好評だったコンセプトカーに力強さとアクティブさをプラス。新型ロッキーのデザインの秘訣とは?

●機能をしっかり表現した、より身近なクルマとしてのデザイン

1990年に本格クロカンとして発売された初代ロッキー。懐かしい名前で復活した2代目のデザインの特徴はとこにあるのか? 担当デザイナーの青木氏に話をおうかがいしました。

ロッキー・メイン
好評だったコンセプトカー「DN TREC」をベースに力強さを加えたボディ

── 新型ロッキーの商品コンセプトは「アクティブ・ユースフル・コンパクト」ですが、造形のキーワードはどのように考えたのでしょうか?

「造形のヒントとなるキーワードは、「クリア」「洗練」「アクティブ」「力強さ」「独創性」の5つです。コンパクトではあるけれど堂々としたボディで力強く、しかも新しさを持ったデザインですね。ターゲットは比較的若年層の男女をイメージしています」

── 前回、2017年の東京モーターショーに出品された「DN TREC」がベースだと聞いていますが、イメージを大きく変えたのはなぜですか?

「DN TRECはかなり高い評価をもらっていましたので、当初はその方向でスケッチ作業を進めていました。ただ、SUVであることを考えると少し表情が優し過ぎるのではとの結論に至りました。また、このクルマはトヨタの小型SUVとして同社のラインナップを下支えもしますので、当然トヨタ車としての性格も取り込む必要がありました」

ロッキー・コンセプト
前回東京モーターショー出品の「DN TREC」。シンプルなスタイルは高評価だった

── 全体のシルエットですが、力強さを表現しつつも、ルーフは緩やかに後ろ下がりになっています。その意図は?

「ダイハツは、コンパクトに見えながらも実際には広く使いやすいクルマを目指していますので、たとえばルーフがそのまま水平に伸びてどんどん四角い印象が強まるのは違うだろうと考えました。実は、ルーフが下がるというよりボディ側をウエッジさせているのですが、一見そうは見えないよう微妙なラインを描いています」

── プレスリリースでは「安心を感じさせる厚みのあるボディと、薄く軽快なキャビンが特徴」とあります。であれば、それをもっと強調して独自のスタイルを目指す方向もあったのでは?

「そういう際立ったデザインも是非やってみたいですが、DNGAを使った商品としてちゃんと「使えるクルマ」としたかったのです。広いけれどスタイリッシュさも感じる商品として、より幅広い層への普及が目標です。なので、今回はスペシャリティカー方向は考えませんでした」

ロッキー・フロント
シャープな造形はトヨタ車としての「顔」も兼ねている

── 力強さを目指したとはいえ、「DN TREC」がベースだと考えると、ランプやグリル、左右のエアインテークなどはあまりにシャープ過ぎませんか?

「SUVらしさを素直に表現するため、フードやフェンダーからの流れを集約させたのがこのランプや6角形のグリルなんです。一方、先述のようにこのクルマはトヨタブランドも兼ねますので、そのデザインフィロソフィを投影させる必要もありました。また、エアインテークの表現は「DN TREC」にもありましたが、存在感を強めるためにそれもまた発展させたということですね」

── そのフロントやリアの派手さに比べ、ボディサイドは「DN TREC」のシンプルさが残っているので、ちょっとアンバランスな気がしますが?

「そうでしょうか? たとえばトヨタさんのC-HRのように全身凝った造形もひとつの方法ですが、このクルマはもともと「ジェリービーンズ」のようなシンプルな表現を想定していました。もちろん見る人によっては顔が強過ぎるという声もありますが、私たちとしては残すべきモノは残したと考えています」

── リアピラーに向けてサイドウインドウ側からも、リアウインドウ側からもラインを少し持ち上げていますが、その意図は?

「DN TRECでは、サイドウインドウ後端は上下ともカットしていて6角形を表現していたのですが、SUVとしては動きが少なく弱かったのです。ここは、ルーフの流れや重さをしっかり支えるようリアピラーに踏ん張り感を与えたかったです。とくに、今回ピラーはかなり寝かせましたので、そのままスルっと流れないよう受け止め役になっています」

ロッキー・リア
フロントに準じ、エアダクトを挟んでコの字を描くリアパネル

── リアパネルでは、これも「DN TREC」になかった表現として、ランプの下に大きな段差を設けましたね

「ここはフロントと同じ表現なのですが、左右のエア・アウトレットとともに下向きのコの字を作っているんです。つまり、ボディを大きな筒とすると、その前後に四角い塊が組み合わさっているイメージですね」

── では最後に。プレスリリースには「デザイン要素をシンプルに明快に」とありますが、ダイハツ車はどのクルマもそういった方向を目指しているのですか?

「トヨタやマツダさんは強いデザインフィロソフィを掲げていますが、ご存知のようにダイハツにはそういったものがありません。あくまでも個々の商品の中で検討されますが、基本的には機能をしっかり表現したデザインとしたいです。もちろん、ある種のデコレーションも魅力的ですが、より身近なクルマとしての造形がダイハツらしさだと考えています」

── ここ数年のダイハツ車は自分らしさや身近さをテーマにしたデザインが多いですね。本日はありがとうございました。

[語る人]
ダイハツ工業株式会社
デザイン部 第2デザイン室
主担当員 青木 健児 氏

ロッキー・デザイナー

(インタビュー・すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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