがエレガントさを演出。ボディを上下に分ける深いキャラクターラインは、強いアクセントになっています。

マツダ・60年代-2
「コスモスポーツ」は「R360クーペ」などにも関わっていた社内若手デザイナーの小林平治が手がけた

2度のプロトタイプを経て1967年に発売された「コスモスポーツ」は、社内の若手デザイナーである小林平治氏のスケッチが採用されたものです。

世界初の2ローター・ロータリーエンジン搭載により、1165mmという驚異の全高を実現。伸びやかで長いリアオーバーハングが特徴ですが、丸いフロントランプやラウンドさせたリア、明快なキャラクターラインに、R360クーペやキャロルの影響を感じさせます。

●アメリカンな力強さと躍動感を表現した70年代

マツダ・70年代
「サバンナ」(右)と2代目「コスモAP」は押し出し感のあるアメリカンなスタイルとなった

1971年、ロータリーエンジン専用のスペシャリティカーとして登場したのが「サバンナ」です。

丸形4灯のランプとハニカム形状の大型グリル、リアフェンダーの躍動的な抑揚にアメリカンな力強さを感じさせます。キャッチコピーの「直感 サバンナ」もその躍動感を表現しました。

続く1975年発売の2代目「コスモAP」は、スペシャリティカーに個性や高級感を与えた企画。

初代から一転、北米をメイン市場としたスタイルは、現デザイン担当役員、前田育男氏の実父である前田又三郎氏によるもので、サバンナ同様の4灯ランプと縦桟の四角いグリル、L字型のリアランプがまさにアメリカン。とくに、センターピラー内のサイドガラスは要注目です。

●欧州的実用性と合理性を取り入れた80年代

マツダ・80年代
5代目「ファミリア」(右)と4代目「カペラ」(左)は広いガラスエリアを持つ80年代らしい合理的デザインが魅力

1980年、シリーズ最大のヒット作となる5代目「ファミリア」が登場します。

同社初のFFを採用したボディは直線基調の実にクリーンな面が特徴で、シンプルなフロントグリル、大きなキャビンと広いガラス面、端正なリアランプが80年代の到来を示します。VW「ゴルフ」の影響を強く感じる同車は、第1回のカー・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。

ファミリアに次いでFFを採用したミドルクラスセダン/クーペが、1982年発売の4代目「カペラ」です。

ファミリアに準じた欧州的なアプローチは、空力も追求したハイテールスタイルで、大きなキャビンやシャープなピンストライプ、太いプロテクトモールを含めて高い合理性を表現。当時、ドイツでベストインポートカーに選出されたのも納得です。

●合理性に情感を加えたときめきの90年代

マツダ・90年代
初代「ユーノスロードスター」(右)と「ユーノスコスモ」(中)、初代「センティア」(左)はいずれも美しい曲面が魅力に

80年代の合理的なデザインにより薄れた個性を取り戻すべく、当時デザイン部長だった福田成徳氏は、「光と影」によるリフレクションの美しさを追求した「ときめきのデザイン」を提示。

1989年登場の初代「ユーノス ロードスター」はサイズを感じさせない抑揚を持っていました。北米企画ながら「能面」をモチーフにしたフロントなど、和の繊細さもまた自慢です。

「クーペダイナミズム」をコンセプトとした4代目「ユーノス コスモ」は1990年の登場です。

3ローター・ロータリーエンジンを積む全長4815mmのボディは、全高わずか1305mm。うねったフロントグリルと強い抑揚を持つボディに、直線的なキャビンを載せた超個性的スタイルは小泉巌氏がまとめたもの。とりわけ太いリアピラーが高い存在感を生んでいます。

1991年の初代「センティア」は、マツダのフラッグシップである「ルーチェ」の後継として登場。ロードスターも手掛けた田中俊治氏がまとめたボディは「ユーノス800」にも通じるエレガントな曲面で徹底されており、欧州で非常に高い評価を得ました。

●2000年代は「Zoom-Zoom」から「魂動デザイン」へ

マツダ・2000年代
初代「アテンザ」(左)は目立ったキャラクターラインのないシンプルで力強いスタイルを実現

フォードグループとなり、あらためて自社のアイデンティティの確立が求められたマツダは、2001年にブランドメッセージ「Zoom-Zoom」を提唱。

その第1弾が初代「アテンザ」です。先出の小泉氏は「アスレティック」をコンセプトに、クルマの魅力である動き以外の要素をそぎ落としたスタイリングを目指し、シンプルでありながら強い前進感を持たせることに成功しました。

こうして2010年の「魂動 -SOUL of MOTION」に続くマツダデザインですが、振り返ってみれば、初めての4輪乗用車から非常に個性的であり、極めてクオリティの高いデザインが展開されていたことがわかります。

もちろん、時代背景に大きく影響されてはいますが、どの時期にもスタイリングに対する真摯な姿勢が感じられるのです。

カーデザインに関心のある方は、是非一度出掛けてみてはいかがでしょうか?

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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