情熱のトヨタ「GR86」とクールなスバル「BRZ」、元F1ドライバー井出有治が全開にして分かったこと

■走行フィールはまったくの別物! その違いは両社のコンセプトを顕著に表していた

●イメージカラーがすべてを物語ってるようだね by 井出有治

井出有治
井出有治が新型GR86とBRZに乗って分かったこと

話題の新型トヨタ・GR86スバルBRZ見た目で分かる違いについてはすでにお伝えしました。今回は、クリッカーのテストドライバーで、元F1ドライバーでもある現役レーサー・井出有治さんによる全開インプレッションです。

テストステージは千葉県・袖ケ浦フォレストレースウェイ。見た目はほぼ同じなGR86とBRZだけど、走ったらどうなのか? さっそく聞いてみましょう。(永光)

●GR86とBRZのコンセプト&走りの味付けはまったく違った!

テスターは井出有治
試乗インプレッションは、元F1パイロットで2021年はスーパー耐久で活躍の井出有治さん

GR86は真っ赤なスパークレッドで、BRZはスバルカラーのWRブルーパール。この2色が2車それぞれのイメージカラーになっているのですが、トヨタとスバル、実際に試乗してみると、両社のコンセプトを明確に表しているように思いました。

情熱の赤(GR86)」と「クールな青(BRZ)」。ボクの第一印象はその感覚です。

トヨタ新型GR86
GRの名前が付くことでよりスポーティに、操る楽しさを狙った新型GR86

【GR86が目指したもの】

GR86がめざしたものは、「スポーツカーらしく意のままに操れるクルマ。絶対数値よりもフィーリングを重視し、動きをダイレクトにドライバーへ伝える」こと。

開発者の方によると、「GR86=FRスポーツカーを選ぶ方には、日常生活の中でも“スポーツカーに乗っているんだぞ!”と、アクセルワーク、ステアリング操作の中にクルマとの対話や操る楽しさを感じてもらいたいのです。アクセル踏めば意のままに、自分の思った通りにコントロールできるんだよ、と。また、GRになっても86のイメージはAE86。このGR86を買う方にもかけ離れたイメージにはしたくなく、その延長においておきたいのです」。

新型スバルBRZ
コントローラブルで素直な走りを魅せる新型BRZ

【BRZが目指したもの】

対してBRZの目指したものは、「ボディ剛性を生かした安定したサスペンションセッティングをし、FRではあれ4輪ともに接地感を出し、安定感のある走り」。

開発者の方からは、「スバルのクルマ作りは、車種が少ない中、安全と楽しさをすべてのクルマで統一させています。スポーツカーに対してのキーワードは3つ。意のままに素直に動くこと、軽快な動きであること、コントローラブルであること、この3つです。一般道、ワインディング、サーキット、ドライ、ウェット、またスバルはAWDメーカーなのでスノーも。初代以上に、新型では雪道への適合性に対するウェイトをさらに上げ、FRであってもコントローラブルでありたい。低μ路でも接地性を高めながらフロントの舵がちゃんと入ること、FRはアクセルを踏めばリヤが流れがちですが、トラクションをかけてもコントローラブルに前へ出させる。素直な動きや限界域でのコントロール性を感じてもらえるように目指して開発をしました」とのことでした。

●2車のコンセプトの違いは走りに大差を生んだ

GR86とBRZの違い
GR86とBRZの一番の違いはこの違い。明らかに走りの味付けが違う。半分から左がBRZ、右がGR86(※画像はSYE_Xより)

ボディのベース(開発設計)はスバルがメインにすすめ、基本諸元は同じでも、その材質やサスペンション、スプリングのバネレートがまったく違いました。

【GR86】
フロントバネレート:28N/mm
リヤバネレート:39N/mm
フロントハウジング素材:鋳鉄製
フロントスタビライザー径:中実 18mm
リヤスタビライザー取付構造:ブラケット取付
サポートフレーム:無
リヤスタビライザー径:15mm
リヤトレーリングアームブッシュ(ハウジング下):従来型共用

【BRZ】
フロントバネレート:30N/mm
リヤバネレート:35N/mm
フロントハウジング素材:アルミ製
フロントスタビライザー径:中空 18.3mm
リヤスタビライザー取付構造:ボディ直付
サポートフレーム:有
リヤスタビライザー径:14mm
リヤトレーリングアームブッシュ(ハウジング下):専用硬度アップ

この違いは、走りに素直に表れていました。

GR86の走り
操る楽しさを重視するGR86

まず、バネ下が違うというのが大きな差を生んでいます。ボディ剛性は旧型(現行型)に対してフロントストラットで60%、ねじり剛性で50%、リヤサブフレームで70%の剛性アップが図られています。

このボディに対し、GR86は「GRらしさ」を演出・味付けするためにスタビライザーの取付構造やサブフレームを外したりと違いを出しました。

その味付けを大雑把に一言でいうならば、GR86はドリフトが得意、BRZはグリップでのタイムアップ狙い。

新型BRZ
安定した4輪の接地性も考えたBRZ

回り込む立ち上がりは、BRZはフロントを軸にトラクションもかかるけど、GR86はフロントが柔らかいためにずっと後ろをコントロールしている感じ。

また、コーナーへドーンと突っ込んだ場合、スプリングレート的にBRZのほうがしっかりスプリングが支えているという感じがありました。また、BRZはきちんとブレーキで飛び込んで向きを変えてトラクションをかける方向です。

舵角もGR86はBRZに比べて大きく、よくいえば懐が深いというか。街乗りや首都高をサラッと走る分には違いは分からないだろうけど、クルマの限界域のところで走らせようとすると、この舵角の差が結構出てきます。1コーナーとその奥のヘアピンなど、スリップアングルで一番フロントが入るのに適した舵角のところが、BRZはここ!と思うと、GR86はもうひとアングル、深いアングルが必要になります。

これはバネレートの差だと思います。GR86は剛性が上がっている分、ロール剛性とのバランスのためにフロントのスプリングレートを落としたのかな。そのためにヘアピンで思いっきり突っ込むと、BRZは少ない舵角+ブレーキでちゃんと入っていくのが、GR86は動きが大きいのです。

別の言い方だとクルマの動きが分かりやすい…ですが、タイムを出すということを考えると動き過ぎかな?と思いましたね。

テスターの井出有治
「このクルマ、パワーが無いな」「エンジンの?」「エアコンの!」

BRZは、アルミでバネ下を軽くしてバランスをとっています。対してGR86はフロントハブを鋳鉄にして剛性を出してはいますが、その分バネ下で3kgも重くなっているので、ステアリングを切ったときも追従性は崩れてきます。

ただ、鋳鉄のほうが剛性はあるのでタイヤを押し付けてくれます。しかし、重さの慣性で収まるのに時間がかかるため、どっちを取るか? この辺、BRZは全体的にアルミで軽量化し、またバネレート的にもトータルで上手くバランスがとれていた感じ。

バネは基本的に、ブレーキングで沈んだ反力はバネに頼らなくてはいけません。レートが柔らかいと剛性があってもそのバランスが弱い分、GR86は反力で戻ってこないために待っている時間が長いんです。BRZはちゃんとバネが沈んで反力で戻ってくる感じがあるので、軽い感じで回っていくけど、GR86は剛性感はあるけど軽やかさはない…。

ただ、GR86は動きが分かりやすいためにハンドル切ったら動いて曲がっていきます。基本はノーズダイブさせてリヤを流す方向。

ドリ車といってはおかしいけど、以前クリッカーでD1GPの1000psドリ車(TRUST・GT-R)に同乗走行した際、リヤが凄く柔らかくてストロークもあってめちゃくちゃ沈み込んで加速させていたのにビックリしたんです。その感覚がGR86にもちょっとありましたね。

まさにGR86はドリ車セッティング!って感じかな。ただ、純粋にサーキットでタイムを出そうとすると、その動きがちょっと過敏かも。

新型GR86/BRZのエンジン
エンジンは同じでも、そのフィーリングはGR86とBRZでは違うものだった

アクセルレスポンスも2車ともに違う味付けで、GR86は立ち上がりを速く、BRZはなだらかにピークへ持っていくタイプに味を変えています。この感じ、サーキットで全開にする加速感はさほど2車の違いは感じにくいのですが、Gが一番かかる最終コーナーではその差が明らかになります。

入り口、3速、低~中回転の間くらいから踏み込むと、GR86はパワーが出過ぎるというか、リヤと相談しながらアクセルコントロールをしないといけないのですが、BRZはソコで踏んでいけるので前へ前へといけるのです。

立ち上がりではコントロールし踏み込んだ時、BRZは良くも悪くもフラットな感じで丁寧に前に転がり、GR86はじゃじゃ馬感が出て、ここでも「コントロール感」というコンセプトが出てきます。

●新旧の差はあきらか! 新型に乗ったら旧型は乗れなくなる?

新型との比較で乗った旧型(現行型)は、BRZのAT車。その後、新型BRZに乗ったとたん、その進化は「すげ~なぁ!」

現行型のスバルBRZ
現行型として乗ったのは、ATのBRZ。新型に乗ったらもう…乗れない!?

とにかく2車とも、新型は旧型(現行型)に比べて重心は4mmぽっち下がっただけなのに、数字以上に凄く重心が低くなった感じがします。重心が低いから高速コーナーでもクルマが変に大きく動く感じもありません。トレッドやホイールベースも大きく変わっているのかな?と思うくらい、足まわりが広く感じるんですよね。

でもリヤのトレッドは片側5mm(左右で10mm)くらいしか変わっていないので、そのへんは重心が低くなったことによってそういう風に感じるのかな?って思いましたね。

また、ブレーキも旧型(BRZ/AT)で1コーナー踏んだらピッチングしてクルマがバタバタし、最終コーナーのアプローチでブレーキ踏んだら脱輪!っていうくらいクルマが動いていたのが、新型はけっこう踏んでもクルマが暴れないし、剛性感もありましたよ。

トヨタGR86
GR86をベースにチューニングし、さらに自分好みの味付けにするのも楽しそうだよ

クラッチもゼロからの動き出しのクセも無く、難しさもないですね。クラッチで難しいのは半クラからミートさせるとき。ミョ~に緊張するところも変に気にしなくてもよく、ゼロから繋がり始めるときにも暴れないし自然な感じでミートしてくれるんです。

また、ATにはパドルシフトも付いているのですが、そのフィーリングも新旧で違っていました。旧型(現行型)はパドル使わないほうがいいかも?って思うくらい、入力してからの間もあるし、上のギアに変わってからももたつく感じがあってストレスあり。

新型スバルBRZ
BRZはこのまま、なにもイジらずにタイムアタックもできそう。特にビギナーにはおススメかな

が、新型はソコの反応も良くなり、節度感もあり、かなりよくなっていましたね。MTとATとではギヤレシオがだいぶ違っていて、ATのほうがロングレシオ。でも、せっかく楽しいFRスポーツなのだから、GR86もBRZも、やっぱり乗るならMTのほうがいいと思うけど、どうでしょう?

400ccのエンジン排気量の差も、パワーが出ていても運動性能がよくなっている分、クルマが余裕を持て受け止めてくれているから扱いやすいしね。


というように、「操るGR86」と「走り込むBRZ」。まさに赤と青。赤は情熱的に、青はクールにサーキットを走る、まさにそのイメージ通り。

BRZはビギナーがサーキット走行でスキルアップするのには、何もいじらなくてもいいんじゃないの?と思うくらい、素晴らしく良くまとまったクルマ。

2022GR86/BRZレース車両
2022年には、人気の86/BRZレース車両も2.4Lの新型にチェンジするそう。さぁ、どっちに乗る? ボクが乗るとしたら…BRZかな!(井出)
2022GR86/BRZレース車両の室内
ロールケージが入るとワクワクする! 2022年のこの車両、すっごい楽しそう!!

反対に、ノーマルベースでは未完成感?も感じたGR86だけど、コレをベースにチューニングしていったら面白いかもね。

ベース車両としては出来過ぎなくらい良く仕上がっているので、チューニングメーカーにより先行開発されているGR86のチューニングバージョン、各社がどういう味付けなのか? 試してみたいです。(井出 有治)

(試乗インプレッション:井出 有治/アシスト・永光 やすの/画像:折原 弘之・SYE_X・永光 やすの)

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【関連リンク】

TOYOTA GAZOO Racing GR86
https://toyotagazooracing.com/jp/gr/86/

SUBARU BRZ
https://www.subaru.jp/brz/brz/

この記事の著者

永光やすの 近影

永光やすの

「ジェミニZZ/Rに乗る女」としてOPTION誌取材を受けたのをきっかけに、1987年より10年ほど編集部に在籍、Dai稲田の世話役となる。1992年式BNR32 GT-Rを購入後、「OPT女帝やすのGT-R日記」と題しステップアップ~ゴマメも含めレポート。
Rのローン終了後、フリーライターに転向。AMKREAD DRAGオフィシャルレポートや、頭文字D・湾岸MidNight・ナニワトモアレ等、講談社系車漫画のガイドブックを執筆。clicccarでは1981年から続くOPTION誌バックナンバーを紹介する「PlayBack the OPTION」、清水和夫・大井貴之・井出有治さんのアシスト等を担当。
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