ついに清水和夫が「ダイハツ不正問題」の真相について熱くぶった切った!

■清水和夫が思う、ダイハツ不正問題の真相とは?

●軽自動車のオフセット衝突試験を一番に賛成したのはダイハツだった

清水和夫がダイハツ不正問題について熱く語った
清水和夫がダイハツ不正問題について熱く語った

今回は、国際モータージャーナリスト・清水和夫さんが2023年末、あの「ダイハツ問題」について語った、YouTubeチャンネル『StartYourEnginesX』の頑固一徹学校の回をプレビューします。

もっと早くにご紹介したかったのですが、年明け→東京オートサロン2024明けになってしまい…スミマセン(汗)。

自動車業界のあれやこれやに長けた清水さんの考え、想いを熱く語っていますので、ぜひご一聴ください。

●なぜダイハツは不正を冒したのか?

ジャパンモビリティショー2023に出展されたビジョン・コペンは清水和夫もお気に入りだった
ジャパンモビリティショー2023に出展されたビジョン・コペンは清水和夫もお気に入りだった

今日は多くの人が気にかけている「ダイハツの不正問題」、これを私なりに、今まで公表されてきたファクト(事実)を整理しながら、なぜその不正が起きたのか…ということを、私の推論として皆さんにお伝えします(※2023年12月末公開)。

ジャパンモビリティショー2023に出展されたビジョン・コペンのコクピット
ジャパンモビリティショー2023に出展されたビジョン・コペンのコクピット

この不正問題。なんか“不正”っていうとちょっと嫌なんだけど、まぁ実際やったことはルール違反も多く、虚偽の記載もあったようなので、この辺の話からしてみたいと思います。

●大阪発動機=ダイハツの歴史を知る

まず、ダイハツという自動車メーカーはどういう自動車メーカーか? 実は日本最古の自動車メーカー。大阪大学と一緒にベンチャーで起こした“大阪発動機”=“ダイハツ”っていうのが社名の由来。

ちなみに、同じ時期に大阪をイノベーションの地とする、もう1つの“大阪金属”っていうのが“ダイキン”。

1931年 HD型三輪自動車(ジャパンモビリティショー2023)
1931年 HD型三輪自動車(ジャパンモビリティショー2023)

ダイハツとダイキンっていうのは元々、大阪を本拠地として100年ぐらい前に切り開かれたアントレプレナー精神(自分でゼロから事業を起こそうとする精神)に飛んだベンチャー企業だったんです。

戦後、日本の国民車構想の中で軽自動車を作ってきたので、ダイハツは安くて小さくて人々のためになる安価な車の軽自動車を専門とする自動車メーカーだった。

90年代頃からトヨタグループに入り、株は上場していたので、トヨタが筆頭株主になったので完全にトヨタグループっていう風に言っていいんですけど。

●軽自動車のJNCAP試験方法とは

私がダイハツを意識するようになったのは、1998年頃の軽自動車枠の拡大。この時に今までの軽自動車の衝突安全は、小型乗用車は“50km/hでぶつければいい“というルールに対して、軽自動車はちっちゃいから”40km/hでいいよね“ってことで少しルールが甘かった。

1957年 ミゼットMP5型(ジャパンモビリティショー2023)
1957年 ミゼットMP5型(ジャパンモビリティショー2023)

軽自動車っていうのはそもそも、政府が形式認定を与える登録車とは違って、軽自動車協会が代行して検査をする。届出が必要な軽自動車ということなので、日本の国民車として優遇措置が施されてきた。

ただその反面、エンジンの排気量や全長/全幅も決まっていたので、小型車の安全基準=90年代の中頃からヨーロッパと日本は衝突安全法を法律で定めた。アメリカから遅れること約10数年。その時に、小型車でも厳しいテストは、軽自動車ではあまりにも厳しいってことで、少し低いスピードでいいよっていう緩和措置が取られていた。

ただ、そうは言っていられなくなり、軽自動車は“安かろう悪かろう危ない車”っていう風に言われないようにするために、小型登録車と同じ基準で試験するってことが、1998年頃に法律が改定された。その時に、昔の軽のサイズだとあまりにも側面衝突含めて厳しいので、全長/全幅を少し広げていいよっていうことになった。それが、軽自動車枠拡大の新しいレギュレーションになった。

そこから日本の法律のフルラップ50km/hという法律で定めるようになった。その上にNCAP(New Car Assessment Program)というさらに厳しいスピードで衝突させて安全情報を公開するJNCAP(J=Japan)っていう仕組みがある。でも、やっぱりオフセットが大事だろうってことになった。

●何km/hでどこにぶつければ、安全な車の評価となるのか?

トヨタ・グループだったダイハツは、トヨタの「衝突安全性能評価GOAボディ=Global Outstanding Assessment/グローバル アウトスタンディング アセスメント」、これはフルラップとオフセット、両方のテストをやりなさいっていうのが、トヨタの主張だった。

1977年 シャレード(ジャパンモビリティショー2023)
1977年 シャレード(ジャパンモビリティショー2023)

ただ、当時の世界のレギュレーションは、アメリカはフルラップ、直角に当てるだけの試験で、ヨーロッパは法規が40%オフセット。リアルワールドの事故を見ると、真正面から当たるケースよりも、正面衝突Car to Carで40%くらいずれるリアルワールドの事故形態があるということで、ヨーロッパの法規はオフセット衝突。

これは“国語と算数”みたいに違う物理量を求められる。なぜかって言うと、フルラップは真正面からバリアに行くので、衝突のGがバーン!て一気に立ち上がる。ですから、エアバッグとかシートベルトの高速装置を評価するには、フルラップの試験が必要。

しかし、実際にはどっちかっていうと、車はGの出方が問題になるので、潰れてもGさえ出ればいいよねっていうことで、キャビンの生存空間の評価っていうのはしていなかった。が、オフセットだとGはそんなに激しく出ないんですが、多少時間がかかって、キャビンまでズブズブズブッて変形するような事故形態なので、特に生存空間が維持できないということで、ボディの骨格作りが全然、オフセットだと違ってくるんです。

ですから、キャビンの乗員の生存空間を確保するっていうテストはオフセットが相応しいし、エアバックとかシートベルトの高速装置を評価するにはフルラップが必要。

だから、アメリカとヨーロッパの法規を両方手にすることが、安全技術で重要なことなので、トヨタはそこを主張してGOAボディということを言い出した。

軽自動車となると、ボディは拡大はされましたけど、やっぱり全長/全幅は小型車よりも多少小さいですから、特にオフセット衝突には弱い。キャビンの変形が大きいという風に言われていたので、軽自動車こそオフセット衝突が大事だなっていうのはずっと思っていた。

●メルセデス・ベンツの安全理論。小さい車こそオフセットをやらないと

当時、メルセデス・ベンツがAクラスとかスマートを作った時に、オフセットをやらないと小さい車は乗員の命を守れない、っていうことをメルセデス・ベンツは言い出した。

1980年 ミラ(ジャパンモビリティショー2023)
1980年 ミラ(ジャパンモビリティショー2023)

昔、“ベンツは安全”だっていうのは、相手方がフォード・フィエスタとかフォルクスワーゲン・ゴルフとかの小さい車を潰して大きいベンツの乗員が助かっていた、っていうことに気付き始めたので、メルセデス・ベンツが自ら小さい車を作り始めた90年代中頃からは、Aクラスやスマートのことを考え、“小さい車はより頑丈で硬いボディ”ということで、Aクラスやスマートが作られた。

同時にEクラスのような大きい車は、ちょっと柔らかく作ろうっていうことで、直列6気筒のエンジンは突き刺さりますから止めて、V6にして面で受けるようにしたいとか…。そんな工夫をEクラスでやっていました。

小さい車と大きい車がリアルワールドでぶつかった時に、双方とも乗員を助けたいっていうような思想が、コンパティビリティ(Compatibility/相手のある衝突において、他と共存できる能力)という考え方だったので、いずれにしてもそれを試験評価するには、フルラップとオフセットの両方が大事だと。

当時、メルセデス・ベンツのインゴ・カリーナさんっていう衝突のエキスパート(大変世話になって本も書かさせていただいた)がメルセデス・ベンツを去る時に、「日本は軽自動車があるから絶対にオフセット衝突はやらなきゃだめだぞ! ルールで制定できなかったらNCAPの情報公開でオフセット衝突をやらなけばいけない」ということを言われていて、その思いはトヨタと同じだったので、私は意を決して、当時の国交省の役人相手に、法規はフルラップ、これはいいでしょうと。JNCAPは絶対にオフセット衝突を入れなきゃだめだ!っていうことを私は主張し続けてきたんです。

●ダイハツが1番に「オフセット衝突賛成」を表明してくれた

ただ当時、軽自動車メーカーみんな反対した。「そんな難しいことできませんよ!」と。

1999年 ハイゼット電気自動車(ジャパンモビリティショー2023)
1999年 ハイゼット電気自動車(ジャパンモビリティショー2023)

その時に唯一ダイハツが、当時、トヨタから衝突車体設計だった瀬尾さんという方がダイハツに行って、GOAボディの意を受けてダイハツでもオフセットやるぞ!っていうことで、『タフボディ』というのを出した。ダイハツが軽でもオフセットできるっていうことを言ってくれたので、その後ホンダやスバル、三菱、スズキを口説くことができた。

すぐにオフセットを賛成してくれたのは、ダイハツに続いてスバル。スバルも軽自動車をやっていたけど、レガシィもあり、大きい車と小さい車、両方作ってるメーカーだったし、ホンダも大きい車、レジェンドとかアコード、軽も作ってるので、軽自動車メーカーも“オフセットが大事”だっていう流れを作ってくれたんです。

その発端は、やはりダイハツだったなと思う。当時のダイハツのエンジニアは、この衝突安全にかけてはものすごく熱く語る人たちがたくさんいたんです。ちょうどそれが2002年ぐらいまでの話だったと思います。

しかし、日本の軽自動車が軽自動車枠拡大と共に、一気にエアバッグが普及して、ベルトテンショナーでベルトフォースリミッターも普及して、保安基準では50km/hのフルラップ、JNCAPの安全情報公開では64km/hのオフセット衝突、これをクリアして、見事に4つ星、5つ星を取るようになってきたので、そのことがなかったら、今の軽の200万台以上販売できている軽の人気っていうのはなかったと思うんです。

ですから、まさに当時のダイハツは、あの光輝ける安全技術にたけた軽メーカーだったっていうのがあります。

●誰でも手に入れられる『第三者委員会による調査報告書公表のお知らせ』を細かく見てみると…!

しかし、今回の不正を行った時の第3者委員会の、162ページに及ぶ『第三者委員会による調査報告書公表のお知らせ』のPDFファイル、これはダウンロードできますから、皆さんも手に入れることができます。

大体174件の不正があったと言われてるんです(※2023年12月末現在)。そのうちの140件ぐらいは、虚偽記載とか。なんか“どうでもいいようなことまで不正”にしちゃったケースもあるみたい。

2002年 コペン(ジャパンモビリティショー2023)
2002年 コペン(ジャパンモビリティショー2023)

由々しき問題としては、エアバックのセンサーを後付けで偽造したような問題もあるので、そのような“ものすごく悪い”ことと、ほとんど“どうでもいい”ような虚偽記載まであって、それが全部で174件って聞いて驚いた。

その報道の内容を見る限り、なんか不正が30何年前から続いていたって言われていますけど、ただそれは、第3者委員会の162ページの調査報告書を読めば分かりますけども、虚偽記載とか不正に類似するようなものは、1989年にあった件と2010年ぐらいまでの間にたった5件しかない。

だから、10年以上にわたってゼロではないけどほとんど不正はなかった。しかし、たまたま最初が1989年の件が1件あったために、報道では“30何年間も不正が続いていた”って書かれてますけど、それはちょっと違う話。

本格的に問題にしなければいけないのは、2014年以降の、ここ8年くらいの間に起きた不正の方が重大だろうっていうこと。そこを重点的に調査委員会で報告しています。

ですから、メディアの報道の仕方も、30何年間ずっと不正が続いていた、みたいなことが書れていますけど、それはそういうことではないってことを、まず理解しなくちゃいけない。

こういう話をすると『清水さんはダイハツを忖度してんじゃないか』とか『トヨタを忖度してんじゃないか』って言われやすいんですけど、それはそうじゃなくて、何が起きたかってことのファクトは動かせないものなので、ファクトはきちっと整理しましょう。

ただその背景に、なぜそういうことが起きたのかっていうことは、調査委員会ではいろいろレポートが書かれていますけど、私なりの解釈もそこに入れながら、今日残りの時間をお喋りしていきたいと思います。

●レギュレーションの意味を勘違いした案件もあり?

この不正問題が起きたのは2023年4月。大阪のダイハツが設計してタイの工場で作る車。それは中南米とか新興国に販売するトヨタの車、それを開発をダイハツが委託され、製造をタイの工場で作ったもの。そうすると、タイで作ったので認証試験はタイ政府による試験なんですけど、ただその試験の立ち合いは、滋賀県竜王にあるラボでテストして、タイ政府の人が来て、それを見ながら認可する。

そこで、内部告発があったという風に言われています。

meMO(ジャパンモビリティショー2023)
meMO(ジャパンモビリティショー2023)

どんな内部告発なのかって言うと、当時の側面衝突のレギュレーションの中に、このドアトリムのところからバンって出た時に、ここにダミー人形もしくは乗員が座ってますから、“鋭利なものが飛び出てはいけない”的なことが書いてある。でも、正確にレギュレーションを見ると、鋭利なものっていうのは刃渡り何cmで、どのくらいとんがってるもので、どのくらいの硬さなもので…とは書いていない。なので、“鋭利なものがあるかどうかということを記録して報告しなさい”というのがレギュレーションなんです。

しかし、それを読んだダイハツの現場の人は、“鋭利なものがあってはいけない”という風に解釈して、これはルールをよく読んでいなかったという証拠だと思いますけど、勉強不足といえば勉強不足。あるいは、“トヨタの車だから、そんなものがあってはいけない”と勝手に 思ってしまったのか。その辺は現場の担当者に聞いてみないと分からないところなんだけど。

だから、報告義務があればいいんであって、何も細工する必要はなかった。余計なことをやって、それが内部告発で不正に繋がったわけ。

その後、すぐに政府立合のもと再試験。実際に市販されてる車を抜き打ちで持ってきて、試験したら“問題ない”ということなので、これはリコールの対象にはならず。不正した虚偽記載ということだけが、ペナルティとしては残る。実際の車は問題なかったっていうこと。これが2023年4月に起きた。

●ロッキー/ライズのデータのコピペ、これはイカン!!

これが内部告発だったので、それを期にダイハツは社内を大掃除して、同じような不正がないか?っていうことを調べた。

2019年に試乗したダイハツ・ロッキー
2019年に試乗したダイハツ・ロッキー

うしたら今度は、日本で売る「ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズ」というBセグのシリーズハイブリッド、私たちの身近な車なんですけど、これの側面衝突のポール試験で不正があった。

2019年に試乗したダイハツ・ロッキー
2019年に試乗したダイハツ・ロッキー

これは、“ポールに対し、台車に乗せた車をポールにボーンと当てる”という、側突の死亡率が高いテスト。その試験を行った時に、元々、左と右の両方をやるんですけど、2回も試験やる必要ないですから、右は開発における社内で行ったテストデータでいいですと。で、左のみテストをやる、という風になった…データは両方必要なんだけど。

ところが、“ハイブリッド車における右のテストをしなくて、エンジン車の右のデータをコピペした”っていうのが、このロッキー/ライズの問題だった。

いずれにしても、ハイブリッド車の右の社内テストを省いてしまったっていうことが不正の1つの原因なので、それは多分、開発の工程がもうギリギリの日程だったのか、そんなようなことは考えられます。

●開発から製造、販売まで、ギリギリの時間しかない…

とにかく、最近の日本の自動車メーカーは絶対的に、いつ量産開始して販売するっていう、ここは販売ですから投資回収のファイナンスの話も出てくるので、絶対に守らなければいけないと。ここから企画してスタートして車作っていく。

ジャパンモビリティショー2023、新しい暮らしに寄り添うカタチ「OSANPO」
ジャパンモビリティショー2023、新しい暮らしに寄り添うカタチ「OSANPO」

昔はね、まる2年とか3年とかかけたものを、最近はなんか十数ヵ月でやるとか1年で作るとか。そんなことを自慢するような状態になってきているので、非常に開発工程の数(日数)が少ない、短くなってきてるっていうのは事実、

その一方で、衝突基準だけどんどんいろんなものが増えていますから、本当は工程を、時間をもうちょっとかけなければいけないのに、そこはかけられない。だけど試験法、試験の数は増えていくってのが今の現状。

このポール衝突なんかは側突じゃなくて、もう一方のポール衝突なので、ダイハツは工程が足りない、工数が日程が足りないっていうことで省いてしまったのかな、と思うんです。

そういうような困り事があったら当然、上の幹部に相談すればいいんだけど、第3者委員会のレポートを読むと、なかなか相談しにくい社風だったっていうことと、もう1つは仮に相談しても、“それで?”とか。“でもやるんだ、お前ら!”とか、なんかちょっとパワハラチックな話も調査で明らかになっている。

ですから、“できないことはできない!”って言う勇気がなかったっていうことがいけないし、そこはトヨタがプレッシャーかけたっていう風によく言われてます。

でも私はそこは、第3者試委員会とか多くのメディアが言ってることとは、ちょっと違った意見を持っています。

●昔はトヨタから出向してきた熱い上司もいたんだよ

2016年、2017年ぐらいにダイハツの会長だった白水宏典(しらみず こうすけ)さんと、いろんな議論をよくさせていただいたんですけど、白水さんほどトヨタのやり方をブロックしていた人はいないですね。

ジャパンモビリティショー2023、働きやすさに寄り添うカタチ、UNIFORM TRUCK
ジャパンモビリティショー2023、働きやすさに寄り添うカタチ、UNIFORM TRUCK

例えば、インドにトヨタが出ていく時、ダイハツに“やってくれ”と言った。が、ダイハツはそんな力も人もいないし、マレーシアとかアセアンを守るだけで手一杯なので、”トヨタのお役には立てません!”って断った。トヨタは自分たちでEtios(エティオス)という車を持ってインドに乗り込んで、見事に失敗する。

何が失敗したかって言うと、トヨタのやり方は、上級車はいいですけど、軽自動車とか安い車を作るやり方になっていない。

白水さんは、大分県に自分のこだわっている工場を作り、私も見に来てくれって言われて行ったこともあります。そこでは例えば、トヨタのやり方は、ドア1枚運ぶのにロボットの台車を使ったりするんですけど、軽のドアなんか、クラウンと違って手で持てるんだから、そんな台車はいらないとか。ことごとくトヨタナイズを断って、むしろスズキのやり方を学んでいたっていうのが、白水さんのやり方。

ダイハツがこれから生きていくには、トヨタグループであっても、トヨタのモノの考え方では車は作ってはいけない、絶対に利益は出ない。ということで、むしろスズキの鈴木修さんによく相談しながら、“ダイハツをもっとスズキのような軽メーカー、自立できる自動車メーカーにしたい”っていう風に考えていたのが、白水さん。

だから白水さんの製造現場では、トヨタナイズしないようにブロックしてた、っていうのはあると思います。

ただ、ダイハツの現場とか、ダイハツのプロパー(※トヨタからの出向ではない方たち)の人たち全員が、“あのトヨタグループの一員になったので、トヨタに認められたい”と。

例えば、トヨタグループで言えば、アイシンとかデンソーとかサプライヤーがありますけど、トヨタに認められたい。トヨタはそんなにプレッシャーをかけていないにも関わらず、勝手に“いやトヨタの車だから、トヨタに迷惑をかけていけない”という風に、会社の中がそういう空気になっていったんじゃないかな?っていう気はちょっとしている。

もう1つの問題は、衝突とかその車作りのハンドリングとかで言えば、現場に設計の部長さんとか上の人たちがほとんど通わなくなってきていた、ということが、もう1つの問題なのかなと思う。

松林 淳(まつばやし すなお)さんっていう、元々ダイハツのプロパーの方が1回外に出されて元に戻ってきた、今の会長さんですけど、松林さんなんかは、経営側から言えばメンドクサイくらい現場によく足を運んで、ものをちゃんと見る人。昔は相坂忠史(あいさか ただふみ)さんっていう役員もいたんですけど、その人も現場を大事にする人だった。

そういう人たちが知らない間にいなくなってしまって、効率主義になっていったっていうのは、トヨタのプレッシャーっていうか、今の近代の日本全体の自動車産業の問題かもわからないですね。

効率主義、スピード重視。現場でしっかりとものを考えて、できるできないをはっきりと判断する人がいないと、こういう問題っていうのは出てくるだろうなと思いますね。

●衝突安全というルールの基準の勉強不足

という意味で、何が問題だったかっていうと、まずは衝突安全というルールの基準の勉強不足。できないことをできないって言う現場の勇気。それを聞いてあげる幹部。そういったものがないと、やはりどんどんとしわ寄せが弱いところに歪んでいってしまって、膿が溜まって、こういう不正行為が出てしまったんじゃないかな?と思います。

ダイハツ不正対象車種一覧(2023年末時点)
ダイハツ不正対象車種一覧(2023年末時点)

ですから、誰がいいか悪いかって言うと、現場が悪いっていうよりも、やっぱり現場という弱いところに全部しわ寄せがいってしまった。それを気づかなかったダイハツ経営陣の問題だったのかな?っていう気がしますね。

経営陣は、記者会見で出てきている奥平総一郎(おくだいら そういちろう)さんがいますけど、奥平さんも20数年前のGOAボディの時は、衝突安全の部長さんでしたから、私もよくインタビューした人なので、何よりも、誰よりも衝突のことを、安全基準のことをよく知ってる人のはずなんです。

しかし、その奥平さんが社長になってからも、ダイハツのそういう社風を変えられなかったっていうのは、トヨタが統治したとすれば、プレッシャーではなくてダイハツの中の空気を変えられなかったっていうのは 1番大きな反省点なのかなと思います。

●アメリカビジネスでの厳しさを知っているホンダ

こういうことを未然に防ぐには、やっぱり組織を変えなきゃだめ、仕組みを変えなきゃだめだと思うんです。

これはホンダの例なんだけど、ホンダは衝突安全の人たちと話すと、実験で設計する部門と評価する部門、これがお互いに喧々諤々(けんけんがくがく)なんです。評価部門は設計しているものを信用していない、設計もまた同じなんです。言い合いして揉めるんですけど、そのためにいわゆる警察官みたいな、もう1つの評価部署があって、そこが最後に判定し、これは製造して良い、ダメということを、青山のホンダ技研工業に報告する。

ホンダがなぜこういうことを厳しくやっているかっていうと、実はアメリカで主たるビジネスをやっているから。でも、ダイハツはアメリカでビジネスをやってない。

アメリカは何で厳しいかっていうと、アメリカは安全基準があっても、自主申告、自己認証制度を取っているので、“自分はこの基準を通りました”って言えば虚偽でも何でもなくて、法律的に車を作って売っていい。ただ、NHTSA(ニッツァ/米国運輸省道路交通安全局)は途中で抜き打ち検査をしたり、市場で問題が出てリコールになった時に、禁固刑500年!!とか、ありえないような懲罰を与えます。入口はアメリカは緩いですけども、ひとたび問題が出たら、非常に厳しい懲罰が待ち受けている。

●フォルクスワーゲンのディーゼル問題、タカタのエアバッグ問題、ダイハツの不正問題

例えば、フォルクスワーゲンのディーゼル問題、これは、あのディーゼルゲートの問題で死んだ人は多分、いない。

今回のダイハツ問題も、多くのユーザーは安全性に不安があるっていう風に感じてる人もいますけど、一部エアバックの偽造問題があるので、それは多分リコールにして車を直せばいいんであって、今までの不正によって実被害っていうのはそんなにないはず。

フォルクスワーゲンのディーゼルディフィート(排気ガス検査の時だけ有害な排出物質を減らす装置)とよく似ていて、アメリカでは被害がないので、日本のルールだったら民事責任と刑事責任で言えば、実際の被害の分だけしか民事の損害賠償を訴えることができないのが日本のルール。アメリカは懲罰的民事責任っていうのがあるので、実際の被害がなくても大きな不正を行うと、懲罰としてフォルクスワーゲンは約2兆円払っている。

タカタのエアバッグク問題は13人とか15人、実際に亡くなった方がいましたから、これは懲罰的ではなくて、実際の損害賠償を含めた、2兆円コースの制裁金が課せられて、タカタの会社は無くなってしまいました。

今回、ダイハツはどうなのかっていうと、日本の場合は、まず刑事責任には問えないし、民事的な責任も実際に被害が出ていないからほとんど問えない。ただ、国土交通省から型式認定を与える政府認可ですから、認可取り消しとか、生産を止めなさいとか。そういう行政指導が入るので、実際に販売ができなくなるという経営的な損失がこれから発生してくるだろうと言われています(※2023年末時点)。大体5000億円くらいかな?とか、3000億円?とか。今までの三菱の問題とかを見ると、大体1000億~2000億円くらいの損失で、なんとなく時効になって、また再開し始めますから。

今回のダイハツの虚偽記載に関しては、もう一度正しく認定をし直したり、リコールがあったらそれは車を回収して直す。しばらくの間作れなかった分、ディーラーも含めてユーザーに対する賠償っていうことで、まあ1000億~2000億円ぐらいの損失が出るのかな?と思います。その辺の金額は全く定かではないので、雲の上の数字だと思っておいてください。

いずれにしても、日本ではあんまり重い罰は与えられないんじゃないかな。となると、やっぱり制度的に懲罰の制度がないと、こういう不正っていうのは直らないでしょうね。アメリカでビジネスをしている自動車メーカーは、アメリカがどれだけ怖いかっていうことをよく知っていますから、フォルクスワーゲンのディーゼルゲートが1番いい例。

そういう意味で、ダイハツはアメリカのビジネスもしていなかったので、ローカルな軽自動車メーカーだった。レギュレーションに関しては、勉強不足で甘かった。

●熱い思いを持っていたダイハツに戻って欲しい

20数年前に初めてオフセット衝突をやるといったダイハツの、その熱い安全に対する情熱が今、全くなくなってしまった。いろんなことが複合的に関係して、企業が業績的に成長する中で忘れてしまった、あのオーセンティックなモノ、世界っていうものを、もう一度思い出さないといけないのではないかなと思います。

それが、一連のダイハツの清水和夫の見解。

トヨタのプレッシャーって、それはありそうで、本当にあるのかな?と思うんですけど。というのは、トヨタグループのサプライヤーに聞くと、トヨタは、例えば原価低減で出た利益は、ちゃんとサプライヤーに還元したりするそうなんです。そういう意味で、トヨタはむしろプレッシャーというよりも、“グループ全体で頑張っていこうね!“っていう考え方があるので、そんな鬼のような会社じゃないと思います。

ただ、ダイハツからしてみれば、トヨタに認められたい、という思いがあまりも強かったんじゃないかなと思う。

ダイハツの何が問題だったのか?
ダイハツの何が問題だったのか?

ただダイハツの皆さんが考えなきゃいけないのは、トヨタに認められることではなくて、ユーザーに信頼されるべき自動車メーカーになることが、本来のダイハツの皆さんが考えなければいけないことだと思うんです。

そうであれば、政府が許認可を持っている日本の制度では、政府の基準というのはもう絶対に守る。それはもう契約書と一緒ですから、守ることで製造して販売していいっていう権限をもらうので、そこに虚偽とか不正があったらそれは論外。これから気をつけなければいけないと思います。

全体で174個の不正を見ると、なんか大したことない問題までカンニングして先生に見つかっちゃった!みたいなものもあるし、大ごとでいえばエアバックの問題なんかは大きいなと思うんですけどね。この辺がダイハツ問題の真相ではないかなと思います。

●ダイハツは全部の膿を出し切ること

今回、3人の第3委員会の専門家がいますけど、1人だけ元国交省の車両安全対策委員会かな、車両技術部の部長さんが入ってますので、かなり専門的な領域まで見ていますから、今までのような弁護士先生たちダケの第3者委員会と違って、かなり技術的なところもしっかりと162ページの調査レポートがありますので、これはダウンロードして見ていただきたい。

トヨタの中嶋裕樹(なかじま ひろき)副社長以下、5月の段階から相当ダイハツの中に入り込んで、不正というか、それを炙り出しているので、ここで本当にダイハツは生まれ変わる決意をして欲しいなと思います。

それは経営者じゃなくて、社員1人ひとりがそういう気持ちを持つようになってもらいたい。栄光と挫折、この2つをダイハツはこの20数年の間に味わってきたのではないかな?と私は思っています。

フォルクスワーゲンのディーゼル問題、タカタのエアバック問題、最近で言えばデンソーの燃料ポンプのリコールの問題とか。これから電動化とか、電気自動車、電脳化、エレクトロニクスとか、デジタル技術がどんどん入ってくると、間違いなくリコールの数は増えてきます。ですからADASも含めて今、ある意味リコールのない自動車メーカーはないくらいですからね。

ただその時に、私はもう幾度となくこの場で言ってますけども、アメリカと日本の制度は違うってことをよく理解しておいてください。日本とヨーロッパはメーカーが許認可制を持ってますから、政府が掲げた安全基準は絶対にクリアしない限り、製造して販売はできない。アメリカは自己認証制度なので、自分でやったよ!って言えば販売できます。

しかし、後で抜き打ち検査とか来ると、厳しい懲罰的民事訴訟っていうのが、民事責任が待ち受けています。アメリカの方が結果的には、結果責任に対して厳しい、その責任を課すのが、アメリカの合理的な考え方。

ダイハツ不正問題についてのオレの考えを語ろう
ダイハツ不正問題についてのオレの考えを語ろう

日本もそろそろ制度は見直して、こういう不正を行った人にはその都度、厳しい懲罰を与えるっていうようなやり方も必要だし、いろんな試験法が非常に複雑になってきている。今回の問題っていうのは、もう少し簡素化したり、社内のシミュレーションデータなんか使いながら、自動車メーカーの負担も少し軽くしてあげないと、試験法ばっかり増えて開発の日程はもう決められてますから、そこに試験の数が増えたら当然、お受験の受験勉強する時間もなくなってしまうので、知識が足りなくなる人たちも増えてくのかなと思います。

ダイハツユーザーの人たちは、そんなに安全性を気にする必要はないという風に考えています。私は、ですね。

今後、国がもう少し踏み込んだ裁定をすると思いますので、それを待つしかない。


2024年、年が明けてもこのダイハツ問題は何度かニュースにも取り上げられ、新たな不正も発覚。しかし、清水さんもお話しているように、厳しい試験に一番に賛成した、あの熱い時代のダイハツ魂を再び、ユーザーの皆さんへ届けていただきたいです。

(試乗:清水 和夫/動画:StartYourEnginesX/アシスト:永光 やすの

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ソニポンより速いロッキーGに乗ってみたら、トヨタと差別化したダイハツのオリジナリティが生きていた!【清水和夫StartYourEnginesX】
https://clicccar.com/2019/11/22/932391/

【関連リンク】

ダイハツ
https://www.daihatsu.co.jp/top.htm

StartYourEnginesX
https://www.youtube.com/user/StartYourEnginesX

この記事の著者

清水和夫 近影

清水和夫

1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、スーパー耐久やGT選手権など国内外の耐久レースに参加する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。
自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。clicccarでは自身のYouTubeチャンネル『StartYourEnginesX』でも公開している試乗インプレッションや書下ろしブログなどを執筆。
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