ゾクゾクするほど贅沢な技術をふんだんに盛り込んで究極のパワーを実現したCBR1000RR-Rのエンジン【新型ファイアーブレード登場・2】

●猛烈な執念で高回転・高出力化を実現

これは贅沢すぎる! 前回の記事でも書きましたが、モデルチェンジを受けて登場した新型CBR1000RR-Rファイアーブレードの新開発されたエンジンはクラス最強レベルの160kW。馬力に換算すると約218psです!

これがどれくらいすごいかというと、クルマでいえば700psとか800psくらいの超ハイパワー車が、ふつうのオッサンでも買えてしまう値段で売られるということです(ここでは奥さんの意向は考慮していません)。まぁ、特に根拠もない雑な例えですが……。

CBR1000RR-R_Black
市販車ベースのスーパーバイク選手権でも使われるCBR1000RR-Rは、市販状態でもレーシングマシンにかなり近いポテンシャルを持っています。

まぁ、それくらいすごいエンジンなのです。とうぜん1リッターあたり218psも出すなんて、この21世紀においてもそう簡単ではありません。この出力は、1000ccクラスのレースでの戦闘力を得るために開発時に設定された出力目標値だそうですが、そのために新設計されたエンジンの最高出力発生回転数は14500rpm。前モデルより1500rpm引き上げられています。

CBR1000RR-R_ENGINE01
ボア×ストロークは81mm×48.5mmという、MotoGPマシンの市販バージョンRC213V-Sと同じ寸法です。

高回転化のための方策としては、まず動弁系の変更があります。前モデルはカム山でバルブを上から直接押す直打式(バケット式)を採用していましたが、この新型CBR1000RR-Rではスイングするロッカーアームを介してバルブを駆動する方式に変更しています。これによって、なんと約75%もバルブ系慣性重量が低減されて、高回転化に貢献しているそうです。

ロッカーアームの摺動部とカムシャフトの駒部には、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングを施して、摩擦抵抗を減らしています。これらDLC処理によって、なんとバルブ駆動ロスは約35%も削減されるそうです。うーん、撫でてみたい。

CBR1000RR-Rヘッド
カムが、スイングするロッカーアームを介してバルブを押す方式です。クルマではわりと一般的な機構ですね。
CBR1000RR-Rロッカーアーム
これがCBR1000RR-Rのロッカーアームです。摺動面にはDLCコーティングが施されています。
CBR1000RR-Rカムシャフト
こちらはカムシャフト。カムにDLCコーティングをしている量産市販車は、ほかにはRC213V-Sだけだそうです。

ピストンやコンロッドも、スペックを聞くだけでヨダレが出そうです。見てください、このピストン! スカート部分がほとんどない。そしてペラッペラです。材質はRC213V-Sのものと同じ、強度と耐熱性に優れたA2618というアルミ材の鍛造で、前モデルより約5%軽量になっているそうです。

CBR1000RR-Rピストン
ピストンスカート部にオーベルコート(テフロン・モリブデン系)によるコーティングを施すなどして、耐摩耗性も確保しています。

コンロッドはナットレスとしたチタンコンロッドです。本体のチタン材と、コンロッドボルトに使われるクロームモリブデンバナジウム鋼はホンダが開発・実用化した材質で、クロームモリブデン製のコンロッドより約50%軽量になっているそうです。これは持ってみたい!

CBR1000RR-Rコンロッド
コンロッドはチタンの鍛造です。小端部ブッシュ、大端スラスト部ともに耐焼き付き性能にすぐれた素材、表面処理を施しています。

カムシャフトはチェーンで駆動するシステムですが、クランクシャフトに同軸配置したタイミングギヤがまずカムアイドルギヤを回し、そのカムアイドルギヤがチェーンを駆動するシステムになっています。完全な『カムギアトレイン』ではありませんが、ホンダではこのシステムを『セミカムギアトレイン』と呼んでいます。こうすることでカムチェーン長を短縮し、カムチェーンの耐久性を確保しつつ高回転化、高リフト化を達成したそうです。

CBR1000R-R_CAM_CHAIN
カムチェーン下側のギヤはクランクシャフトより一段高い位置にあるカムアイドルギヤです。

出力向上のために徹底的にフリクション(摩擦抵抗)の低減が図られています。たとえば、エンジン始動はクランクシャフトではなくクラッチメインシャフトを駆動する方式に変更されました。これはワンウェイクラッチを、より低回転なクラッチメインシャフトに移設することで、ワンウェイクラッチによるフリクションを低減するためです。

CBR1000RR-R_ENGINE02
ワンウェイクラッチをクラッチメインシャフトに移設すると、クランクシャフトの短縮なども可能になり、配置がコンパクトになって、深いバンク角が確保できるメリットもあるそうです。

高出力を得るために欠かせないのが、走行風を利用して、より多くの空気をエンジンに送り込む『ラムエアダクト』の機構です。この新型CBR1000RR-Rでは、走行時にカウンリングへの表面圧力がもっとも高まるアッパーカウル先端に開口部が設けられていて、その開口面積はなんとMotoGPマシンであるRC213Vと同等だそうです。

取り込まれた空気はヘッドパイプの脇をとおってほぼストレートにエアクリーナーに導かれます。スマートキーの採用によってコンビスイッチが廃止されていることもあり、ダクトの断面積を確保しやすくなっているそうです。

CBR1000RR-Rラムエアダクト
開口部の左右と上辺にリブ状の『タービュレーター』を設けて、トンネル入口での空気張りつきによって、軽快さが損なわれてハンドリングに悪影響が出ることを防いでいるそうです。なんかものすごい速度域のコーナリングの話のような気がします。

ほかにもさまざまなフリクション低減、高回転化の工夫が盛り込まれ、新型CBR1000RR-Rのエンジンは1リッターの自然吸気エンジンながら160kW(約218ps)という高出力を実現しているのです。

CBR1000RR-R出力特性比較図
この図を見ると、従来モデルのほうが中間域までのトルクは出ているようです。新型ファイアーブレードのエンジンは高回転高出力型だということがわかります。

とまぁ、ものすごいエンジンなわけですが、始動してアイドリングをしているだけならば、非常に紳士的な排気音です。それはマフラーのバルブ機構のおかげもあるようです。今回、バルブ全閉時の排気漏れを抑えるために、バタフライバルブにバルブストッパーが追加されましたが、これによりバルブ全閉時の排気音量は低減しつつ、前モデルに比べて38%もマフラー容量を削減できているそうです。

CBR1000RR-R排気バルブ
低回転時のトルク特性と高回転時の出力を両立させるために、排気バルブが備えられています。
CBR1000RR-Rマフラー
マフラーはレースなどでも有名なアクラポヴィッチ社と共同開発したもので、チタン製の軽量なものです。

なお、変速操作の際に、それを検知して自動的にエンジンを制御することでクラッチ操作、スロットル操作をしないままシフトチェンジができるようにするクイックシフターを、SPに標準装備しています。これもロスの少ない加速に非常に有効です。

CBR1000RR-Rクイックシフター
クイックシフターはシフトペダルの操作を検知して、エンジン制御を行います。

このように、新型CBR1000RR-Rのエンジンは、猛烈な執念で高回転・高出力化を実現しているのです。なかなか乗りこなせないのはわかっていますが、ぜひ味わってみたい車両ですね。

CBR1000RR-R_SP
ライディングポジションはかなりの前傾となります。

なお、前回の車体編の記事も、まだのかたはぜひお読みください。

(撮影:澤田優樹/ホンダ)

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この記事の著者

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まめ蔵

東京都下の農村(現在は住宅地に変わった)で生まれ育ったフリーライター。昭和40年代中盤生まれで『機動戦士ガンダム』、『キャプテン翼』ブームのまっただ中にいた世代にあたる。趣味はランニング、水泳、サッカー観戦、バイク。
好きな酒はビール(夏場)、日本酒(秋~春)、ワイン(洋食時)など。苦手な食べ物はほとんどなく、ゲテモノ以外はなんでもいける。所有する乗り物は普通乗用車、大型自動二輪車、原付二種バイク、シティサイクル、一輪車。得意ジャンルは、D1(ドリフト)、チューニングパーツ、極端な機械、サッカー、海外の動画、北多摩の文化など。
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