【自動車用語辞典:パワートレイン制御「ディーゼルの後処理制御」】エンジン以降で行う排出ガス低減処理

■DPFやNOx触媒などが代表例

●2段階に分けて処理を行う方法が主流

ディーゼルエンジンの排出ガス低減は、ガソリンエンジンに比べると難易度が高く、DPFやNOx触媒などの後処理システムが必要です。また、それらの触媒を有効に機能させるための高精度な制御技術が求められます。

排出ガス低減のための後処理技術とその制御技術について、解説していきます。

●ディーゼルエンジンの排出ガス低減手法

排出ガス規制の対象となる成分は、CO、HC、NOx、PM(Particulate Matter:粒子状物質)です。ディーゼルエンジンでは、酸素不足に起因する煤を主にするPMと、燃焼温度が高いことによって発生するNOxの低減が最大の課題です。PMとNOxがトレードオフの関係であることが、より低減を困難にしています。

排出ガスの低減には、エンジンの燃焼制御によって低減する方法と、エンジンから排出された後に触媒などの後処理技術を組み合わせて対応します。

欧州のEuro6や日本の新長期規制のような最新の排出ガス規制に適合するためには、一般的に前段に酸化触媒とDPF、その後段にNOx吸蔵触媒か、尿素SCRを組み合わせた後処理システムが採用されます。

前段の酸化触媒とDPFはPM低減のために、後段のNOx吸蔵触媒、または尿素SCRはNOx低減のために機能します。

●PM低減のためのDPF再生制御

DPFの前に装着される酸化触媒は、COとHCを浄化させる機能とともに、後流のDPFに堆積したPMを燃焼除去するために排出ガス温度を上げる役目も担っています。

DPFは、隣接するセラミック製のセルが交互に目封じされたウォールフローのフィルタです。

PMの堆積量が既定量に達したら、エンジン制御(ポスト噴射)によって排出ガス温度を上げながら、未燃のHCを酸化触媒で反応させます。この昇温によって、DPF内部の温度をPMが燃焼する650°まで上昇させ、堆積したPMを燃焼除去します。

これを再生制御と呼び、DPFのPM堆積量は差圧センサーを用いて前後の差圧から求めます。条件にもよりますが、通常再生制御は数百km程度に1回の頻度で行います。

DPFの構造図
触媒層を通すことで排出ガス中のPMを低減する
DPF再生制御の図
PMの堆積量が既定量に達したら、エンジン制御(ポスト噴射)によって排出ガス温度を上げながら、未燃のHCを酸化触媒で反応させる。これを再生制御と呼ぶ

●NOx吸蔵触媒のリッチスパイク制御

NOx吸蔵触媒では、エンジンから排出されたNOをNO2に酸化して、いったん触媒の吸蔵材に吸蔵させます。一定量吸蔵した時点で、一時的にエンジン制御によって濃い空燃比のリッチ燃焼にします。このとき排出されるHC、CO、H2が還元剤となり、吸蔵したNO2をN2に還元するという手法です。

この定期的にリッチ燃焼を行うことをリッチスパイク制御と呼びます。リッチスパイクの頻度は、運転条件によっても変わりますが、数分間に数秒の割合で行います。

このとき発生する空燃比変化に起因するトルクショック(変動)を抑えることも、エンジン制御の重要な役目です。

DPF+NOx吸蔵触媒による後処理
DPFとNOx吸蔵触媒を組み合わせた後処理システム
NOx吸蔵触媒の浄化
HC、CO、H2を還元剤に使い吸蔵したNO2をN2に還元する

●尿素SCRの噴射制御

尿素SCRシステムは、尿素を高温の排気ガス中に噴射し加水分解によってアンモニアを生成し、アンモニア(NH3)によって、NOxをN2に還元する手法です。NOx吸蔵触媒よりも浄化効率は高いが、システムが複雑でコストが高くなります。

尿素タンクや尿素噴射弁などの尿素噴射システムが必要ですが、NOx吸蔵触媒のようにエンジン制御でNOx還元のためのリッチ雰囲気を作る必要がないので、制御は比較的簡単です。

尿素噴射は、運転条件に応じて(NOx排出量が多いとき)に常時適量を噴射します。

DPF+尿素SCRによる後処理
尿素を高温の排気ガス中に噴射して加水分解によりアンモニアを生成し、アンモニア(NH3)によって、NOxをN2に還元する手法

●小型車にはNOx吸蔵触媒も

NOx触媒としては、浄化効率が高い尿素SCRが主流となりつつありますが、システムが簡素で低コストなNOx吸蔵触媒が小型車で採用される傾向があります。


ディーゼルエンジンの後処理は、ガソリンエンジンの三元触媒システムに比べて、格段に複雑で高コストです。これが、低燃費でありながらディーゼルエンジンの普及にブレーキをかけている最大の理由です。

ディーゼルエンジンが生き残るためには、後処理の負担を軽減するHCCIのような燃焼制御で排出ガスを低減するような新たな燃焼方式が必要です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
続きを見る
閉じる