迷いなく選べるアウディの最新・最高級:アウディe-tronスポーツバック55クワトロ 第1回・その2【プレミアムカー厳正テスト】

■VWグループの高級EVを徹底比較!アウディe-tronスポーツバック55クワトロ & ポルシェ・タイカン4S

第1回で概要を紹介したVWグループ最新EV2台の比較試乗、最初に乗るのは「アウディe-tronスポーツバック55クワトロ・ファーストエディション(バーチャルエクステリアミラー仕様車)」です。

●わずか0.03秒に過ぎない、モーターならではのquattro史上最短なトルク発動

アウディにおけるピュアEV日本初導入記念モデルとして、2020年9月に発売されました。「55」は高性能バージョンで、現在のカタログモデル「50」に対し最大出力70kW増しの300kW(408PS)、最大トルク124Nm増しの664Nm(67.7kg/m)となっています。

電池容量も「50」の71kWhに対し95kWhとなり、満充電走行距離は70km増しの405km(WLTCモード)です。

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プラチナグレーの8角形シングルフレームグリルがEVであることを主張する

quattro(クワトロ)の名の通り4WDで、前後に搭載された2基のモーターがそれぞれ前後輪を担当、0-100km/h加速を5.7秒でこなす実力を備えます。通常時は主にリヤモーターで走行し、滑りやすい路面や急加速時など、4WDが望ましい場合に限りフロントモーターも駆動します。

モーターのトルクが立ち上がるまでに要する時間はわずか0.03秒で「これまでのいかなるquattroテクノロジーよりも速い反応時間」だそうです。バッテリー重量は約700kgにも及びますが、他のEVと同様にホイールベース間の床下に配置することで低重心化に寄与させており、合わせてアダプティブエアサスペンションによる快適な乗り心地とダイナミックな走行性能を両立させたとしています。

実車を見た第一印象は「内燃機関車アウディと比べて、何も違和感がない」ということでした。トヨタ・プリウスから始まる新世代動力車の多くは、そのルックスで未来感を表現しようとするものが多いですが、アウディには地に足がついた安心感があります。

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メーターにアウディバーチャルコクピット、センターにはタッチパネルを上下に2つ備える

コクピットに乗り込んでもその印象は同じ。ダッシュボードの基本的な造形は、これまでのアウディそのものです。シフトレバーは最近の例に漏れず“スイッチ”ですが、パームレストが付いており手首を固定した状態で操作できます。

“スイッチ”としては最上の操作性と言っていいでしょう。ちゃんと右ハンドル車専用の向きになっていて、左手で適度なクリック感のあるスイッチをドライブに入れて走り出します。低速時にトランスミッションがいわゆるクリープで加速しないこと以外、ここまでなんの違和感もありません。

●抜群の静粛性

走り出してまず気付くのは、抜群の静粛性です。吸気音も爆発音も排気音もないEVは他の騒音が耳障りになることが多いですが、ロードノイズ、風切音ともに非常によく抑えられています。遮音材や防音材の最適配置はもちろん、その量もたっぷりなのでしょう。遮音材も防音材も軽いものではありませんが、どうせ重いバッテリーを積んでいるのだから、ということなのかもしれません。

サイドウインドウの二重ラミネートガラスも効果的なようで、都内の環八で窓を少し開けてみたら、横を走る2トントラックのエンジン音を筆頭に、街中のざわめきにびっくりしました。窓を閉めると静寂が戻ります。

緊急車両のサイレンはちゃんと聞こえるのか?と不安になるほど深々とした静寂です。内燃機関車では望みようのない静粛性と言えます。ちなみにサイレンはちゃんと聞こえました。サイレンの音質のほうが旧来からちゃんと考えられているのだ、という妙な知見を得ることができました。

●アウディのイメージをさらに深化させる快適性

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S lineロゴ入りの電動スポーツシート、ヒーターも完備。全ドアにソフトクローズ機能を搭載、リヤゲートも電動

乗り心地も期待を裏切りません。2560kgのヘビー級だけあって重厚でフラット。剛性感も文句なしです。首都高速の継ぎ目ってこんなだったっけ?と狐につままれる思いでした。

「オフロード」から「コンフォート」まで7種類あるドライブモードの中から最もスポーティな「ダイナミック」を選ぶと、着座位置の高いSUVゆえ、荒れた路面でやや左右に揺すられる場面もありましたが、このあたりは秋発売と伝えられるe-tron GTに期待しましょう。

また、我々のメンバーの一人曰く「昨年のデビュー時に乗ったモデルより乗り心地が劣る」という意見もありました。今回の試乗車は1.2万kmほど走っており、タイヤが少し消耗していたのでそのせいかもしれません。どちらにせよ、極めて高いレベルでのほんの僅かな、水を満たしたコップの表面張力の高低のような優劣に過ぎません。

ちなみにアウディはランフラットタイヤを好まず、今回のe-tronスポーツバックもパンク修理剤対応です。全体的に厚手の絨毯の上を走っているような上質な乗り心地には、そのへんも関係あるのでしょう。静粛な室内と合わせて、アウディ=上質のイメージをさらに深化させたと言っていい乗り心地だと思います。

●EVのメリットを存分に享受できる

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1stエディションは特別装備のオレンジキャリパーが外観のアクセント。タイアは前後ともに265/45R21サイズ

走りっぷりもまたSUVとしては上等です。電子制御エアサスの躾は見事なもので、SUVとは思えない軽快なハンドリングを実現しています。バッテリー技術が進化して床下の軽量化が進んだら、もはやこの感覚は味わえないのかも…と不安になってしまうほど低重心を感じられる安定感です。コーナーでロールが少ないのに乗り心地がソフトな新感覚の乗り味は、EVならではのものです。重心が低ければことさらにバネを硬くする必要もないのです。

そしてアクセルの“ツキ”もEVならでは。何しろモーターですから踏んだ瞬間に加速が始まります。重いクランクシャフトを「どっこらしょ!」と加速させる内燃機関車とはワケが違います。一方で、アクセルを離すとスーッと空走します。この辺りはトルコンAT車と同じです。アウディは回生力より空走による電費向上を志向しているようです。

ただし回生力を活かす選択肢も用意されています。一部の内燃機関車と同様なパドルがステアリング裏に設置してあり、これが回生力コントロールのスイッチとなります。左手にあるパドルの-(マイナス)側を引くと回生力が効いてスムーズに減速します。再度アクセルを踏むと空走モードに戻りますが、センターコンソールにあるモニターの「エフィシェンシアシスト」で回生モードに固定することも可能です。BMW i3が世に知らしめた“ワンペダルドライブ”も可能なのです。

SUVらしく190mmの最低地上高を確保。トランク容量は616リッター

総じてアウディe-tronスポーツバックは、とてもよく出来たクルマでした。新世代動力車としてはルックスも操作方法も既存の内燃機関車との差が少なく、これなら身構えすることなくEVデビューできそうです。プラットフォームを共有する内燃機関車Q8との価格差もほぼなく、自宅に充電設備さえ整えてしまえば、もはや内燃機関車を選ぶ理由はないのではないか、というのが正直なところです。

(文:チーム パルクフェルメ/写真:J.ハイド)

■SPECIFICATIONS

●アウディe-tron スポーツバック55クワトロ・ファーストエディション(バーチャルエクステリアミラー仕様車)
全長×全幅×全高:4,900×1,935×1,615mm
ホイールベース:2,930mm
車重:2,560kg
駆動方式:4WD
モーター:EAS-EAW
トランスミッション:1速固定
最高出力:408PS(300kW)
一充電走行距離(WLTCモード):405km
バッテリー総電力量:95kWh
サスペンション 前/後:ウィッシュボーン式エアスプリング/ウィッシュボーン式エアスプリング
タイヤ 前/後:265/45R21/265/45R21
交流電力量消費率:245Wh/km(WLTCモード)
価格:1346万円/テスト車両=1346万円