■「半導体」依存の新型車。自動車各社は確保に苦慮
車載半導体不足が深刻化しており、新型車の発売や納車時期に大きな影響を与えています。
発売から1年が経過したトヨタのSUV、ヤリスクロスが、ディスプレイオーディオに装着するNAVIキットの不足等から現在も納車に半年以上を要しており、クロスシリーズ第2弾となる新型車「カローラクロス」についても、今後納期が長引く可能性が懸念されています。
そうした中、トヨタ自動車は9月10日、東南アジアでの新型コロナウイルス感染拡大の長期化による現地仕入先の稼働低下や、半導体逼迫による部品供給不足により、9月ならびに10月の生産計画見直しを実施すると発表。
今回の見直しに伴うグローバルでの影響台数は9月の追加分が約7万台、10月分が約33万台の減産になるそうで、2022年3月期通期で約30万台の減産になる見通しとしています。
これに伴い、カローラシリーズを生産する高岡工場や堤工場では、すでに9月1日から17日まで約半月間の予定で生産ラインを停止させており、9月末にも同様に2日から4日間程度の稼動停止を予定しています。
こうした背景には半導体不足が大きなウエイトを占めている模様。
自動車各社はトヨタ自動車が編み出した“ジャストインタイム”(必要な物を必要な分だけ)を基本とする生産方式に倣って、部品の在庫を普段から最小限に留める工夫をしており、コロナ禍に伴う販売減が避けられなくなった昨春の段階で生産計画を見直し、車載用電子機器の発注を大幅に削減しました。
しかし、それが裏目に出ることになります。
というのも、車載電子機器に使用する半導体は数百に及ぶ膨大な生産行程を必要としており、生産数変動への臨機応変な対応が困難なため、国内の半導体メーカーは事実上半導体の製造から手を引いて“ファウンドリ”と呼ばれる台湾の大手半導体製造専門会社「TSMC」に委託しているのが実情なのだそう。
しかも車載半導体はADAS(先進運転支援システム)用を除けば安価な8インチ・シリコンウエハーからチップを切り出していますが、ファウンドリではすでに大口径の12インチ・シリコンウエハーを使った高性能な半導体の生産に移行しています。
●巣ごもり需要、テレワーク拡大が車載半導体不足に追い討ち!
そうしたなか、コロナ禍に伴う世界的な巣ごもり需要やテレワークの普及で、高性能な半導体を必要とするゲーム機器やPC、スマートフォンなどの需要が増大。
最先端の生産設備を持つファウンドリでは、自動車用半導体の大幅減産を穴埋めすべく、安定した生産数や利益の向上が見込めるゲーム機器やPC、スマートフォン用の半導体生産に切替えたため、それが急速に需要が回復した車載半導体の慢性的な不足要因になっているという訳です。
こうした現況を重くみた政府は、国内半導体産業の空洞化対策に向け、茨城県つくば市にTSMCを誘致。国内関連企業に参加を呼びかけ、190億円を拠出して来年度を目標に最先端の半導体研究開発拠点を整備予定で、半導体生産拠点の刷新に繋げるとしています。
一方、当面の車載半導体増産には、シリコンウエハーを半導体に加工するための工場新設や、クリーンルームの建設が必要で、最低でも1年から2年程度かかる模様。
車両の電子制御化やパワートレインの電動化が急速に進むなか、東南アジアのデルタ株拡散による工場稼働停止の影響もあり、開発と製造分離に起因する現在の半導体不足は2023年まで続くとの予測も存在します。
こうした状況から、新型車の購入に際しては、少なくとも正式発売前の先行予約を上手く活用するなど、余裕を持った購入計画が求められそうです。
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