スムーズな変速と小型化を実現した「SKYACTIV-DRIVE & MT」【マツダ100年史・第30回・第8章 その3】

【第30回・2020年7月30日公開】

「SKYACTIV」技術の中で、エンジンの出力を駆動軸に効率よく伝達するのが「SKYACTIV-DRIVE」と「SKYACTIV-MT」の役目です。「SKYACTIV-DRIVE」はダイレクト感とスムーズな変速を実現し、同時に燃費を改良したAT(オートマチックトランスミッション)を思想としています。
一方、「SKYACTIV-MT」は、軽快な変速を可能にした軽量コンパクトなMT(マニュアルトランスミッション)です。

第8章 「SKYACTIV(スカイアクティブ)」による挑戦と飛躍

その3.スムーズな変速と小型化を実現した「SKYACTIV-DRIVE & MT」

●「SKYACTIV」におけるトランスミッションの役割

トランスミッションはエンジンほど注目されませんが、クルマの燃費や動力性能に大きな影響を与えます。
「SKYACTIV-G」や「SKYACTIV-D」がいかに低燃費で高トルクでも、高い伝達効率と適正な変速比、スムーズな変速ができなければクルマとしては台無しです。
トランスミッションは、AT(オートマチックトランスミッション)とMT(マニュアルトランスミッション)に大別されますが、ATの中には一般的なステップATや日本で普及しているCVT(連続可変トランスミッション)、欧州で普及しているDCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)などがあります。

マツダは「SKYACTIV-DRIVE」でダイレクト感のあるスムーズな変速と低燃費を実現するATを、「SKYDRIV-MT」で軽快なシフトフィールの軽量かつコンパクトなMTを開発しました。

●「SKYACTIV-DRIVE」の技術

「SKYACTIV-DRIVE」は、一般的なステップATをベースに、CVTの持つ滑らかな変速と低速燃費の良さ、DCTのダイレクト感と燃費の良さといったメリットを併せ持つATです。
一般的なトルクコンバーター付きATは、流体を介してエンジン動力を伝達するので、スムーズな発進や変速ができる一方で、直結でないゆえの伝達ロスが発生します。ここがATの燃費悪化の要因のひとつです。
そのため、一般的にはクラッチを使ってエンジン動力を直結する「ロックアップ機構」が採用されます。ただしロックアップは振動が発生しやすく、ロックアップできる運転領域が限られるという課題があります。
「SKYACTIV-DRIVE」では、ロックアップ領域拡大のため、トルコンの内部に制御性、耐久性に優れた油圧多板クラッチを採用し、これをロックアップクラッチとして利用しています。

2011(平成23)年、マイナーチェンジ版「アクセラ」で「SKYACTIV-G」と組み合わせた「SKYACTIV-DRIVE」は、それまで49%だったロックアップ領域を82%まで拡大して燃費の改良とダイレクト感を実現しました。さらに減衰ダンパーによって振動騒音を改善し、トルコンは発進を中心としたごく低速で使うものと割り切って小型化しています。また、多板クラッチに加えて制御システムの応答性を向上させ、DCTに匹敵する俊敏な変速を達成しました。

SKYACTIV-DRIVE
SKYACTIV-DRIVE
SKYACTIV-DRIVEのねらい。
SKYACTIV-DRIVEのねらい。

●「SKYACTIV-MT」の技術

日本ではシェアが2%にも満たなくなったMTですが、欧州や新興国ではダイレクト感や燃費の良さで高い人気があります。
「SKYACTIV-MT」が目指したのは、スポーツカーのような軽快で節度感のあるシフトフィールを実現です。そのため、軽い操作力とショートストロークという、相反する特性を両立させました。そのため、小さな内部ストロークでも確実に操作力を伝えられるように、シンクロのストローク量を短くしてレバー比を上げました。
さらにシフト時の節度感を出すために、シフト開始時を適度に重く、その後は滑らかにギヤが噛み合うようなシフトフィールを作り出しました。
一方、構造の見直しでは、1速とリバースのギヤを兼用することでセカンダリー軸の長さを従来比で20%短縮しました。その他構造の見直しを含めて、変速機単体の質量を約16%軽量化、さらに内部抵抗を低減させ、1%の車両燃費を改善しました。

SKYACTIV-MT
SKYACTIV-MT
ショートストローク化。
ショートストローク化。

(Mr.ソラン)

第31回につづく。


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第8章 「SKYACTIV(スカイアクティブ)」による挑戦と飛躍

その1.「SKYACTIV」の誕生【2020年7月28日公開】
その2.驚異的な圧縮比14を実現した「SKYACTIV-G & D」【2020年7月29日公開】

この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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