圧倒的な空力ボディで独自の個性を創造した先進セダン「アウディ80(3代目)」【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判:輸入車編】

●近現代アウディのデザインを自社デザインで実現

80~90年代輸入車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。第9回は、徹底して磨き上げた空力ボディを個性にまで仕立て上げた、新時代セダンに太鼓判です。

80年代に掲げた「技術革新による前進」のスローガンを、画期的な空力ボディで提示した3代目のアウディ100。その革新性を、ひと回り小さなボディでさらに磨き込んだのが、1986年に発表された同じく3代目のアウディ80です。

アウディ80・メイン
専攻した100よりさらに凝縮度を高めたボディ。2.5ボックスのプロポーションが先進的

先進的でクリーンではあるものの、大型化で若干の緩さを感じさせた100に対し、先代とほぼ同じサイズに止められたボディは、凝縮感にスポーティさを加えた軽快な2.5ボックスシルエット。

フラッシュサーフェスが徹底されたボディは、単に段差をなくしただけでなく、「ナチュラル」「ソフト」というテーマにより独特の繊細さを持つもの。さらに力強いショルダーラインにより豊かで張りのある面を実現。高い質感を表現します。

あえて素材色とされた前後バンパーは、太いサイドプロテクターとの組み合わせで高い機能性を示すとともに、ボディの引き締めをより強く表現します。さらに、ある種のカジュアルさを感じさせるのも興味深いところ。

アウディ80・サブ
端正なフロントフェイスと、素材色のバンパーがカジュアルさを演出

シンプルなフロントグリルとリアパネルは、しかし上下にラウンドした空力形状により質感をキープします。とくに比較的大型のリアランプは、サンドイッチ状にパーツを並べることで独自の表情を持ち、ブラックのガーニッシュとのセットが先進感をも提示。

上面を一体成型の大きなパッドで覆ったインパネは大型のメーターが高い視認性を持ち、また四角く縁取られた空調やオーディオなどの操作部は整然かつ精緻なイメージ。X型のステアリングホイールはボリューム感を増し、大きく質感を上げました。

80年代に空力に注目したこと自体は珍しくありませんが、これを突き詰めることでエクステリアの「個性」に昇華させた発想は希有です。しかも、単調な流線型に陥ることなく、成功したクアトロなどの要素を生かした、機能的でシンプルな造形にまとめ上げたのは賞賛に値します。

近現代アウディのデザインを確立させた80ですが、外部スタジオに頼らず、ハルトムート・ヴァルクス率いる自社デザイン部でこれを達成したのも注目点です。優秀なデザイナーがメーカー間を行き来する、欧米独自の文化の走りとも言えそうです。

●主要諸元 アウディ 80 2.0E (3AT)
全長4395mm×全幅1695mm×全高1385mm
車両重量 1140kg
ホイールベース 2550mm
エンジン 1984cc 直列4気筒SOHC
出力 110ps/5300rpm 17.3kg-m/3250rpm

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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