上司に「これをやりたい」で、時代を変える製造革命が起きる!100gでも上出来なのに700gも軽量化したYAMAHAのスピンフォージドホイール誕生物語

■鋳造ホイール市販以降最大級の技術革新「スピンフォージドホイール

新旧ホイールのサンプル
実際に持って、回してみることができる新旧ホイールのサンプル。フィーリングの違いは明確に体感できます。

前後で約700gの軽量化!

ヤマハ発動機から2021年に発売された現行MT-09は、前モデルより全体で約4kg軽くなっているのですが、ホイール2本だけで700gも軽くなっているんです。

オートバイにとって、タイヤ&ホイールの軽さは大きなメリットになります。加速性能も減速性能も向上するし、寝かし込みや操舵も軽くなる。路面への追従性も高まる。バイクでもっとも軽くしたい部分といえば、タイヤ&ホイールといってもいいのではないでしょうか。

ということは、前モデルだって軽くしようと思って作っていたのであって、アルミで一体成型しているシンプルなつくりのホイール2本を一気に700g軽くするというのは、いってみれば無理難題です。そんなオーダーを受けたら、「わかって言ってるのか?」と逆に説教してしまいたくなるところでしょう、通常なら。

リムの厚さ比較
上が旧モデルのリム。下が現行モデルのリム。下はかなり板厚が薄くなっています。

しかし、ヤマハは従来の鋳造技術に、新しいアルミ素材と回転塑性という工程を導入することで、薄肉ながら十分な強度を持つ画期的なホイールを作り出しました。これはもう、鋳造ホイールの市販化以降、最大といってもいいほどの技術革新です。

ここではその技術と、開発秘話をお伝えします。

●2輪では前例のない回転塑性工法に着目

中子
ホイールを鋳造する際に、ハブの中に空洞を作るための中子。

4輪車の高性能ホイールは、アルミの塊に高圧で型を叩きつける鍛造という手法で作られるものが多くあります。しかし、2輪車のホイールの場合、構造上、中央のハブ部分を中空で作りたいこともあって、鍛造で作るのが非常に困難です。

そこで、高温で溶かしたアルミを型に流し込んで成形する鋳造という手法で作られます。ちなみに、昔のオートバイのホイールはみんな普通の自転車と同じようなスポークホイールでしたが、1970年代にヤマハが鋳造(キャスト)ホイールを市場に投入し、現在では多くの車種がキャストホイールを採用しています。

末永さん
PT技術部・第1製造技術グループ鋳造技術係の末永健太郎さん。

そんな鋳造部門の技術者である、PT技術部・第1製造技術グループ鋳造技術係の末永さんは、2015年末頃、「ホイールで商品競争力を上げたい」と思いつきました。「鋳造、熱処理、切削というホイールの製造工程のなかで、まだチューニングできる余地があると思ったんです」といいます。

そこで、約1年間かけてリサーチし、『回転塑性』という工法に目をつけました。回転塑性というのは、ろくろのような装置で物体を回し、そこに工具を押し当てて変形させていく工法です。『フローフォーミング』とも呼ばれます。

回転塑性
回転塑性の工程。バーナーで熱しながら工具を押し付けてリム部分を成形します。

じつは回転塑性も、4輪車のホイールではわりとよく使われる手法です。しかし、4輪車と2輪車では決定的な違いがあります。それは、4輪車のホイールには裏面がありますが、2輪車のホイールに裏表はなく、左右両面が外から見えるということです。

回転塑性のためにはホイールを回転台に固定しないといけませんが、両面にデザイン性が求められる2輪用ホイールを固定する方法に困難があったのです。しかし、末永さんはその手法に挑戦することにしました。

●社内への売り込みで、上級スポーツモデルMT-09へ採用決定

MT-09フレーム内側
これはMT-09のメインフレームの内側。鋳造技術にこだわりがあるヤマハは、鋳造でこのような複雑な形状を作り、剛性の特性をコントロールしています。

上司に「これをやりたい」と申し出たところ、上司もピンと来るものがあったのでしょう。「やるに決まりくさっている!」と、思わず変な日本語で即答。このプロジェクトが始まります。

ちょっとここで、4輪・2輪産業にある程度知識があるかたなら驚くかもしれない事実があります。国内で組み立てている車両のキャストホイールは、外注ではありません。すべて自社工場製なのです! これはバイクメーカー唯一です。普通、ホイールのような専門性が高いパーツは外部のメーカーに発注して納入してもらいます。しかし、ヤマハは「重要な機能部品は自分たちで作る」という方針で、ホイールも自社で作っているのです。合理化が大好きな昨今の経営者ならひっくり返りそうなこだわりです。

香島さん
機能モジュール開発部WBS(Wheel Brake Suspension)グループ香島仁さん

ちょうどその時期、開発中の新型MT-09はより軽量にしたいという意向があって、この新製法ホイールが採用されることが決まりました。もはやスケジュールには余裕のないタイミングで、関係スタッフには覚悟が必要でした。末永さんは「石にかじりついてでもやる」決意だったといいます。

「ハードルを設けないと燃えないところもあるので、はじめに目標値を決めました」(機能モジュール開発部WBSグループ・香島さん談)という数値は、「3mmのリムの板厚を2mmに減らす」というもの。もちろん、強度は保ちつつです。

作っては評価し、作っては評価し、それでもなかなか満足のいくものはできませんでした。

大島さん
材料技術部 先行開発グループの大島かほりさん。「ここ(ヤマハ)では好きなように調合できちゃうので」とオリジナルのアルミ材料を作り出しました

しかし、ヤマハが持っているのは機械加工の技術だけではありません。ヤマハにはアルミの材料の研究開発を行っている技術者もいるのです。ちなみにホイールに使われるのはアルミを主原料としつつ、銅やケイ素、マグネシウムなど、様々な材料を混ぜ合わせたアルミ合金で、そうやって強度や剛性、しなやかさをチューニングしているのですが、ヤマハでは、このホイールの実現のために独自で配合したアルミ合金材料を開発。

熱処理の工程
熱処理の工程。以前は10〜20本ひとまとめで加熱していましたが、このラインからは1個ずつ小部屋で加熱します。それによって効率が上がったそうです。

それだけでも強度は足りずに熱処理の新しい手法を組み合わせて、ついに満足のいくホイールが完成。2020年初頭に新たな工法を加えるべくホイールの生産ラインが組み直されました。

鋳造でありながら、リム部分は鍛造のような強さとしなやかさを持たせることに成功したこの革命的なホイールは、『YAMAHA SPINFORGED WHEELスピンフォージドホイール)』と名付けられました。FORGED(フォージド)というのは鍛造という意味です。

●回転塑性工法の進化でバイクの乗り味も変化していくかも!?

ホイールの、しかもリムの軽量化というのは、冒頭にも書いたとおり、バイクの運動性能やフィーリングに対して、ものすごく大きな効果を生み出します。MT-09は期待どおり評判になっていますが、そこにはスピンフォージドホイールが少なからず貢献しているでしょう。

前後で700gという軽量化は、「回転塑性という新しい工法を使わなければまず無理だったでしょうね。普通の方法だったら100gも軽くできれば上出来だったと思います」と香島さんはいいます。先にアイディアがあったからこそ実現した数値かもしれません。

伊藤さん
生産革新技術部 製造技術企画Grの伊藤修一さん
ロボット
工場内でホイールを運ぶロボット。これも電動車椅子を応用したヤマハ製です。

バイクファンにはさらに朗報があります。このスピンフォージドホイールは、材料の歩留まりがいい(無駄になる量が少ない)こともあって、製造コストが高くないのです!

MT-09につづいてXSR900にもスピンフォージドホイールが採用されましたが、今後ヤマハでは新しく開発される幅広い車種に採用していきたいそうです。

ただし、生産革新技術部 製造技術企画Grの伊藤修一さんは「『旧モデルに新型ホイールは着きますか?』とお問合せを頂くのですが、旧型用も車両開発と社内製造で作り込んでます。新車装着時のホイールが操安性でベストです。その点で弊社テストライダーは凄いなと思う場面が多いです」と言います。

そして、スピンフォージドホイールの製造技術自体は実用化されたばかり。「まだまだ回転塑性の工法も進化の余地があると思います」と末永さんは語ってくれました。これからのヤマハのバイクは、軽量なホイールを生かして、次々と乗り味が刷新されていくのかもしれません。

さらに、伊藤さんは社内の風潮について、以下のように語ります。「現場の方々や社内のどの部署も「お客様に最高の1台を」の想いが面白いように同じなんです。新しい芽には上下や組織の壁を越えて皆で栄養を与える風土があります。スピンフォージドホイールもその一つです」。

経営の合理化、効率化という言葉が多く聞かれる現代で、徹底的に技術を追求し成功を収めているヤマハ発動機のこだわりは、以下のサイトでも深く紹介されています。ぜひご覧ください。

【関連リンク】

ヤマハ発動機 技と術「回転塑性SPINFORGED WHEEL」
https://global.yamaha-motor.com/jp/design_technology/craftsmanship/mc/mc5.html

ヤマハ発動機 技と術
https://global.yamaha-motor.com/jp/design_technology/technology/

ヤマハ発動機 クラフトマンシップ ヤマハの手
https://global.yamaha-motor.com/jp/design_technology/craftsmanship/

(文:まめ蔵/写真:井上 誠)

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この記事の著者

まめ蔵

まめ蔵 近影
東京都下の農村(現在は住宅地に変わった)で生まれ育ったフリーライター。昭和40年代中盤生まれで『機動戦士ガンダム』、『キャプテン翼』ブームのまっただ中にいた世代にあたる。趣味はランニング、水泳、サッカー観戦。好きな酒はビール(夏場)、日本酒(秋~春)、ワイン(洋食時)など。苦手な食べ物はほとんどなく、ゲテモノ以外はなんでもいける。所有する乗り物は普通乗用車、大型自動二輪車、原付二種バイク、シティサイクル、一輪車。得意ジャンルは、D1(ドリフト)、チューニングパーツ、極端な機械、サッカー、海外の動画、北多摩の文化など。