2020年代は車内放置から命を守る「ICMS」が当たり前の装備なる!?【週刊クルマのミライ】

■車載ICやレーダーのトップ企業が「キャビン内監視システム」の肝となるミリ波レーダーを提案

車載用ICなどにおいて世界トップレベルのドイツ系企業・インフィニオンテクノロジーズが、クルマの安全につながるデバイスを発表しました。

それが『XENSIV™BGT60ATR24C AEC-Q100 レーダーセンサー』です。この60GHz級のミリ波レーダーは”ICMS”に利用できることを考慮して、キットが用意されています。このアプリケーションは、自動車の安全性を大きく変える可能性を秘めています。

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58~62GHzのミリ波レーダーなどアプリケーションとしてキットとして用意する

一般ユーザー的には、こうした製品名やチップの構成までを覚える必要はありませんが、それがどんな役に立つのかは知っておくべきでしょう。つまり”ICMS”とはどんな機能なのかということです。

ICMSというのはIn-Cabin Monitoring Systemの略称で、日本語で表現すると「車室内監視システム」となります。

車内の適切な場所にミリ波レーダーを設置、動いているものを検知するというのが大雑把な役割といえます。より細かく表現すれば、Occupant monitoring system(OMS)と分類される乗員監視システムです。

では、どの席に乗員が座っているのかを車両側で検知することができるようになると、どのような機能が可能になるのでしょうか。

日常的なメリットでいえば、シートヒーターの自動制御や空調の最適化などが可能になります。乗員の人数や位置によって、オートエアコンの制御を自動的に変えるという機能が実現します。また、シートベルトリマインダー(非装着警報装置)が義務化されていますが、乗員が座っているのにシートベルトを装着していないような場合に、より強い警告を発することもできるでしょう。

ICMS
「ICMS」とはIn-Cabin Monitoring Systemの略称で、日本語にすると車室内監視システムのこと

万が一の交通事故時においては、スマートエアバッグの適切な展開にもICMSの情報を利用することも期待できます。

それ以上に、生命を守るという視点でいえば、子どもやペットを車内放置していることの警告が可能となります。子どもが乗っていることをわかっていて車内放置をしているというドライバーや保護者は言語道断ですが、降ろしたつもりになってうっかり車内放置をしてしまうという事故は、世界中で起きています。

ミリ波レーダーを使用したICMSがあれば、そうした”うっかりミス”の車内放置を防ぐことが期待できます。

車内放置というのは、まさにいま対応すべき課題で、アメリカでは「リヤシートリマインダー」と呼ばれる機能を標準装備化することで、自動車メーカーのコンセンサスがとれています。

これは発進前に後席ドアを開閉したことをクルマが憶えておいて、駐車してクルマから降りる際に「後席に何か残っていませんか」とクルマが注意を促してくれる機能です。荷物の置き忘れくらいであれば笑い事で済むかもしれませんが、子どもやペットの降ろし忘れというのは、季節によっては命の危機に直結します。そういう意味も含めて、リヤシートリマインダーの重要性が認識されています。

ICMSは、その機能をさらに高めることが期待できます。ドライバーが降りようとしたときに後席に乗員が残っていると車両が判断したときは、強い警告を出すことも可能でしょうし、もしクルマから離れてしまっても、コネクティッド機能を利用してスマートフォンに警告を出すといったことができる未来も見えてきます。

今回、インフィニオンテクノロジーズが提案したミリ波レーダーを使うのがいいのか、はたまた赤外線カメラという手もあり得るのか、センシングデバイスの選定には議論もあるでしょうが、いずれにしてもICMS=車室内監視システムは、2020年代のクルマにおいて欠かせないものになっていきそうな機能といえるのではないでしょうか。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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