新型ホンダ・N-WGNの走りの質感は「そこらの軽」を完全に凌駕! ホンダセンシングの安心感も魅力【元メーカー開発エンジニアの本音評価】

●これほど完成度の高い「ハイトワゴンの軽」は未だかつてなかった

新型N-WGNの凄さは、「走り出して30秒」で実感できます。N-WGNの「良い点」、そして「気になる点」について、元自動車メーカー開発エンジニアの視点で、指摘していきます。

良い点①ノイズ・バイブレーション(NV)がしっかり抑え込まれている

走りだしてすぐに分かる「ロードノイズの静かさ」は、ライバルに対して一歩抜きんでています。静かになったと評価されている新型日産デイズやeK/ワゴンよりも、一段と静かだと感じました。ロードノイズを低減すると気になりはじめる「風切り音」もさほど気になりません。

ホンダエンジニアの方は「N-BOXの開発でNVを徹底的に消し込んだ経験があったので、N-WGNでは車体へ効果的な対策ができました。車体に関しては、相当力を入れています。車体のパネル接合には、通常のスポット溶接に加え、連続溶接、フロアの一部にはボディ用接着剤を使っています。この効果によって、フロア振動の低減、フラットライド間の向上、NV改善が可能となりました。数値シミュレーションでは差がでにくい性能を体感していただいたのは、本当に嬉しいです」とおっしゃっていました。

また「ロードノイズ改善により、風切り音が目立つようになりましたが、フロントガラス周りにモール追加し、先代は1重だったリアドアのシールを今回は2重にしました。その結果、戸締り音も改善しました。我々も質感が上がったと自認しています」とも、おっしゃっていました。

良い点②ゴツゴツした路面でも乗り心地の質感が高い

石畳のような、ごつごつした路面を走行しても、この新型N-WGNはフロアやステアリングがワナワナと振動することが少ないです。タイヤやサスペンションだけではない、車体全体で振動分散ができているように感じます。このフィーリングはライバル車よりも優れていると感じました。

ホンダエンジニア「まさにこれも車体が効いているのだと思います。質感を上げるため、リア周りに構造用接着剤を使用しました。車体設計としては、車体接着によって実現できる「走りの質感向上」を、社内で理解してもらうのに大変苦労しました。ただNのチームとしては、軽の弱点と感じていた質感で勝負したいと考え、突き詰めてやりました」

良い点③「そこらの軽」を超えた運転支援技術による走りの安心感

新型N-WGNに標準採用となった先進運転支援技術(ACCとLKAS)は、小さなボディのN-WGNに運転の頼もしさを与えてくれます。希望速度をACCで設定してスイッチを入れれば、滑らかに加速をして車速維持をしてくれます。

軽くて背が高くタイヤも細い軽自動車では、どうしても感じてしまう「運転時の不安感」を払しょくし、まるでフィットクラスの様な運転の安心感が得られ、乗っているのが「軽」ということを忘れてしまうほど。前走車に追いついても、適切な車間距離を保ちながら追従してくれ、停止までしてくれます。万が一の車線逸脱も、LKASがハンドルを修正してくれるので、実に快適な運転ができます。

ホンダエンジニア「他メーカーがオプション設定だったり、車速制限があったりする中で、ホンダは全車速標準採用としました。弊社もはじめはやりすぎかと思いましたが、お客様の安全のことを考えて、惜しみなく最新技術を盛り込みました」

気になる点①ACC使用時の右足の置き場がない

ACCを入れた後、右足の置き場がないため、右足は、ペダルの手前で立てる感じで置くことになり、結果的に救急時のブレーキ操作が遅れかねません。左足はフットレストで、右足も対照的な位置に置いて休ませることができると、長距離運転する際に、圧倒的に疲れにくくなります。

ホンダエンジニア「右脚のフットレスト設置の検討はしていましたが、付けなかった理由が二つあります。ひとつはホイルハウスに置きたかったのですが、やはり軽ですのでスペース不足により実現できませんでした。もうひとつは、現時点のホンダセンシングは完全な自動運転ではないので、右足を休ませるという操作を、積極的に啓蒙することができないためです。ただし、多少右足が引っかかる様な所はもうけています。」

緊急回避操作のために右足フットレストは不要、という理屈は分からなくはないですが、2つ目の「完全自動運転じゃないので…」という理由には、筆者は同意しかねます。アクセルペダルの右側に、突起や足を引っかけるところがあれば、踵を視点にした右足の動きが作れるはず。フォルクスワーゲンゴルフなどの一部の欧州車では、右足フットレストがすでに装着されています。「そこらの軽」を突き抜けるためには、そうしたチャレンジングも入れて欲しいところです。

気になる点②横風によるあおりを受けた後の車両挙動

N-WGNだけが特別悪いわけではないのですが、横風を受けた後の挙動が大きく感じました。試乗した日は、横風がアクアラインの掲示板で横風10m/s程度とやや強風だったため、不利な環境条件ではありましたが、横風を受けるとクルマ全体がタイヤ1-2本分、横に持っていかれます(ACC、LKASは入っている状態)。

ホイールベースやトレッド、車重など、N-WGNでは不利な条件であるのは承知していますが、外乱に対するヨー挙動制御系での対策が、もっと欲しいと感じる瞬間がありました。

ホンダエンジニア「上屋があおられて横に流されるのは、サスペンションなどの足回りを固めて踏ん張らせることはできますが、乗り心地と背反になります。乗り心地を悪化させずにボディモーションを小さくするよう、足周りのセッティングは良い所に置いています。制御系でのやりようはあったかも知れません」

まとめ

ホンダ渾身の新型N-WGN、必死に「アラ」を探しても、重箱の隅を突くような指摘しかできないほど、素晴らしい仕上がりでした。これほど完成度の高い「ハイトワゴンの軽」は未だかつてなかったと感じます。N-BOXほどの大きな「軽」はいらないけれど、質感の高い「軽」が欲しい方には、おすすめの一台です。

(文:吉川賢一/写真:鈴木祐子)

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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