●猛烈な執念で高回転・高出力化を実現
これは贅沢すぎる! 前回の記事でも書きましたが、モデルチェンジを受けて登場した新型CBR1000RR-Rファイアーブレードの新開発されたエンジンはクラス最強レベルの160kW。馬力に換算すると約218psです!
これがどれくらいすごいかというと、クルマでいえば700psとか800psくらいの超ハイパワー車が、ふつうのオッサンでも買えてしまう値段で売られるということです(ここでは奥さんの意向は考慮していません)。まぁ、特に根拠もない雑な例えですが……。
まぁ、それくらいすごいエンジンなのです。とうぜん1リッターあたり218psも出すなんて、この21世紀においてもそう簡単ではありません。この出力は、1000ccクラスのレースでの戦闘力を得るために開発時に設定された出力目標値だそうですが、そのために新設計されたエンジンの最高出力発生回転数は14500rpm。前モデルより1500rpm引き上げられています。
高回転化のための方策としては、まず動弁系の変更があります。前モデルはカム山でバルブを上から直接押す直打式(バケット式)を採用していましたが、この新型CBR1000RR-Rではスイングするロッカーアームを介してバルブを駆動する方式に変更しています。これによって、なんと約75%もバルブ系慣性重量が低減されて、高回転化に貢献しているそうです。
ロッカーアームの摺動部とカムシャフトの駒部には、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングを施して、摩擦抵抗を減らしています。これらDLC処理によって、なんとバルブ駆動ロスは約35%も削減されるそうです。うーん、撫でてみたい。
ピストンやコンロッドも、スペックを聞くだけでヨダレが出そうです。見てください、このピストン! スカート部分がほとんどない。そしてペラッペラです。材質はRC213V-Sのものと同じ、強度と耐熱性に優れたA2618というアルミ材の鍛造で、前モデルより約5%軽量になっているそうです。
コンロッドはナットレスとしたチタンコンロッドです。本体のチタン材と、コンロッドボルトに使われるクロームモリブデンバナジウム鋼はホンダが開発・実用化した材質で、クロームモリブデン製のコンロッドより約50%軽量になっているそうです。これは持ってみたい!
カムシャフトはチェーンで駆動するシステムですが、クランクシャフトに同軸配置したタイミングギヤがまずカムアイドルギヤを回し、そのカムアイドルギヤがチェーンを駆動するシステムになっています。完全な『カムギアトレイン』ではありませんが、ホンダではこのシステムを『セミカムギアトレイン』と呼んでいます。こうすることでカムチェーン長を短縮し、カムチェーンの耐久性を確保しつつ高回転化、高リフト化を達成したそうです。
出力向上のために徹底的にフリクション(摩擦抵抗)の低減が図られています。たとえば、エンジン始動はクランクシャフトではなくクラッチメインシャフトを駆動する方式に変更されました。これはワンウェイクラッチを、より低回転なクラッチメインシャフトに移設することで、ワンウェイクラッチによるフリクションを低減するためです。
高出力を得るために欠かせないのが、走行風を利用して、より多くの空気をエンジンに送り込む『ラムエアダクト』の機構です。この新型CBR1000RR-Rでは、走行時にカウンリングへの表面圧力がもっとも高まるアッパーカウル先端に開口部が設けられていて、その開口面積はなんとMotoGPマシンであるRC213Vと同等だそうです。
取り込まれた空気はヘッドパイプの脇をとおってほぼストレートにエアクリーナーに導かれます。スマートキーの採用によってコンビスイッチが廃止されていることもあり、ダクトの断面積を確保しやすくなっているそうです。
ほかにもさまざまなフリクション低減、高回転化の工夫が盛り込まれ、新型CBR1000RR-Rのエンジンは1リッターの自然吸気エンジンながら160kW(約218ps)という高出力を実現しているのです。
とまぁ、ものすごいエンジンなわけですが、始動してアイドリングをしているだけならば、非常に紳士的な排気音です。それはマフラーのバルブ機構のおかげもあるようです。今回、バルブ全閉時の排気漏れを抑えるために、バタフライバルブにバルブストッパーが追加されましたが、これによりバルブ全閉時の排気音量は低減しつつ、前モデルに比べて38%もマフラー容量を削減できているそうです。
なお、変速操作の際に、それを検知して自動的にエンジンを制御することでクラッチ操作、スロットル操作をしないままシフトチェンジができるようにするクイックシフターを、SPに標準装備しています。これもロスの少ない加速に非常に有効です。
このように、新型CBR1000RR-Rのエンジンは、猛烈な執念で高回転・高出力化を実現しているのです。なかなか乗りこなせないのはわかっていますが、ぜひ味わってみたい車両ですね。
なお、前回の車体編の記事も、まだのかたはぜひお読みください。
(撮影:澤田優樹/ホンダ)
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