【第33回 最終回・2020年8月2日公開】
マツダは、「SKYACTIV-G」に続いてSPCCI燃焼(火花点火圧縮着火)を採用した「SKYACTIV-X」エンジンを開発し、2019年末の「マツダ3」に搭載しました。
SPCCI燃焼は、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの特徴を融合した画期的な燃焼方式です。火花点火をトリガーにして、ディーゼルエンジンのように燃焼室全域で圧縮着火の燃焼を行います。
これによって空燃比30以上の超リーンバーンを実現し、高い熱効率を達成しました。
第8章 新生「SKYACTIV(スカイアクティブ)」による挑戦と飛躍
その6.革新エンジン「SKYACTIV-X」
●さらなるエンジンの熱効率の向上を目指して
世界的なCO2(燃費)規制や排ガス規制に適合するため、ハイブリッドやEVなどの電動化技術とともに内燃機関(エンジン)の熱効率向上が進められています。2020年時点の熱効率の目標は45%ですが、まだ実現したエンジンは存在しません。
熱効率向上の有望な燃焼技術がリーンバーンです。
リーンバーンとは、空燃比(吸入空気とガソリンの重量比)が理論空燃比14.7よりも大きい、ガソリンが少ない(薄い)混合気の燃焼です。一般には、空燃比が約20以上の燃焼をリーンバーンと呼びます。
リーンバーンは一般的な理論空燃比の燃焼に対してリーン空燃比で燃焼するので、熱効率(燃費)が大幅に向上します。
燃費が向上するのは、混合気が空気に近づくので比熱比が高くなる、燃焼温度が下がるので冷却損失が低減する、同一トルクでの空気量が増えるのでポンピング損失が低減する、という3つの効果に起因します。
●ガソリンエンジンの圧縮着火燃焼の狙い
これまでもリーンバーンの実用化例はありましたが、空燃比25程度で燃費改善効果がそれほど大きくなく、またNOx(窒素酸化物)排出量の低減が不十分であったため、広い普及には至りませんでした。
リーンバーンの効果を発揮するには空燃比で30以上の超リーン化が必要です。ただし通常の火花点火燃焼で空燃比30以上の超リーンバーンを行うと燃焼速度が下がりすぎて火炎が燃焼室全域に伝播できず、燃焼が不安定になったり失火が生じたりなどの弊害が出てしまいます。
この問題を解決するために以前から提案されているのが、HCCI(予混合圧縮着火)エンジンです。
HCCIは、あらかじめ空気とガソリンを均一に混合した状態で圧縮着火燃焼を実現する方法ですが、運転条件の変化に対応した着火制御が難しいために成立する運転領域が狭く、まだ実用化されていません。
●SPCCI燃焼のための燃焼制御技術
HCCIの課題を解決するために開発されたのが、「SKYACTIV-X」で採用された画期的な燃焼方式「SPCCI(火花点火圧縮着火)」です。
最大の特長は、点火火花をトリガーとしてディーゼルのように燃焼室全域で圧縮着火燃焼させ、超リーンバーンを実現した点です。
SPCCIでは、圧縮比を圧縮着火が可能な16.3(95RONハイオクの場合)まで上げておきます。火花点火によって発生する膨張火炎核が混合気を圧縮することでシリンダー内の温度が着火温度に達し、燃焼室全域で圧縮着火燃焼するというメカニズムです。
「SKYACTIV-X」は、運転条件に応じて3つの燃焼モードに切り替えます。
1.一般的な理論空燃比(14.7)の火花点火燃焼
高負荷領域で適用、その他極低温や高地の条件で使用
2.大量のEGRを導入したSPCCI燃焼
外部および内部EGRによって低燃費を実現、低温時や中負荷領域で適用
3.超リーンバーン(空燃比30以上)のSPCCI燃焼
軽負荷領域で適用、低燃費を実現
また、SPCCI燃焼を成立させるため、他にもさまざまな最新技術が採用されています。
・シリンダー内の混合状態を制御する高圧(30~60MPa)の多孔筒内噴射弁
・緻密な燃焼制御のための全気筒装着の燃焼圧センサー
・吸排気ガスの流れを制御するVVT(可変バルブタイミング)機構
・リーン状態を実現するための空気とEGRを過給するスーパーチャージャー
この「SKYACTIV-X」を搭載した「マツダ3」を2019年12月に、小型SUV「CX-30」を2020年1月に発売しました。
「SKYACTIV-X」はまだ完成形でなく、改良の余地はあります。第1弾の「SKYACTIV-G」、第2弾の「SKYACTIV-X」に続く第3弾の革新エンジンの出現が楽しみです。
(Mr.ソラン)
マツダ100年史、おしまい。
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