【自動車用語辞典:燃料「軽油の特性」】蒸発しにくいが着火点が低くディーゼルエンジンに適する

■セタン価・流動点・粘度・硫黄含有量が重要な性状

●極寒地では流動点に注意

日本では、ディーゼル乗用車のシェアは低いですが、欧州では現在も約半分のシェアがあります。課題であった黒煙などの排出ガス特性と騒音が、エンジンの技術進化と軽油性状の改良によって、解消されています。

軽油の性状がエンジンにどのような影響を与えるのか、その重要性について、解説していきます。

●軽油の基本特性

ガソリンや軽油、灯油、重油などの燃料は、いろいろな成分が混合している原油を加熱して、蒸留温度を調整することによって抽出します。

軽油は沸点が200~350℃程度の成分です。常温では蒸発しにくいですが、点火源がなくても自ら発火する着火点は約250℃と低く、圧縮着火のディーゼルエンジンに適しています。

軽油の性状は、排出ガス特性やディーゼルノックなどの燃焼特性に大きな影響を与えます。

特に重要な性状は、着火しやすさを表すセタン価、低温時に燃料が凝固する直前の流動点、噴射システムの潤滑に関わる粘度、触媒劣化に悪影響を与える硫黄含有量です。

軽油中の硫黄濃度推移
軽油中の硫黄濃度推移

●セタン価の重要性

圧縮着火のディーゼルエンジンでは、燃焼室内に噴射した燃料はできるだけ早く着火して燃焼することが望ましいです。着火性を表す指標が、セタン価です。

着火性は、燃料が噴射されてから着火するまでの時間(着火遅れ)が長いか短いかで評価され、短いほどセタン価は高くなります。着火遅れが長いと、噴射された燃料が蓄積し、着火した時に一気に燃焼します。急激にシリンダー内の圧力が上昇するため、ディーゼルノックが発生します。

また、着火性が悪いと低温始動性も悪化します。

JIS規格では、セタン価は45~50以上となっており、市場では53~55程度の軽油が販売されています。

●セタン価の求め方

セタン価は、ノルマルセタン(セタン価100)とプタメチルノナン(セタン価15)の2つの燃料を混合した燃料の着火遅れを基準にして決めます。

ある燃料の着火性が、ノルマルセタン50%とプタメチルノナン50%の混合燃料と同等であったなら、その燃料のセタン価は以下の算出式から57.5となります。

 セタン価 = ノルマルセタン容量(50) + プタメチルノナン容量(50)x0.15

●低温特性・流動点の影響は

低温時には、軽油中のパラフィン分が析出してシャーベット状になり、フィルタや配管の閉塞の問題が発生します。燃料が、流動性を失い凝固する直前の温度を流動点と呼びます。

JIS規格の軽油は、流動点の違いにより5種類に分類されています。特1号軽油は流動点が5℃以下、1号軽油-2.5℃以下、2号軽油-7.5℃以下、3号軽油-20℃以下、特3号軽油-30℃以下の5種類で、仕向け地や季節によって使い分けるようになっています。

●動粘度・潤滑性の影響は

動粘度は、燃料噴霧の粒径の大ききを左右するので燃焼特性に影響します。また、動粘度が過度に低いと、燃料ポンプなどの摩耗を促進します。

軽油は、燃料ポンプなど噴射システムの潤滑も兼ねています。一方低硫黄軽油では、硫黄を除去する脱硫工程で潤滑成分が除去されます。そのため、日本で流通している低硫黄軽油には潤滑向上剤が配合されています。

●硫黄含有量の悪影響は

ディーゼルエンジンもガソリン同様、排出ガスの低減は触媒の浄化性能に大きく依存しています。
搭載している触媒の数や容量が多いので、ガソリンエンジンに比べて軽油中の硫黄濃度の影響が大きいです。

触媒の被毒を抑えるために、排ガス規制の強化とともに硫黄分は段階的に低減されています。2007年に10ppmまで下がり、サルファーフリー・軽油となっています。


軽油では、燃焼と排出ガス特性を支配するセタン価が重要ですが、もう一つ重要なのは流動点です。軽油は、低温で流動点に到達するとシャーベット状になり、フィルタや配管内の燃料が流動性を失います。当然始動できないので、適切な流動点の軽油を選択しなければいけません。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
続きを見る
閉じる