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■伝達効率の良いMTと自動変速できるATの両機能を合わせ持つ
●奇数段と偶数段の2系統の歯車軸とそれらを切り替えるクラッチで構成
欧州の一部のクルマで採用されているDCT(デュアルクラッチトランスミッション)が、バイクでも採用されています。MTベースなので動力伝達効率が高く、ATのように自動変速によって変速操作を不要にしたトランスミッションです。
進化するトランスミッションの代表格であるDCTについて、解説します。
●DCTの構造
DCTは、奇数段(1-3-5速)のギヤをインナーシャフト、偶数段(2-4-6速)のギヤをアウタ―シャフトの同軸上に配置した2系統の歯車機構の入力軸と、それぞれに独立したクラッチを装備した構成です。
このクラッチの切り替えによって、奇数段と偶数段のギヤ切り替えを行ってスムーズで駆動力の途切れがない変速を実現します。2本の入力軸は、クラッチのON-OFFにかかわらず歯車を介して、1本の出力軸に統合して出力するようになっています。
バイクには、クルマと同じような機構のDCTを搭載するのはスペース的に難しいため、バイク用に専用設計しています。例えば、クラッチを直列配置したり、油圧回路をコンパクトに集約化するなどです。DCTの制御は難しいですが、内部の基本構造はあくまでMTと同じなのでシンプルかつ軽量コンパクトにできるのが大きな利点です。
●DCTの作動
発進のときには、まず奇数段クラッチをつないで1速で発進します。このときクラッチのつながっていない偶数段の2速の歯車は、かみ合わせを完了して待機状態です。車速が上がりECUが変速を指示すると、奇数段クラッチが切れると同時に偶数段クラッチがつながり、瞬時に2速へ変速します。このとき、クラッチがつながっていない奇数段は3速の待機状態です。
変速は、MTと同じようにシフトドラムの回転でシフトフォークを動かして行います。シフトドラムの回転はモーターで行い、シフトアップかシフトダウンかは、各種センサーの情報から運転状況を検知して判断します。クラッチの断続は、リニアソレノイドバルブによって油圧ピストン室の油圧をON-OFF制御し、プレッシャープレートがスライドしてクラッチを押し付けたり離したりすることで行います。
●ATモードとMTモード
走行モードは、自動で変速するATモードとシフトスイッチでライダーが自由に変速するMTモードがあります。
ATモードは、各種センサーの情報から走行状況を検知して自動で変速を行います。またATモードには、燃費を重視する「Dモード」と高速の動力性能を重視する「Sモード」があり、2つのモードは、ECU内の変速マップを選択することで行います。
一方のMTモードは、ギヤの選択をライダー自身が任意にシフトスイッチで行います。シフトアップはシフトアップスイッチを、シフトダウンはシフトダウンスイッチをそれぞれ操作し、スイッチを押すたびに1速ずつ変速します。
DCTは、2つのクラッチを切り替えることでスムーズな変速を行いますが、切り替え時には一瞬トルクに段差が発生するので、低速時にはそのショックが気になることがあります。日本では低速走行が多いので、クルマのDCTはギクシャク感が嫌われる傾向があって普及していません。バイクも同様、高速走行中心のバイクには向いていますが、街乗りなどには不向きだと思います。
(Mr.ソラン)