VWグループの高級EVを徹底比較!アウディe-tronスポーツバック55クワトロ & ポルシェ・タイカン4S 第1回・その1【プレミアムカー厳正テスト】

■自動車業界のプロ集団による「チーム パルクフェルメ」始動!

こんにちは。これまでクリッカーでは、「プレミアムカー定点観測試乗」として、スバル・レヴォーグ、アウディA8、ポルシェ911などの試乗記が発表されてきました。

他の多くの記事が試乗会などメーカーの整えた舞台で取材されているのとは異なり、取材中に決められたコースを走るのがこの企画の特徴です。その中には高速巡航や市街地走行に加え、高速ワインディングロード、ダブル・レーンチェンジなどハンドリングや動力性能を試せる道が含まれていて、可能な限り公平な状況で評価することを目指してきました。

こうした「厳正中立」の方針はそのままに、4人のメンバーからなる「チーム パルクフェルメ」が企画を引き継ぎました。パルクフェルメとは、フランス語で公園、庭園のことですが、自動車の世界では僅かながら趣の異なる意味を持つのは皆様ご存知のことでしょう。戦いに疲れたレーシングマシンたちが静かに休息する場所。そして、ルールに沿った戦いをしたか、卑怯な闘いをした者はいないか。そうしたことをチェックする場所でもあります。

「チーム パルクフェルメ」は、利益を優先せず、優良かつ良質な自動車評論を展開することを目指したコンテンツ制作チームです。クルマを愛し、常に公正であることを旨としてこの名を付けました。

雑誌編集長から輸入車広報部長に転身し、自動車評論の世界に戻ってきた主宰者を中心に、かつて中古車雑誌の副編集長を務め、フォーミュラカーレースの参戦経験もある運転オタク、自動車を含む様々な製品の広告プロデューサーを務め、モノの見極めに関して慧眼を持つフォトグラファー、元輸入車ハイブランドの宣伝マンにして自動車整備資格保持者、現在は月1万kmほども走るトラック野郎など、多彩なメンバーが集っています。

●EV化をリードするVWグループが誇る2台

「チーム パルクフェルメ」としての第1回目は、昨今の脱炭素の潮流に乗って勢いを増すEVを検分してみることにしました。

アウディe-tronスポーツバック55クワトロとポルシェ・タイカン4S
e-tronスポーツバック(右)はe-tronよりもルーフが寝かされたクーペ仕様、タイカン(左)にはシューティングブレイクのようにルーフが伸ばされた「クロスツーリスモ」仕様もあり

EV、つまり電気自動車というのは、案外古い歴史を持っています。カール・ベンツが4サイクルガソリン車を“発明”した頃には、すでに電気自動車が販売されていたといいます。自動車史上初めて時速100km/hを突破したのも電気自動車。当時は自動車の動力源として蒸気機関、内燃機関(ガソリン車)、電力モーターが並存していましたが、電気自動車は将来有望なものと見なされていたのです。

この状況が覆ったのは、電気自動車の航続距離の短さという弱点と、あの有名な“フォードT型”の発売であったと言われています。航続距離が長いうえに圧倒的に安価だったことで、ガソリン車が覇権を握るきっかけになりました。

昨今の脱炭素ブームにおけるEV興隆に先鞭を付けたのはテスラでしたが、現在はヨーロッパのメーカーも頑張っています。とりわけ、フォルクスワーゲン・グループのEVに対する力の入れ方は注目に値します。ディーゼル車の排ガス規制をめぐる不正事件を経て、一気にEVの強化に舵を切った彼らは、今後バッテリーなどのコンポーネンツを自社生産し、ラインナップを拡大していく考えです。

大型高級車のセグメントにおいては、既存の内燃機関車も高価なので、バッテリー代の嵩むEVとの価格差は相対的に小さくなります。次期愛車選びの現実的な候補となりやすいのです。また、クルマに1000万円を超えるお金を出せる人は地球環境を心配する余裕があるはず、と考えることもできます。

そんな視点から今回は、VWグループの2つの輸入プレミアムブランドが2020年に発売したEVを取り上げることにしました。いずれも各ブランドにとってピュアEVのデビュー作で、両車とも1000万円オーバーの大型車です。

●猫背がカッコいいe-tronスポーツバック

(前)e-tronスポーツバック、(後)タイカン
バーチャルエクステリアミラーのため、通常のドアミラー位置のカメラが特徴的なe-tronスポーツバック

1台目はアウディです。同社は1980年登場の舗装路用フルタイム4WD「quattro」を契機としてプレミアムブランドとしての地歩を固め、今やすっかりドイツ御三家の一角として認知されるに至りました。アウディの高品質イメージがEVにどう継承されているのか、興味が湧きます。

ピュアEVのシリーズは「e-tron」と名付けられ、「quattro」に続くブランドとして育てていくようで、2025年までに全世界の主要な市場においてピュアEVを20モデル以上発売するとしています。

今のところはSUVの「e-tron」と、その全高を僅かに削ってハッチゲートを前傾させた「e-tronスポーツバック」の2車がラインナップされています。試乗車は昨年2020年9月の日本導入時に設定された「アウディe-tronスポーツバック55ファーストエディション(バーチャルエクステリアミラー仕様車)」で、価格は消費税込み1346万円です。

●未来感を「タイカン」せよ

チェリーメタリックのボディカラーにオプションのブラックキャリパーでシックにまとまったタイカン

2台目はポルシェ。これまで911を筆頭に高性能かつ堅実なスポーツカーを作り続け、多くのエンスージャストから高い評価を受けてきた同社は、自動車動力源の変革期にどう対処してきたのでしょうか。そのスポーティネスはどう受け継がれているのか、が見どころとなります。

試乗車はタイカン4Sです。2015年のフランクフルトショーで発表されたEVコンセプトカー「ミッションE」といくらも変わらないエクステリアは、ポルシェらしさと未来感が同居していて期待が高まります。

タイカンには、素の「タイカン」から「ターボS」まで4グレードが用意され、4Sは下から2番目です。素のタイカンのみ1モーター2WDで、4Sから上の3グレードは2モーター4WDとなっています。

4Sの価格は消費税込み1448.1万円でe-tronスポーツバックよりちょっと高価ですが、このクラスの顧客にとっては比較検討の対象内でしょう。ただし試乗車には(例によって?)「パフォーマンスバッテリープラス」約100万円を筆頭に合計500万円近いオプションが装着されており、実際の価格は1919.6万円となります。


(前)e-tronスポーツバック、(後)タイカン
アウディ(右)はタイカン(左)と同じくらいの車高で真っ向からタイカンのライバルになるe-tron GTも今秋に導入予定

今回の試乗記は4回連載となります。今回に続く2回目にアウディe-tronの印象を、3回目でタイカンの印象を綴り、最終回で比較まとめを行います。

(文:チーム パルクフェルメ/写真:J.ハイド)

■SPECIFICATIONS

●アウディe-tron スポーツバック55クワトロ・ファーストエディション(バーチャルエクステリアミラー仕様車)
全長×全幅×全高:4,900×1,935×1,615mm
ホイールベース:2,930mm
車重:2,560kg
駆動方式:4WD
モーター:EAS-EAW
トランスミッション:1速固定
最高出力:408PS(300kW)
一充電走行距離(WLTCモード):405km
バッテリー総電力量:95kWh
サスペンション 前/後:ウィッシュボーン式エアスプリング/ウィッシュボーン式エアスプリング
タイヤ 前/後:265/45R21/265/45R21
交流電力量消費率:245Wh/km(WLTCモード)
価格:1346万円/テスト車両=1346万円

●ポルシェ・タイカン4S
全長×全幅×全高:4,963×1,966×1,379mm
ホイールベース:2,900mm
車重:2,280kg
駆動方式:4WD
モーター:EBG-EBF
トランスミッション:フロントアクスル1速/リヤアクスル2速
最高出力:490PS(360kW)ローンチコントロール時オーバーブースト最高出力:571PS(420kW)
ローンチコントロール時オーバーブースト最大トルク:650N・m
一充電走行距離(WLTPモード):463km
バッテリー総電力量:93.4kWh
サスペンション 前/後:ダブルウィッシュボーン式エアスプリング/マルチリンク式エアスプリング
タイヤ 前/後:245/40R20/285/40R20
電力消費率:25.6kwh/100km(複合)
価格:1448万1000円/テスト車両=1919万5998円