「アンチドイツセダン比較試乗」その5・結論【プレミアムカー厳正テスト】

■高級セダンを厳正テスト! キャデラック CT5 Platinum/トヨタ クラウン RS Advance 2.5HV/アルファロメオ ジュリア ヴェローチェ

●あえてドイツ車を外し、アメ車にイタ車と日本車を比較してみる

「チーム パルクフェルメ」は、利益を優先せず、優良かつ良質な自動車評論を展開することを目指したコンテンツ制作チームです。今回は、サイズ的にはミドルクラス、とはいえ価格は600万円前後という高級セダンの比較試乗をお届けしています。

3台集合写真
(左)アルファロメオ ジュリア ヴェローチェ
(中)トヨタ クラウン RS Advance 2.5HV
(右)キャデラック CT5 Platinum

アンチドイツセダン比較試乗、アルファロメオ・ジュリア編、キャデラックCT5編、トヨタ・クラウン編を終え、まとめにいきましょう。

■セダンの生きる道

アルファロメオジュリアキャデラックCT5、そしてトヨタクラウン。3車いずれも乗車定員5名のセダンですから、居住性についても触れておきます。

アルファロメオ ジュリア ヴェローチェ
アルファロメオ ジュリア ヴェローチェ

結論から言うと、どれも似たり寄ったりでした。身長172cmのドライバーが運転席のシートを合わせ後席に移ると、膝前に縦拳2.5個、頭上の余裕は掌1枚、いずれもそんなところです。

3台の中でジュリアだけ全長が短いですが、室内空間の差はほとんどありませんでした。いずれも高さ方向が厳しいものの、前席と後席の間にはかなり余裕があります。

キャデラック CT5 Platinum
キャデラック CT5 Platinum

ミニバン全盛の今、このことはセダンの生きる道として称賛されるべきではないでしょうか。

頭上空間が欲しければミニバンを選べばいいのです。セダンをミニバンとスポーツクーペの中間的存在だとすれば、ちょうど真ん中に居たのでは捉えどころのない中途半端な存在になってしまいます。どちらかに片寄る必要がありますが、ミニバンは道路占有面積と居住空間の対比において完璧な合理主義車です。

ならばセダンは、ややスポーツクーペ寄りの立ち位置で生きていくべきです。スポーツクーペは今や絶滅の危機に瀕しており、セダンはその代替になり得るのです。

トヨタ クラウン RS Advance 2.5HV
トヨタ クラウン RS Advance 2.5HV

技術の進歩とは恐ろしいもので、かつてのスポーツクーペと比較して、現代のセダンがハンドリングにおいて劣っているとは思えません。スポーツクーペはよりストイックになり、走りに特化することで地歩を確保しているように見えます。

いまどきの高級セダンは重心を低くして充分にスポーティに走れるハンドリングと、高速走行に対応できる空力性能が不可欠であり、後席頭上の余裕などはギリギリまで詰められるべきだと我々は考えます。

●進化したドライブアシスト機能

自動運転支援方面についても記しておきます。様々なカメラやレーダーで周囲の交通状況を把握し自車をコントロールするシステムは、実はとても繊細で、新車でも個体差があり得ます。それを断ったうえで記していきましょう。

キャデラック CT5 Platinum
ACCで首都高を走行中のCT5

まずはACC(アダプティブクルーズコントロール)。この面で優れていたのはキャデラックCT5です。加減速が滑らかで、先行車に追いつく場面では、3段階選べる車間距離を最も短く設定した場合でも、距離に余裕を持って緩やかに減速していくので安心感があります。

再加速も上品で、加えて停止直前には僅かにブレーキを抜いて優しく停車してくれます。ちょっとした上級ショーファー並みです。他の2車はこの辺りの制御がもう少し荒い印象です。

レーンキープ機能は、クラウンが優秀でした。複雑な車線ペイントの認識に優れています。たとえば分岐や合流の地点。路面に点々が続くような、あるいはその点々が徐々に幅を広げていくようなグラフィカルな車線表示にも、惑わされることなく自車の進路を保ってくれます。日本車だけに日本の路面をしっかり研究しているようです。

●選べる幸せ

「自動車の白物家電化」なるものが叫ばれて久しいです。近年の自動車は、工業界のグローバル化もあってか商品同士の差が少なくなってきました。どれも静かで乗り心地良く、なのにハンドリングが不快なほどダルいというクルマはもはや存在しないと言ってもいいでしょう。

そこで近頃、ロードインプレッション界隈に浮上してきたのが、低速域でのドライバビリティです。具体的にはアクセル操作とブレーキ操作に対する正確性。燃費と排ガスに汲々とするあまり、操作と作用が比例しないクルマが増えてきました。今回の3車の中ではジュリアがその影響をもっとも受けています。

アルファロメオ ジュリア ヴェローチェ
アルファロメオ ジュリア ヴェローチェのコクピット

微低速ではアクセル一定でも車速は一定でなく、かすかながらもガクガクと縦Gが発生しがちです。ブレーキもそう。ブレーキ回生装置など付いていないのに、踏力一定でも制動Gがグングン増していきます。踏力に時間が積算されるような感覚で、停止間際のカックンブレーキを避けるには極めて繊細なコントロールが必要になります。総じて低速域での洗練性は褒められたものではありません。

トヨタ クラウン RS Advance 2.5HV
フロントグリルに輝く“RS”のエンブレム

いや、だからジュリアは飛ばせばいいんです。かっ飛ばせばいいんですよ。対するキャディは、加速も減速も操舵もゆっくり丁寧に、上手いハイヤーのような走りを心がけると真価を発揮します。クラウンは、まず典型的日本製高級車に対するイメージを拭い去りましょう。少なくともRSなら、意外な楽しみを見出せるはずです。

半ば強引にまとめます。こういうときは何かに喩えるといいんだと誰かが言ってました。秘書にします。

ジュリアは、若くて見目麗しく快活な女性秘書です。業務遂行上いくつか指摘したいこともありますが、毎日が楽しいので許します。月曜日が待ち遠しいです。

CT5は、もう少し年上で落ち着いています。私生活における恋愛関係のこじれが露骨に表情に現れるような若輩者では、もはやありません。なんなら既婚で安定感の高いベテランです。

クラウンは、私企業の秘書というより公的な秘書官です。古女房との不和やら娘が昨晩無断外泊やらの翌日も、怜悧に業務をこなします。常に一定の感情を保ち、常に篤実です。篤実であることそのものを楽しんでください。

3台集合写真
(左)キャデラック CT5 Platinum/(中)アルファロメオ ジュリア ヴェローチェ/(右)トヨタ クラウン RS Advance 2.5HV

(文:チーム パルクフェルメ/写真:J.ハイド)