百瀬晋六とは?飛行機の技術をベースにスバルの礎を築いた技術者【自動車用語辞典:クルマの偉人編】

■スバルの前身、中島飛行機出身でスバル360、スバル1000などの名車を開発

●フルモノコック構造、水平対向エンジン、国内初のFFなど独創的なクルマづくりの先駆者

現在のスバルの独自性の強い技術は、バス「ふじ」号やスバル360を作った百瀬晋六の技術への強いこだわりを起源にしています。こだわりはより高い信頼性と安全性が求められる飛行機の設計経験が生かされています。

良い意味での技術至上主義を貫いた設計者である百瀬晋六について、解説していきます。

百瀬晋六
百瀬晋六(写真:(株)三栄 モーターファン別冊すべてシリーズ)

●百瀬晋六のヒストリー

・1919年(T8):長野県塩尻市に誕生

・1939年(S14):東京帝国大学工学部航空学科入学、主として原動機を学ぶ。

・1942年(S17):中島飛行機に入社して戦闘機用エンジンを製作

・1957年(S32):富士重工伊勢崎製作所技術部長就任。進駐軍のスクーターを参考にして、ラビットを製作。好評を得て、スクーター時代を切り開いた。

・1958年(S33年):スバル360が発売、個性的なスタイリングと技術で大ヒットとなる。

・1960年(S35):同社群馬製作所技術部長就任

・1966年(S41):同社技術本部長就任

・1967年(S42):同社取締役就任

・1968年(S43):同社取締役スバル技術本部長就任

・1975年(S50):同社取締役スバルサービス本部長就任

・1991年(H3):株式会社スバル研究所技術顧問就任

・1997年(H9):77歳で死去

・2004年(H16):日本自動車殿堂入り

百瀬晋六
百瀬晋六(写真:Wikipedia @public domain)

●功績

多くのクルマの設計に携わりましたが、最初に手がけたのは「ふじ号」です。ボンネットバスが主流の時代に、国産初のフレームレス構造のモノコックボディを採用した画期的なバスです。エンジンをリアに搭載することでボンネットをなくし、客室のスペース効率を上げました。

「スバル360」は、フルモノコックボディやリアエンジンなど大胆な設計思想で、軽自動車としては初めて4人乗車を達成しました。かわいい「てんとう虫」と呼ばれた卵型のスタイルが人気を呼び、大ヒットになりました。これによってスバルは生き残り、また日本独自の軽市場を切り開く起爆剤になりました。

スバル 360
スバル 360(写真:SUBARU)

この奇抜なボディは、軽量化のためにボディパネルを薄くして、その薄さで強度を確保するために平面を極力少なくするという狙いから生まれました。

また、FFのスバル1000では、FFの駆動輪が操舵も受け持つために発生する不自然なフィーリングを、「ダブルオフセットジョイント」で解消しました。スバル1000にはこの斬新なFFのほか、水平対向エンジンやインボードブレーキ、4輪独立懸架などを採用しました。

スバル1000
スバル 1000(写真:SUBARU)

●エピソード

・大学卒業後、中島飛行機に入社して戦闘機用のエンジンの設計や改良に携わりました。

このとき百瀬は徴兵により海軍に入隊していましたが、軍籍のまま中島飛行機に派遣されました。海軍と中島飛行機の共同開発で、戦闘機用のエンジン「誉」を開発しました。

・中島飛行機は、海軍将校であった中島知久平が創設した航空機メーカーです。1917年に飛行機研究所として誕生し、1931年に中島飛行機に改称しました。その後最盛期を迎えましたが、戦闘機を生産していたことから戦後はGHQによって解体させられました。その中枢が、現在のスバルのルーツです。

・多くの名言が残っています。代表的なのは、「物をよく見ろ。机上検討だけではダメ、設計は足でしろ」「上に立つものは手を汚せ」「みんなで考えるんだ、考えるときはみな平等だ」などです。

スバルはトヨタの傘下に入りましたが、これらの名言はトヨタの現地現物主義に通じるものがあります。


百瀬晋六の技術のベースには、高度な飛行機の設計技術があります。その時々で最も優れた技術を採用し、技術至上主義と揶揄する人もいました。

この高い技術へのこだわりが、今日の水平対向エンジンや4WD、アイサイトなどの安全運転支援技術などの「スバルらしさ」に繋がっていると言えます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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