●ダウンサイジング・ターボが映し出すコンパクトカーの可能性とは?
さて、突然ですが、これはふつうの試乗記ではありません。
もちろん、8月22日にマイナーチェンジされた新型ルノー トゥインゴの紹介ではありますが、ステアリングフィールや限界域での挙動、RRの特性といった話は一切出てきません。トゥインゴを例に、いわゆるダウンサイジング・ターボについて考えてみようという、ちょっと変わった試乗記です。
いま、日本のAセグメントを見ると、市場の4割を占める軽自動車の躍進ぶりに目を見張ります。かつて「ゲタ代わり」といわれた軽は、上級車と同等の快適装備はもとより、最近は自動ブレーキをはじめとした運転支援機能も万全です。
ただ、変わらぬ排気量規格による走りはちょっと別。エンジン自体の改良や変速機の効率アップなどで一時期よりは随分よくなったとはいえ、あくまでも「660ccにしては」という前置きが付いての話です。
とくにNAの場合、どうしても高回転を多用する運転がストレスですし、何より燃費が思ったほど伸びません。ターボは走りに余裕があるものの、排気量が660ccということでさらに好燃費は望めません。
一方、ひとつ上の小型車群を見ても、高額なストロング・ハイブリッド以外は、1.3リッター前後のNAエンジンが基本。660ccの倍の排気量は軽のような絶対的不足感はありませんが、それでも一回り大きなボディに対する余裕はなく、CVTなどの巧妙な制御でパワーを引っ張り出している感覚が強いです。
さて、そこでトゥインゴです。
わずか全長3645mmのボディに載せた897ccの3気筒DOHCターボエンジンは、妙な規格にとらわれず92ps・13.8kgm/rpmの出力を誇ります。しかも、ミッションはこのクラスにして6速EDC(エフィシエント・デュアル・クラッチ)を搭載。爽快な走りと実燃費のよさが期待されます。
実際、試乗会場から流れの速い青山通りに出ると、わけもなく合流できたばかりか、そのまま流れをリードするほど。これはと思い、外苑の並木道でチョット踏み込んでみると、リアからの蹴り出しで驚くほどの加速を感じます。
それじゃあ、と首都高に入って高速域を試すと、湧き出すようなパワーでこれまた速い流れに難なく乗り、「もっと空いていれば」と思わせるほど。さらに、高速を下りて代々木や渋谷界隈の坂道を試すと、速度が落ちることなくガンガン上って行きます。
いずれも、小さなエンジンのピークをミッションが引っ張り出すのではなく、分厚いトルクで車体を「持っていく」感触が特徴的です。つまり、無理をしている感じがまったくない。アクセルを踏めば必要なときに必要なだけ力が出てくる感じです。
もちろん、Aセグメントとして割り切っている部分もありますが、少なくともエンジンやミッションなど走りの部分に「小さい」ことを言い訳とした手抜きがありません。サイズは関係なく、パッセンジャーカーは平地はもちろん、坂道も高速も難なく走らなくてはいけないという真っ当な考えがここにあります。
ですから、「過給器は軽ではカスタムなど上級グレード、小型車はスポーティタイプに…」なんてことじゃなく、もはやベースエンジンとして考えるべきではないかと。つまり、過給器は特別なものじゃなく、最低限の走りを保証する基本機能ということです。
今後、日本の高い技術力で、より小排気量のフルハイブリッドといった展開もあるかもしれませんが、少なくとも現状ではトゥインゴのダウンサイジング・ターボは、極めて現実的かつ理想的な回答と言えそうです(今回は短い試乗で燃費は測れませんでしたが)。
あ、そうそう。軽自動車についてはターボ云々ではなく、いい加減排気量の見直しをした方がいいのではないでしょうか。
●ルノー トゥインゴ EDC(6速) 主要諸元
全長:3645mm×全幅1650mm×全高1545mm
車両重量:1020kg
ホイールベース:2490mm
エンジン:897cc 直列3気筒DOHCターボ
出力:92ps/5500rpm 13.8kg-m/2500rpm
(すぎもと たかよし)