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■変速レスポンス向上のため、操作が容易なパドルシフトと多段化(8段)トランスミッションを採用
●構造はMTながら、クラッチ断続や変速は電子制御のスリーブ油圧制御
F1用のギヤボックスは、パドルシフトを使ったセミオートマチックトランスミッションです。内部構造はMTと同じですが、クラッチと変速の操作は油圧機構を使って自動で行います。
俊敏な変速が要求されるF1用ギヤボックスについて解説していきます。
●ミッドシップ(MR)の後輪駆動
F1マシンはレギュレーションで2輪駆動に規定されています。したがって、安定した走行性能を実現するために、エンジンを中央付近に配置(ミッドシップ)する後輪駆動が採用されています。
高速走行で激しく加減速を繰り返すF1では、加速時にピッチングによって荷重が後方に移動します。後輪の荷重が増大してグリップ力が増すので、後輪駆動にすることで駆動力が発揮しやすくなります。また、コーナリング中にアクセルペダルを操作することで、後輪の横滑りを利用してヨーレートを制御できる利点があります。
●セミオートマチックと変速原理
F1用ギヤボックスは、セミオートマチックトランスミッションです。変速は、パドルシフト操作のみでクラッチ操作は不要です。
レギュレーションでは、8速+リバース1速に規定されています。
内部構造は、MTと同じ平行2軸式変速機です。インプットシャフト(カウンターシャフト)とアウトプットシャフトの2本のシャフトに、1速、2速、3速・・・8速の各ギヤが組まれています。油圧制御のスリーブが移動し、目標とするギヤを選択すると、インプットシャフトの回転がそのギヤ比で変速されてアウトプットシャフトに出力される仕組みです。
●セミオートマチックの制御
クラッチ断続や変速のためのスリーブ制御は、電子制御の油圧機構で行います。
・ドライバーのアップ/ダウンの変速操作が電気信号としてECUに送られる。
・ECUは変速に最適なタイミングを判断して油圧信号を送る。
・クラッチが切られてスリーブ制御によって変速が完了したら、瞬時にクラッチをつなぐ。
ドライバーが手動で変速すると変速時間は0.1~0.2秒程度、セミオートマチックでは0.02~0.03秒に短縮されると言われています。
変速時間が短縮されるほどタイム的には有利ですが、逆にスムーズにクラッチをつなぐのが難しくなり変速ショックでタイムをロスする場合もあります。
F1マシンの超高速の変速は、高精度な油圧制御によって実現されています。
●多段変速の必要性
F1のギヤボックスは、過去には6速や7速に規定されていましたが、最新のレギュレーションでは8速に規定されています。
一般的にエンジントルクは、高くて広いトルクバンドを持つことが理想的です。
F1エンジンは吸排気系の自由度が小さいので、トルクを上げようとするとトルクバンドの狭いピーキーなトルク特性になりがちです。
したがって高トルク領域を極力多く使えるように変速段を増やすことが、走行中に高いトルクを維持するのに効果的です。
市販車でも、最近は燃費向上や走りのスムーズさを狙って、8速や10速の多段ミッションが普及しています。
●指先だけで操作するパドルシフト
セミオートマチックトランスミッションでは、変速操作はアップとダウン、2つの指示だけなので、パドルシフトがステリングの裏に配置されています。
これによってステリングホイールから手を放す必要がなくなり、コーナリング中でもステアリングホイールを保持しながら容易に変速ができます。
エンジンや空力パーツに比べると、ギヤボックスの変速制御はメーカー独自のノウハウが結集されてブラックボックス化しています。
変速回数の多いサーキット(例えばモナコGP)では、変速時間がタイムに大きく影響すると言われており、ギヤボックスの変速機構は重要な競争技術となっています。
(Mr.ソラン)