目次
■「Approachable(親しみやすさ)」と「Speciality(特別感)」、相反する二つのキーワードを両立させた新型シビック
2021年8月5日に発売となったホンダ新型「シビック」は、一服の清涼剤となるべく「爽快」をコンセプトに登場しました。そこで、デザインにおける「Sokai」の意図はどこにあるのか。3名の担当デザイナーの皆さんに話を聞きました。
●親しみやすさと特別感の融合
── 最初に、今回のデザインコンセプトである「Sokai Exterior」について具体的な中身を教えてください。
「今回、まずグランドコンセプトを設定するに当たって、市場各国の若者を対象にシビックに関するリサーチを行いました。そこで見えてきたのが「Approachable(親しみやすさ)」と「Speciality(特別感)」という二つのキーワードです。高級車のような質感を持ちながら、運転のしやすさも併せ持つ。ある意味相反する要素を両立させる意図ですね」
── 新型「ヴェゼル」同様、水平基調のプロポーションとしたのもその流れですか?
「はい。デザインコンセプトから、今回は薄いボディにグラッシーなキャビンを想定し、水平基調で低重心のスポーティなクーペスタイルとしました。先代もフードの低さが特徴でしたが、よりスリムにした。結果としてタイヤの存在感が増し、同時に明るく開放的な視界も得られたわけです」
── ただ、近年では厚いボディに薄いキャビンが一般的で、それがある種の「カッコよさ」と認識されてますよね?
「ボディの厚みは衝突対応の側面もありますが、たしかにトレンドでもありますね。その点、薄いボディはややもすると弱く見えてしまいますが、今回の「Sokai」では従前のカッコよさを追わず、ルーフの滑らかな形状や適切なピークポイントなど、トータルとして前後バランスがとれた美しいプロポーションを目指しました」
── では、前から細部を見て行きます、まず、フードの先端とグリルやランプとの間に大きな段差を設けたのはなぜですか?
「先の「Speciality」のひとつとして、作り込まれたディテールを意識しています。全体はシンプルな佇まいとしていますが、それだけでは素っ気なくなってしまう。そこで、彫りを深くすることでコントラストを明快にし、ボディ全体にメリハリを与えたわけです」
── 有機的なブラックの樹脂製グリルや、かなり横長のランプが目立ちますね。
「当初、グリルはバンパー左右の「爪」につながるボディ色のパーツを検討したのですが、どうもワイド感が足りなかった。また、ランプは深い彫りの中で内側に入って行く表現なので、余計に長く感じるのかもしれませんね。ちなみに、ランプはホンダ車のシグネチャとしてグローバル市場を意識した形状でもあるんです」
●ルーフを下げて低重心のクーペルックを
── 次にサイド面です。特徴としてはキャラクターラインより上のネガ面と、ドア面の微妙にウエッジした流れでしょうか
「キャラクターライン上部のネガ面は、前後に抜けるようなショルダーラインを強調するためのものです。ここを凸面にしてしまうとボリューム感が勝ってしまう。ドア面については、ピークをどこに置くかでクルマの姿勢全体に影響してしまいます。実はモデルをドイツに持ち込んで陰影のチェックを繰り返し、わずかにウエッジしたラインにたどり着きました。単に水平だとズドンとリアに抜けるだけで、キャビンを支えられないんですね」
── サイドウインドウのメッキモールですが、後端の矢尻のような形状が子どもっぽい印象もありますね
「そうですか(笑)。実際には『普通にした』案もあったのですが、ウインドウ後端部の面は意外に広く、何もないと素っ気なさが出てしまう。モールを矢尻形とすることで、その面を持たせることと、モール自体の価値感を高める両方の役割があるんですよ」
── ルーフからリアピラーにかけては一般的な樹脂モールが見当たりません
「ええ。モールをなくして断面をミニマムとすることで、ルーフとピラーのつながりを滑らかにし、カタマリ感を強めています。クォーターウインドウを先代のガーニッシュから6ライトに変更するなど、この部分は構造的に複雑なのですが、ボディ剛性を確保しながら美しいテールゲートを実現しました」
── リアエンドですが、一部のドイツ車のように大きくリフトアップさせていないのが意外でした。
「実は、開発当初はリアにエクストラウインドウを設けるなども検討したのですが、グラッシーキャビンとしては重いし、視界の悪さも含めて「Sokai」とは違うなと。一方で、新型はリアハッチのヒンジ部分のボリュームを減らすことに成功し、居住空間を確保しつつルーフを低くすることができました。それを最大限に生かした低重心のスポーツフォルムとしたわけです」
●質素ではない「人中心」のシンプルさとは
── さて、インテリアです。新型「フィット」以降、水平基調の薄いインパネに丸型のスイッチ類がひとつのテーマに見えますが、これには定型のようなものがあるのですか?
「いえ、パーツの共用などは一部ありますが、何か決まった「定型」があるわけではないんですね。各モデルで次の時代の価値観を追求した上での、いわば結果論です。もちろん、視界に対するアプローチなど、基本的な部分での意識共有はあります」
── 話題のハニカムパーツですが、これだけクセのある部品を内装に使うのはかなり難しいでしょう?
「そうですね。たしかに強烈なアクセントになりますから、ハニカム開口部の配列やアウトラインを工夫しています。具体的には外周部や3つのトグル部などで、開口部が中途半端な形状で切れないよう何度も調整しました。もちろん、ハニカムの大きさ自体もいろいろ試した結果ですね」
── インパネが繊細な表現である一方、センターコンソールやドアのアームレスト部などは非常に大きなカタマリの表現になっていますね。
「そこは、あくまでもいかに使いやすい位置であり、かつ形状であるかが基本です。コンソールにはシフトノブという重要な装置がありますから、揺るぎのないしっかりとした形状としていますし、他にも堅いところは堅くなど、素直な表現としているわけです」
── 最後に。最近のホンダ車のデザインはシンプルな方向にありますが、車種によって表現が意外と異なります。今後、各車種の個性とシンプルさのバランスをどう展開して行きますか?
「まず、何もしないといった意味でのシンプルさがゴールとは考えていなくて、それぞれの車種のコンセプトやニーズの中で開発を進めて行きます。もちろん、その上でいまのホンダらしいシンプルさを出すのは非常に難しいですが、「人中心」という点でゴールは明確とも言えます。新型シビックは写真より実車の方がいいという声が多いのですが、コンセプトを高次元で達成させたシンプルさは、実車でこそ確認して欲しいと思いますね」
── たしかにヴェゼルも実車の方がよさが伝わりましたね。本日はありがとうございました。
【語る人】 ※写真左から
株式会社本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 テクニカルデザインスタジオ・パッケージ担当
小林 慧氏
モデリングスタジオ・エクステリアモデル・プロジェクトリーダー
打田 敏秀氏
モデリングスタジオ・インテリアモデル・プロジェクトリーダー
小川 泰範
(インタビュー:すぎもと たかよし)
【関連記事】
- カワイイだけではないクルマとしての存在感を。新型ワゴンRスマイルの本質的なデザインとは?
https://clicccar.com/2021/10/23/1127423/ - 激変に見えて実はヘリテージ満載。新型ランドクルーザーの意外なデザインとは?
https://clicccar.com/2021/10/18/1126116/ - オーソドックスなボディにトヨタ流のスパイスを!新型カローラクロスのデザインに見るヒットの要件とは?
https://clicccar.com/2021/10/12/1124730/