車両の統合制御「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS」【マツダ100年史・第32回・第8章 その5】

【第32回・2020年8月1日公開】

マツダは車両の統合制御「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS」の第1弾として、次世代車両制御技術「G-ベクタリング制御(GVC)」および「GVCプラス」を順次発売モデルに展開しています。
ステアリング操作に応じてエンジントルクを制御し、タイヤの接地荷重を最適化してコーナーリング性能と安定性を確保するのがGVCです。さらにブレーキ力を利用してヨーモーメント制御も追加したのが、GVCプラスです。

第8章 新生「SKYACTIV(スカイアクティブ)」による挑戦と飛躍

その5.車両の統合制御「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS」

●SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS

マツダの開発コンセプトである「人馬一体」の走行性能を実現するため、エンジンやトランスミッション、ボディ、シャシーなど個々のユニットを統合制御する技術が車両制御技術「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS」です。
2016(平成28)年、マイナーチェンジ版アクセラに、「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS」技術の第1弾として「G-ベクタリング制御(GVC)」を採用しました。ドライバーのステアリング操作に応じてエンジンのトルクを制御し、タイヤの接地荷重を最適化する制御技術です。
さらに2018(平成30)年にはCX-5のマイナーチェンジ車に、GVCにブレーキによるヨーモーメント制御を追加した「G-ベクタリング制御 Plus(GVCプラス)」を採用しました。

「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS」イメージ。
「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS」イメージ。

●「G-ベクタリング制御(GVC)」の技術

マツダの開発コンセプト「人馬一体」の走行性能を実現する車両制御技術「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS」の第1弾として開発されたのが「G-ベクタリング制御(GVC)」です。
GVCは、運転者のステリング操作に応じてエンジントルクを制御することによって、タイヤの接地荷重を最適化して車両のコーナーリング性能や安定性、乗り心地を向上します。
具体的には、カーブを曲がる際、ステアリングを切り始めると同時に、エンジントルクをわずかに下げて減速度を発生させます。これによって前輪の接地荷重が増えて旋回性能が向上します。
一方、ステアリングを戻し始めると、エンジントルクを上げて加速度を復元させます。これにより後輪の接地荷重が増えて車両の直進安定性が向上します。
これらの制御は、ステアリングの操舵角や車速などの情報に基づいてECU(電子制御ユニット)が最適なトルク量を演算して行われます。応答性に優れた「SKYACTIV-G&D」の特性を生かして5msの高応答で制御し、しかもドライバーや乗員が感知できない必要最小限のトルク変化に抑えています。また、GVCは、タイヤの接地荷重を適切にすることでコーナーリングや直進走行時に修正操舵操作量を減らし、ドライバーを疲れにくくするというねらいもあります。
ドライバーは、直進中も路面状況などで自然に曲がろうとする車両を、無意識のうちにステリング操作で修正しています。GVCはこのような無意識の操舵の代わりにエンジントルクを制御して進行方向を自動制御します。特に濡れた路面や雪路など、滑りやすい路面や砂利道で効果を発揮します。
その他にも、コーナーリング時の急激な横揺れが減り、乗り心地を向上させる効果もあります。

GVCコントロールのイメージ図。
GVCコントロールのイメージ図。左がGVC制御付車のターンイン、右が通常車両のターンイン。
GVC有無の応答性比較写真。
GVC有無の応答性比較写真。ステアリングを切ったときに前輪が滑らずに反応する。
GVC有無の安定性比較写真。
GVC有無の安定性比較写真。ステアリングを戻したときでも後輪が滑らず安定する。

●「G-ベクタリング制御 Plus(GVCプラス)」の技術

GVCプラスは、それまでのGVCにブレーキを使ったヨーモーメント制御を追加したものです。
コーナーリング後にステアリングを戻す際、外輪にブレーキをかけて復元モーメントを発生させて、車両を素早く直進状態に戻します。
非常に素早いステアリング操作に対しても、GVCプラスは優れた追従性によって俊敏に車両挙動を収束させます。これにより、緊急時の危険回避や濡れた路面、雪道の滑りやすい路面での走行など、車両挙動が不安定になりやすい状況でも安定した安全な走行ができます。

GVCプラス制御。
GVCプラス制御。旋回中のドライバーのハンドル戻し操作に応じて外輪をわずかに制動し、車両を直進状態に戻すための復元モーメントを与えることで安定性を向上させる(マツダ資料より。)。

(Mr.ソラン)

第33回につづく。


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第8章 「SKYACTIV(スカイアクティブ)」による挑戦と飛躍

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この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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