アイデアはよかったのに!? 注目されたけど1代で消えてしまった日産の「迷車」と「名車」

■今なら売れた? 時代の先端を追求したクルマたち

「やっちゃえ日産」のキャッチコピーでおなじみの日産。現在は電気自動車や、高速道路の手放し運転機能「プロパイロット2.0」などの先進技術を売りにしていますが、かつてはデザインやコンセプトでも時代の先端を走っていたモデルが数多く存在しました。

ただ、中にはちょっと先を行きすぎたためか、登場して1代だけで生産終了になってしまったモデルなどもあります。ここでは、それらの中でも、特に個性的なモデルを紹介してみましょう。

●秘書がターゲット? コンパクトカーの「NXクーペ」

1990年に登場したNXクーペは、北米で流行していたセクレタリーカーとして開発されたクルマです。

1代で消えた日産の迷車
日産・NXクーペ

ちなみに、「セクレタリー」とは英語で秘書のこと。女性の社会進出が進んだ北米で増えた、ホワイトカラーの働く女性向けといったコンセプトだったのでしょう。女性でも扱いやすいコンパクトな車体と、流麗なボディデザインが特徴的なモデルです。

ベースとなったのは7代目サニー(B13型)で、「女子ウケ」しそうな滑らかでスタイリッシュなフォルムを採用。ボディラインアップには、北米で当時人気のフェアレディZ(Z32型)などで好評だったTバールーフ仕様もあり、豪華なスペシャリティカー的な要素も盛り込まれていました。

当時の日本では、シルビア(5代目S13型)などスポーツ志向が強いクルマが人気だったことや、ヘッドライトが凹んだフェイスデザインがあまり受けなかったためか(「ウナギイヌ」と呼ばれたという説も)、販売はパッとせず1994年に生産終了。ちなみに、メインターゲットの北米ではNXの名称で販売され、なかなかの人気を得ていたといいます。

●3列シートのコンパクトカー「キューブ キュービック」

2003年に登場したキューブ キュービックは、コンパクトカーのキューブ(2代目Z11型)をベースに、ホイールベースやボディを延長した派生機種です。

1代で消えた日産の迷車
日産・キューブキュービック

キューブが2列シートの5人乗りだったのに対し、3列シートの7人乗りにしたのが特徴で、車名はキューブよりも「広い室内」などの意味で「cube3」と3(立方体のキュービックという意味もある)を追加した名称で販売されていました。

外観はまさにキューブそのもので、よく見るとややボディが長いのが分かる感じ。エンジンには1.4Lの直列4気筒を搭載し、マニュアルモード付6段変速のエクストロニックCVT-M6を採用していました。

発売された当時は、今でも高い人気を誇るトヨタの「シエンタ」などコンパクトカーの3列シート車、いわゆるコンパクトミニバンが出始めた頃。小柄な車体ながら7人が乗車できるといったコンセプトは、当時かなり衝撃的でした。

1代で消えた日産の迷車
キューブキュービックのインテリア

ところがこのモデルは、ベースとなったキューブが全長3730mmなのに対し、全長3900mmとわずか270mm延長した程度。全長4100mmのシエンタなど他のコンパクトミニバンと比べ、3列目のシートは狭く緊急用といった感じで、シエンタや後(2008年)に登場するホンダの「フリード」のような余裕の室内ではなかったのです。

そういった「ちょっと無理がある7人乗り」だったためか人気は今ひとつで、キューブが3代目Z12型へモデルチェンジした2008年に生産終了。以後、日産には現在のところコンパクトミニバンは存在していません。

●レトロでおしゃれな小型SUV「ラシーン」

1994年から2000年の6年間の間に販売されたコンパクトSUVがラシーン。こちらは発売当初は高い人気を誇っていたのですが、残念ながら1代で消えてしまったモデルの1台です。

1代で消えた日産の迷車
日産・ラシーン

94年に出たラシーンですが、ベースとなったのは、93年に出た8代目サニー(B14型)ではなく、前出のNXクーペと同様、90年の7代目サニー(B13型)と同年の4代目パルサー(N14型)で、1.5L・直列4気筒エンジンとフルタイム4WDシステムを採用していました。

特徴は、角張った形状を持つレトロ調フォルムで、そのスタイリッシュなデザインは当時流行したパイクカーの流れを組むものです。

パイクカーとは、レトロ調や先鋭的なデザインを取り入れたスタイリングを持つクルマのこと。日産では、ほかにもマーチ(初代K10型)ベースのBe-1(1987年)やパオ(1989年)、フィガロ(1991年)などが販売されましたが、残念ながらいずれも生産終了になっています。

●ドリフトなどで人気だった「180SX」

180SXも販売当初は人気があり、迷車というより名車の1台ですが、実は1代だけで生産が終了してしまったクルマです。

1代で消えた日産の迷車
日産・180SX

1988年発売の5代目S13型シルビアの兄弟車として1989年に登場。リトラクタブル式ヘッドライトを採用したシャープなフェイスデザインを持つ、ファストバックタイプのクーペモデルです。

初期型のエンジンには最高出力175psの1.8L・4気筒ターボのCA18DET型を搭載。名前の由来は、このエンジン排気量から来ています。

また、1991年のマイナーチェンジでは205psを発揮する2.0L・4気筒ターボのSR20DET型エンジンに変更。1996年にはノンターボ(自然吸気)のSR20DE型もラインアップに追加されました。

ちなみに、北米などでは、2.4L・4気筒のKA24DE型エンジンなどを搭載した240SXが販売されていました。

180SXは、1999年に6代目S14型シルビアと統合される形で生産が終了されました。ドリフトなどモータースポーツのベース車両に使われることも多く、当時の若者を中心に絶大な人気を誇ったモデルだけに、今でもファンが多い日産車の1台だといえるでしょう。

(文:平塚直樹/写真:日産自動車)

この記事の著者

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平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
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